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「CSV」で企業を視る/(30)新たなコミュニティが創出する価値

2015年04月01日 ESGリサーチセンター、小崎亜依子


 本シリーズ30回目となる今回は、CSVの3つ目のアプローチ、産業クラスターを組成するというかたちで、企業が拠点を置く地域を支援する取り組みを取り上げる。
 近年、会社でも自宅でもない第三の場所であるサードプレイスが、人々の生活を豊かにするとして、注目が集まっている。サードプレイスは、米国の社会学者 レイ・オールデンバーグ (Ray Oldenburg)が提唱した概念である。以下、サードプレイスとなるようなコミュニティ作りに取り組む事例を2つ紹介する。

3×3 Labo
 3×3Laboは、エコッツェリア協会(一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会)が開設した大手町・日本ビル内にある登録制オープンスペースである。エコッツェリア協会の運営には、三菱地所を中心として複数の企業がかかわっている。
 3×3 Laboは「3Gear×3rd Place Laboratory」の略で、サステナビリティの3要素「経済・社会・環境」がギアのごとく噛み合い、業界業種の垣根を越えた交流・活動拠点として機能する場所を意味する。業界業種の垣根を越えた交流・活動拠点として機能する場所を目指し、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアでのCSVビジネスを創出する場として位置付けている。
 CSRイノベーションワーキンググループ、環境経営サロン、地球大学Committeeなどのサステナビリティに関連した様々なイベントが開催され、一方向的な講演ではなく双方向的なワークショップスタイルが多いのが特徴の1つとなっている。また、毎週水曜には、お弁当を持ち寄る「さんさんランチーズ」を開催し、会社や立場を超えたフラットなコミュニティ作りにも取り組んでいる。

カタリストBA
 カタリストBAは、二子玉川ライズ内に位置し、フロアオーナーである東京急行電鉄、内装や空間デザインを手がけたコクヨファニチャー、日常的な運営を担う春蒔プロジェクト(co-lab)の3社が運営を行っている。
 カタリストBAは、英語のcatalystが触媒という意味を持つとおり、何かの触媒となる場所としてデザイン・運営されている。多様な主体が集まり、交わることで新たな可能性が生まれると考えている。
 現在カタリストBAは、国際競争力のある創造的産業育成に果たすべき都市(クリエイティブシティ)のあり方を検討するクリエイティブ・シティ・コンソーシアムと、クリエイターの集合体としてのco-labが同じ場を共有しながら活動している。背景の異なる人々の交流からイノベーションを創出するという場であり、ゆるやかに拠点を置くという新しい働き方の実践の場ともなっている。

 このように、不動産企業が中心となって、サードプレイスとなるコミュニティ作りへの取り組みが始まっている。こうしたコミュニティ作りは、拠点を置く地域の不動産価値を向上させることで、不動産会社には直接的なメリットがある。治安が良い、緑が多いといったことに加えて、今後は面白い人が集う場所があるといったことも不動産価値の重要な要素となってこよう。
 さらに、こうしたコミュニティが自らを新しいビジネス創出やイノベーション創出の拠点と捉えていることからすると、新たな事業機会をいちはやく把握することも可能かもしれない。もちろん、把握した後で企業がどのように絡むかによってその価値は変わろうが、成熟市場では新たな事業機会の把握が困難になっていることを考えれば、その価値は小さいとはいえない。
 一見、社会貢献の一部として捉えられなくもない企業のコミュニティ作り支援であるが、そこから創出される価値は予想以上に大きいのではないかと考える。

参考情報
エコッツェリア協会 ホームページhttp://www.ecozzeria.jp/nipponbldg33/index.html
カタリストBA ホームページ http://catalyst-ba.com/

*この原稿は2015年3月に金融情報ベンダーのQUICKに配信したものです。
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