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アジア・マンスリー 2014年7月号

【トピックス】
縮小する中国の所得格差

2014年07月01日 関辰一


中国では、沿海-内陸の格差、都市-農村の格差、都市内の格差という三つの所得格差が縮小の方向にある。持続的な格差是正に向けては、都市部と農村部の一元化や一段の規制緩和が求められる。

■縮小する所得格差
中国では所得格差が拡大し続けている印象があるものの、実際には格差は縮小方向にある。本稿では、沿海-内陸の格差、都市-農村の格差、都市内の格差という三つの所得格差について、順を追ってみていきたい。
まず、沿海-内陸の格差は2007年以降総じて縮小傾向にある。東部11省・市の所得水準が緩やかな伸びにとどまる一方、中西部20省・市・自治区の所得が高い伸びを維持したため、一人当たり可処分所得における東部の中西部に対する倍率は2006年の1.44倍をピークに、2013年にかけて1.39倍に低下している。

2000年代半ば以降、沿海部で生産拠点としての魅力が大きく低下したことから、企業は内陸シフトを進めている。固定資産投資の内訳をみると、中西部での民間企業の投資が2000年代半ばから急拡大し、全体に占める中西部のシェアは2005年の38.5%から2010年に51.7%へ上昇した。2013年の中国への外国直接投資をみても、中部が前年比8.8%増、西部が同7.0%増と比較的高い伸びであった一方、東部は同4.7%増にとどまった。投資の拡大に伴い内陸部の労働需要も拡大しており、中西部の賃金は東部を上回るペースで上昇している(詳しくは、アジア・マンスリー2014年3月号「拡大する中国内陸部の消費」を参照)。

次に、都市-農村間の所得格差も2010年から縮小傾向にある。近年、農村部の所得が都市部よりも速いペースで上昇するようになり、都市部一人当たり可処分所得の農村部一人当たり純収入に対する倍率は2009年の3.3倍から2013年に3.0倍に低下している。

この背景には企業の農村進出や出稼ぎ収入の増加などが指摘できる。食品加工メーカーが工場を農村部に建設する動き、農業用機械メーカーが販売・サービス拠点を設立する動き、小売業が販売網を整備する動きなどが観察されるなか、こうした地元企業に勤める農民の賃金が急上昇している。実際、農村部の一人当たり現金収入の内訳をみると、地元企業賃金は2009年(997元)から2012年(1,781元)にかけて年平均21.3%で増加した(資料:国家統計局『中国農村住戸調査年鑑2010』、『中国住戸調査年鑑2013』)。また、都市部への出稼ぎによる賃金収入も農民の収入増加に寄与しており、農村部の一人当たり現金収入のうち、出稼ぎ賃金は850元から1,424元へと年平均18.8%増加した。

さらに、こうした副業だけではなく、本業である農林水産による収入が都市部の可処分所得と並ぶペースで増加していることも大きい。農村部一人当たりの農林水産による現金収入は2009年の2,810元から2012年に3,990元へ増加し、年平均増加率は12.4%と都市部一人当たり可処分所得の同12.7%とほぼ同水準であった。その要因として農作物や肉類の価格上昇と農民の生産性向上が指摘できる。米国コンサルティングファームのシニア・パートナーであるシルバースタイン氏らの研究報告<マイケル・J・シルバースタイン、アビーク・シンイ、キャロル・リャオ、デビッド・マイケル(2014)『世界を動かす消費者たち』ダイヤモンド社>によると、これまで中国の農民は市場価格や農業技術についての情報が十分に手に入らないために、種子や肥料などについて知識が乏しかったが、近年では携帯電話の普及を背景に、ウェブなどで重要な情報が得られるようになり、適切な種子や肥料が使用されるようになりつつあるという。

第三に、都市内の所得格差も2009年以降縮小しつつある。都市における下位20%の世帯の可処分所得は2ケタの伸びを続けており、その結果、上位20%層に対する所得倍率は2008年の5.7倍から2013年に4.9倍に低下している。

近年、大卒数の急増を受けて、ITなど人気の高い業種では、わずかな求人に対して多数の求職者が集まる一方、労働条件が劣る工事現場や工場などでは、人手不足が問題となっている。この結果、高賃金の職種の賃金上昇率が低く、低賃金の賃金上昇率が高い状況が続いている。国家統計局によると、2008年時点で建築業の2.6倍であったIT産業の平均賃金は、2012年には2.2倍まで低下した。

■持続的な格差縮小に向けて
以上のように縮小方向にあるとはいえ、中国の所得格差は依然大きい。格差を生み出す最大の要因は、一つの国の国民が政策によって分断され、9億人もの農業戸籍人口が都市戸籍とは異なる待遇を受けていることにある。例えば、都市部では1998年の改革により住宅を私有化したが、農村部では公有制が続いている。この結果、農村と都市では家計に資産格差が生じているほか、地方政府がわずかな補償金で農民から土地使用権を徴収するという問題が発生している。加えて、国有企業や地方有力企業が優遇されるケースが未だに多く、格差是正の足かせとなっている。

持続的な格差縮小に向けて、都市部と農村部の一元化や一段の規制緩和が欠かせない。2013年11月の「三中全会」では、政府機能を転換して民間の活力を生かすこと、都市部と農村部の二重構造を是正することを決定した。このうち、民間活力の分野については、交通インフラ、情報通信、発電など規制緩和の対象分野が相次ぎ具体化しており高く評価できるものの、土地・戸籍制度改革については目立った進展がみられていない。3月の全人代で農民が現在住んでいる住宅に対する私有権を認めていくことを2014年の重要な政策課題に設定したが、試験区の拡大など具体的な動きは目下みられない。