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2013年3月29日

各位

株式会社日本総合研究所

地方自治体の電力関連事業への関心と関与の可能性に関する
アンケート調査結果

 

・現状では自家消費や売電目的の太陽光発電が中心、供給・需要調整関連への取り組みは遅れている
・自家発電を目的とする再エネ活用が主流だが、地域エネルギーマネジメントに関心を示す先進自治体もあり
・事業の具体化にあたっては、特に基礎自治体で官民連携型事業に意欲

 株式会社日本総合研究所(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 藤井順輔、以下「日本総研」)は、地方自治体の電力関連事業への関心と関与の可能性について、全国の地方自治体を対象としたアンケート調査を2012年11月~12月に実施しました。

 東日本大震災を契機に、わが国では大規模発電所に依存した従来のエネルギー供給システムを見直し、地域に分散した小規模なエネルギー源を活用した新しいシステムの構築が求められるようになりました。また、従来から地球規模の課題となっている温室効果ガス排出削減のため、化石燃料の使用を抑制するとともに、再生可能エネルギーへの転換も重要です。

 電力へのニーズは一様ではなく、安価で安定した産業向けの電力が必要であったり、省エネに特に配慮した住民向けの電力への関心が高かったりと地域によって様々です。今後、地域に小規模なエネルギー源を分散配置し活用していくためには、これまで大規模な電力会社では必ずしも十分にくみ取れなかった「地域ごとのエネルギー資源とニーズ」を正確に把握する必要があります。地域で発電した電力を地域内で利用していく、いわば「電力の地産地消」を実現するためには、地域の特性やニーズに精通した地方自治体の存在が鍵になると考えられます。実際に、エネルギー戦略を策定し分散型エネルギー資源の開発に取り組む山形県や、地域エネルギーマネジメント(※1)の導入を検討している東京都など、地方自治体が新たに電力関連事業への関与を深める例も増えてきています。
※1 地域エネルギーマネジメント: 住宅やビル等の様々な需要対象に対し、エネルギー利用状況の可視化や需要制御等を行い、地域全体のエネルギー利用を適切にコントロールすること

 日本総研では、地方自治体が関与する電力供給事業の現状と今後予想される展開等を明らかにするためのアンケート調査を、全国の地方自治体を対象に実施しました。
 主な調査結果の概要は以下の通りです。

【アンケート調査の概要】


1.アンケート対象および回収状況
・都道府県47団体の企画・政策部門に配布、27団体から回答(回収率57.4%)
・人口30万人以上の市および東京都特別区90団体の企画・政策部門に配布、50団体から回答(回収率55.6%)
・被災地自治体(※2)173団体の企画・政策部門に配布、82団体から回答(回収率47.4%)
上記計310団体に配布、159団体から回答(回収率51.3%)
※2 「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」第2条第2項に規定する自治体

2.調査期間
 2012年11月~12月

【調査結果の概要】

ほぼ全ての地方自治体が、電力関連事業に関心を持っている

 再生可能エネルギーや地域エネルギーマネジメント等、電力関連事業に対する関心の有無を尋ねたところ、都市部自治体および都道府県では9割以上が「関心あり」と回答しています(図-1)。復興に向けて取り組むべき課題を膨大に抱える被災地自治体においても、「関心あり」は8割以上と高い数値を示しています。
 従来、電力関連事業は電力会社を中心とした民間の領域であり、地方自治体の関与は、公営電気事業以外、認識されていませんでした。地域の電力関連事業を取り巻く状況が一変したことで、地方自治体の認識が大きな影響を受けていることが分かります。

図―1 再生可能エネルギーや地域エネルギーマネジメント等の電力関連事業に対する関心

 

地域の電力関連事業の三大ニーズは住民の意識変化への呼応・産業支援・自治体のBCP

 上記設問で関心を持った理由を尋ねたところ、「住民の環境意識が高まっているため」が最も多く46.8%、次いで「地元産業の創出・振興のため(26.2%)」、「自治体としてのBCP(事業継続計画)を実現するため(20.6%)」となりました(図-2)。震災やその後の計画停電等を経て、これまで「使いたいときに使いたいだけ」供給されるものととらえられてきた電力に対する認識が変化し、より安全・安心な電力を地域で確保したいという住民のニーズが反映されていると考えられます。産業政策においては、電力供給が不安定かつ高コストとなったことを受け、地域産業支援としての電力関連事業の重要性が上がっていることを示しています。自治体としてのBCPに関しては、防災対策として、災害時における行政機能の維持や、避難者の受け入れ等に必要な電力需要への対応が意識されていることが分かります。
 ここから、地域自治体における電力関連事業への関心は、発電側のみならず、地域住民や地域産業、公共施設等における電力の供給・利用段階にまで及んでいることが読み取れます。

図―2 電力関連事業に関心を持った理由(N=159)

 

