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CSRを巡る動き:企業の女性活躍支援の推進と投資家からの関心喚起の実現

2015年02月02日 ESGリサーチセンター


 政府は、2020年までの主なKPI(成果目標)として、指導的地位に占める女性の割合を2020年までに少なくとも30%程度、25~44歳の女性就業率を73%にすることを目標に掲げています。その目標を達成するため、政府が行う女性の施策のなかには、経済産業省と東京証券取引所が共同で行う「なでしこ銘柄」をはじめとし、女性の活躍支援策やその情報開示に優れた企業を表彰する取組みなどが含まれています。このような取組みは、女性の活躍支援に取組む企業への株式投資に対する投資家の関心喚起を促し、投資家からの株式購入を期待した企業が女性の活躍支援策やその情報開示を推進していく、という好循環につながると考えられています。その好循環が生まれることによって、日本の上場企業全体の女性活躍支援が推進されることが期待されています。

 日本総合研究所では、CSR報告書等の開示情報を対象に、東証一部上場企業における女性管理職・役員の情報に関する開示状況を調査したところ、女性管理職・役員の存在を開示している企業は、2012年度時点では183社でしたが、2013年度は384社となり、約2倍に増えています。また、女性管理職比率や女性登用に関する目標の有無・内容といった情報を掲載している、内閣府の女性活躍「見える化」サイトでは、2014年12月時点で上場企業1,232社の情報が開示されています。企業の女性活躍支援に関する情報開示が推進されている状況が窺えます。

 一方、女性活躍を進める企業に投資しようとする関心は大きくなっているでしょうか。年金シニアプラン総合研究機構(2013)「ESG投資に関する運用会社アンケート結果」によれば、機関投資家が現在提供している運用戦略(アクティブ戦略)において、企業評価や投資判断を行う際に重視しているESG情報として、「人材の育成(若手・女性・高齢者)」と回答した機関投資家の割合は8%です。経済広報センター(2013)「第17回 生活者の“企業観”に関する調査報告書」によれば、女性の活躍に対する企業メリットとして、「株価や業績に影響を与える」と回答した一般生活者の割合は3%です。機関投資家や一般生活者において、女性活躍支援に取組む企業への投資については非常に関心が低いことが窺えます。関心が低い理由としては、女性の活躍支援が業績や株価等の企業の価値向上に寄与するという認識が低いことが背景にあると考えられます。

 女性活躍支援に取組みを進め、その情報を開示した企業が、投資家から関心を持ってもらうためには、投資家向けの媒体で、投資家にとって関心の高い内容を開示に加えていくことが必要だと考えます。ある大手食品メーカーでは、結婚・出産後の女性の定着率が向上し、工場でも時短勤務者が増加したため、時間内に終わる仕事がない現状を改善するために、ライン製造できない詰め合せ商品をつくることを時短勤務者が経営委員会に提案して実現し、時短勤務の女性従業員の生産性を上げることに成功しました。この事例は、CSR報告書だけではなく、投資家向けの媒体でも一部紹介をし、自社の女性活躍支援が企業価値の向上に寄与していることを開示しています。

 企業の女性活躍支援に関する情報開示は増えていますが、その内容の多くは、女性の登用に向けた制度や女性管理職比率、仕事と家庭両立支援制度の取組みが中心となっています。投資家の関心を喚起させるためには、投資家向けの媒体で、現在実施している自社の女性活躍支援策が、実際に企業価値の向上に向けて、どのように寄与しているか、具体的事例を情報開示していくことが有効な取組みの1つだと考えます。企業側にとっても、そのような情報開示を意識することが、自社の女性活躍支援の取組みを行う目的や意義を見直す格好の契機になるのではないでしょうか。
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