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アジア・マンスリー 2013年6月号

厳しい環境下の韓国自動車産業

2013年06月05日 向山英彦


韓国自動車メーカーは、国内市場では輸入車のシェアが上昇する一方、米国市場では2012年末以降の急速な円安・ウォン高の影響により販売が伸び悩むなど、厳しい環境に置かれている。

■上昇を続ける輸入車のシェア
韓国国内では自動車販売が伸び悩むなかで、輸入車のシェアが上昇傾向にある。
輸入車の市場規模は依然として小さいものの、着実に拡大して2011年に初めて10万台に乗った。12年は韓国車の国内販売台数が前年比▲2.4%となったのに対して、輸入車の販売台数は24.6%増の13万858台となり、国内の自動車販売全体に占めるシェアは8.5%となった。
自動車に対する個別消費税引き下げ措置(12年9月実施)が12年末で終了したため、12年秋以降増勢が強まった自動車販売台数が13年入り後再び伸び悩み、1~4月は+0.4%(前年同期比、以下同じ)にとどまった。他方、輸入車の販売は+20.9%と安定的に伸びており、全体に占めるシェアは9.8%へ上昇した。
近年、欧州車なかでもドイツ車のシェア上昇が顕著になっており、VWグループ(Audiを含む)は07年の16.4%から12年に25.6%、BMWは14.3%から21.5%へ上昇した。11年以降欧州車のシェアが上昇している要因に、①韓国とEUのFTA発効後、大型車に対する関税率が引き下げられたこと(8%から5.6%へ)、②欧州の景気が悪化したため、欧州車メーカーが高級車ニーズのある韓国市場での販売に力を入れたこと、③20~30歳代の若年富裕層(医者、弁護士などの専門職)を中心に、欧州車に対する人気が上昇したことなどがある。
欧州車の攻勢と東日本大震災の影響により、日本車のシェアは10年から11年にかけて著しく低下した。巻き返しを図るためにとられた戦略が、韓国政府が締結したFTAの活用である。韓米FTAの発効(12年3月15日)に伴い、米国製乗用車に対する関税率が8%から4%に引き下げられた結果、日本から輸出するよりも関税面で有利になる上、それまでの「超円高」による価格競争力の低下を回避する狙いもあった。
トヨタ自動車は11年11月、ミニバンのシエナを皮切りに、12年より新型カムリ(旧型は日本から輸出していた)、11月にヴェンザ(SUVとセダンの融合)を米国から韓国に輸出した。この戦略が功を奏し、新型カムリは12年に輸入車売上ランキング2位になったほか、同年の「カー・オブ・ザ・イアー」に選定された。
輸入車のシェア上昇に伴い、現代自動車グループ(起亜自動車を含む)は値引きや「輸入車キラー」の投入を迫られている。これまで、同グループは圧倒的なシェアに支えられた価格支配力によって大きな利益を確保し、それを研究開発や海外事業展開、広告宣伝などに振り向けてきたとすれば、輸入車のプレゼンスの拡大はそれを難しくさせることになる。

■陰りがみえる米国での販売
12年12月26日、日本で安倍政権が誕生した。大胆な金融政策として2%のインフレターゲットの設定、その実現に向けた無制限な金融緩和を打ち出したことにより、急激な円安・ドル高が進んだ。他方、ウォンがドルに対して上昇したため、11年10月に100円=1,500ウォン台で推移していたウォン・円レートは12月に1,200ウォン台、13年1月に1,100ウォン台、5月には1,000ウォン台へ上昇した。
短期間に円安・ウォン高が進んだため、輸出産業を中心に企業業績への影響を懸念する声が相次いだ。13年に入り米国での販売が伸び悩み始めたことに加え、ウォン高によって現代自動車では1~3月期の営業利益が前年同期比▲10.7%、起亜自の営業利益は▲35.1%となった。ちなみに、現代自動車グループの米国でのシェアは1、2月の7%台から3月8.1%、4月8.6%へ上昇したが、12年通年のシェア(8.7%)を下回っている。
現代自動車は海外生産を進めているものの、国内生産比率が日本企業と比較して高いのが特徴である。米国では12年、現地生産現地販売(エラントラ、ソナタ)が30万9千台、韓国から輸出されたのが35万1千台となっている。このため、米国での販売は為替レート変動の影響を受けやすくなっている。
他方、中国とインドでは基本的に現地で販売される車は現地で生産している。4月の中国での販売は前年同月比+23.5%と、堅調を維持している。

■今後の課題
現代自動車グループがこれまで国内生産を重視してきた理由には、①FTA(自由貿易協定)によって近い将来関税が撤廃されること、②ウォン安のメリットを利用できること、③各国・地域で販売台数の少ない車種を国内で集中生産するメリットがあること、④工場周辺に集積する部品企業に支えられた効率的な生産ができること、などが考えられる。
韓国の工場が輸出生産拠点として機能し続けていくにはコスト競争力の強化が欠かせないが、①急激な円安・ウォン高、②賃金の上昇圧力(「経済民主化」の一環として非正規労働者の処遇改善を求める動きが広がる可能性)、③電力料金の値上げなど、経営を取り巻く環境が厳しくなることが予想される。さらに、蔚山工場で長年行われてきた徹夜勤務体制を見直して、13年3月4日より昼夜連続2交代制が実施されるようになった。交代勤務体制は蔚山、牙山、華城、全州、光州など現代・起亜自動車の生産工場労働者5万人を対象に等しく適用される。
ウォン高が進めば海外生産比率を引き上げるという選択肢もあるが、そうすれば国内の雇用環境を悪化させ、財閥に対する風当たりを強くしかねないというジレンマに陥る。この点を考えると、国内の生産性を引き上げて国内の生産能力を維持していくことが当面の課題となってこよう。厳しい環境のなかでどう対応するのか、現代自動車グループの真価が問われることになる。