現状では自家消費や売電目的の太陽光発電が中心、供給・需要調整関連の取り組みは検討が遅れている

 地方自治体に現在実施中もしくは計画中の発電事業を尋ねたところ、9割近くが太陽光発電を挙げています(図―3)。住民の環境意識の高まりや固定価格買取制度の施行等を受け、太陽光を中心とした再生可能エネルギー発電に積極的に取り組んでいる様子がうかがえます。
 発電した電力の利用方法について尋ねたところ、発電した施設内での消費が8割以上と最も多く、次いで一般電気事業者への売電(45.9%)となっています。一方、「周辺公共施設への供給」や「住宅への供給」「地域産業への供給」、また電力の利用に関して「系統の電線網(もしくは自営線)を用いたエネルギー需給調整」等、地方自治体自らが供給者として行う取り組みはいずれも10%未満の低い数値となっており、ほとんど検討に至っていないことが分かります(図―4、図―5)。
 ここから、現在地方自治体が行っている発電は、概して公共施設内での自家消費もしくは電力会社への売電に留まっており、電力の供給や需要調整への取り組みは、多くの地方自治体が関心を有しているにもかかわらず検討が進んでいないといえます。
 現在、地方自治体が発送電設備を保有して需要家(特に家庭)に直接供給を行うことは、電力小売りに対する様々な規制や費用面の制約から困難となっています。地方自治体は周辺公共施設や住民、地域産業に対する供給ニーズを認識していながらも、電気事業上の制約の中で十分対応できていないことが分かります。

図―3 現在実施中/計画中の事業(発電形式)(N=159)

図―4 発電した電力の用途(N=159)

  

図―5 電力利用に係る取り組み(N=159)

 

自家発電を目的とする再エネ活用が主流だが、地域エネルギーマネジメントに関心を示す先進自治体もあり

 再生可能エネルギーや地域エネルギーマネジメントにおいて、今後関心のある新たな取り組みとしては、全ての属性の団体で「公共施設への小規模発電設備の導入」が最も高い数値を示しています(図―6)。震災をきっかけに、防災拠点となる庁舎や学校施設等の脆弱性が明らかとなったことが大きく影響していると考えられます。今後は災害時等のBCPを確保するため、庁舎等の公共施設に太陽光発電設備やコジェネレーションシステム、蓄電機能等を導入する地方自治体が増えると予想されます。
 一方、都市部自治体と被災地自治体では「地域エネルギーマネジメントの実施」が次点に挙がっています。前の設問で直接供給や需給調整等への取り組みがいずれも10%以下である現状に対し、潜在的に地域エネルギーマネジメントへの関心を有する地方自治体はその2~3倍存在していることが分かります。前述のような制度的な障害はあるものの、今後はこの関心を持つ層の中から、地域エネルギーマネジメントに取り組む先進的な地方自治体が現れると期待できます。

図―6 再生可能エネルギーや地域エネルギーマネジメントにおいて関心のある取り組み

 

事業の具体化にあたっては、特に基礎自治体で官民連携型事業に意欲

 地域エネルギーマネジメントや大規模発電等の電力供給を含む取り組みに関心を示した都市部自治体や被災地自治体では、7割以上が「自治体と民間企業が協力して取り組むべき」と回答しています(図―7)。また、都市部自治体と被災地自治体に対し「民間に期待する助力」を尋ねたところ、いずれも「資金の調達」や「ノウハウの提供」等が高い数値を示しています(図―8)。ここから、地方自治体が電力関連事業に取り組む上では、制度上の制約に加え、資金やノウハウ等の不足がハードルとなっていることが読みとれます。基礎自治体は特に資金やノウハウ、人員等の経営資源が不足しがちであるため、地域エネルギーマネジメント等の電力関連事業の実施に際し官民連携型の事業スキームを想定していると考えられます。
 一方、都道府県では5割近くが最適な事業主体として「民間企業が取り組むべき」と回答しており(図―7)、民間事業の誘致を想定していることが分かります。これは、都道府県では大規模発電所の設置に関心があり、民間事業としての成立が見込めるため行政の関与は不要との認識があることに起因すると考えられます。

図―7 地域での電力関連事業に最適な実施主体

 

図―8 都市部自治体および被災地自治体が民間に期待する助力

【アンケート調査結果に対する日本総研の考え】

 これまで、電力関連事業は民間の領域であり、地方自治体の関与は限定的でした。しかし、小規模分散型に対応したエネルギー供給システムの議論が進む中、地域の実情に精通した地方自治体が一定の役割を果たすことが期待されるようになり、実際ほとんどの自治体で関心を有していることが確認されました。
 今後は、地方自治体が防災や産業政策、住民サービス等の観点から地域の電力関連事業に一定の役割を果たしていくことが予想されます。例えば、災害時のBCPとしてのエネルギーマネジメントについては多くの地方自治体が問題意識を共有し、庁舎や学校施設等における発電設備の設置、周辺公共施設への電力供給等の取り組みが進んでいくと考えられます。
 また、地域によっては地方自治体が発送電設備を整備・運営し、需要家への電力供給を行う主体となるケースもあり得ます。地方自治体は、まず地域の特性やニーズを正確に把握し、分散型のエネルギー源を用いた電力供給のシステムや事業を成立させる条件、官民の役割分担等の検討を行っていく必要があります。
 国は、地域に根差した多様な電力関連事業のあり方を踏まえ、それを困難にしている規制や慣習の見直しを着実に進めていくことが求められており、最近では平成25年2月に、総合資源・エネルギー調査会の「電力システム改革専門委員会」が、今後のわが国の電力システムのあり方を報告書にまとめています。その中では、「低圧部門(50kW未満の家庭など)」への電力小売の自由化を進めることや、新たな電力小売事業者の公正な競争環境を整えるために「発送電分離」などを進めていくことなどが提案されています。これらの電力システムの見直しの動きに合わせ、地方自治体は地域ニーズを反映した「電力関連事業」のあり方を模索していくことが期待されているといえます。

本件に関するお問い合わせ先

総合研究部門 都市・地域経営戦略グループ 日置春奈、石田直美

TEL: 03-6833-2773 FAX: 03-6833-9480

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