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アジア・マンスリー 2012年9月号

FTAで変わり始めた韓国の自動車産業

2012年09月07日 向山英彦


近年、韓国政府は積極的にFTA締結を推進している。これにより、自動車産業では輸出が伸びる一方、国内市場において輸入車の存在が大きくなり始めている。

■明暗分ける国内外の販売
韓国の自動車輸出台数は、リーマンショック後の世界的な景気後退により2009年に著しく落ち込んだものの、2010年前年比(以下同じ)29.0%増、2011年13.7%増、2012年上期10.4%増(約170万台)と、比較的堅調に推移している。この要因には、①米国の底堅い景気、②新興国の成長持続、③FTA(自由貿易協定)効果(後述)、④ウォン安などが指摘できる。

自動車の輸出が堅調なのは、上期の輸出総額(通関ベース、ドル建て)が0.7%増にとどまるなかで、自動車・同部品が15.7%増になったことからもうかがえる。

他方、国内の自動車販売台数は、2009年に20.7%増(自動車購入促進策の効果によるところが大)と高い伸びになった後増勢が鈍化し、2012年上期は▲6.0%(約69万5千台)となった(右上図)。販売の低迷には、①実質所得の伸び悩み、②債務返済負担の増大、③ソウル特別市における住宅市況の低迷(韓国では投資目的での住宅購入が多い)などが影響している。国内販売が低迷しているため、輸出比率は2011年の65.4%から2012年上期に68.1%へ上昇した。

■FTAで変わる自動車産業を取り巻く環境
EUとのFTA が2011年7月1日暫定発効、米国とのFTAが今年3月15日に発効したように、韓国政府は積極的にFTAを締結してきた。最近の自動車産業の動きをみると、FTAの影響が表れている。自動車分野に関しては、部品の関税率が発効後即時撤廃されるのに対して、完成車の関税率はEUとの間では3~5年内、米国との間では5年目に撤廃される。

EU における韓国車に対する輸入関税が2011年7 月に、排気量1,500cc 以下の乗用車は10 % から8.3 % に、1,500cc 超は同10%から7%にそれぞれ引き下げられたため、発効後EU向け輸出が急増した。その後、2012年3月まで2桁の伸びが続いたが、EUの景気自体が悪いため、4月に前年割れに転じ、5月、6月は30%を超える落ち込みとなった。また、対米輸出をみると、完成車に対する関税率は据え置かれているにもかかわらず、3月の発効前後に急増した。FTAの「喧伝効果」ともいえる。このほか2011年8月にペルーとの間でFTAが発効(大型車の関税は即時撤廃、中型車は5年内に段階的に撤廃)したことを受けて、同国への輸出が伸びている。

FTAの発効により輸出が後押しされている一方、韓国国内市場でも変化が生じている。韓国の輸入車の市場規模は小さいものの、近年着実に拡大して2011年に初めて10万台に乗った。2012年上期に韓国車の国内販売が前年同期比▲6.0%となったのと対照的に、輸入車の販売は20.5%増となった。

最近の特徴は、欧州車のシェアが上昇していることである。フォルクスワーゲングループ(Audiを含む)が2007年の16.4%から2012年上期に24.2%、BMWが14.3%から23.3%へ上昇した。2011年以降欧州車のシェアが上昇している一因に、大型車に対する関税率が従来の8%から5.6%に引き下げられたこともあり、各メーカーが高級車分野で積極的に値下げを行っていることがある。欧州車の攻勢の影響を受けたのがレクサスやインフィニティ(日産の北米向け高級車ブランド)などの日本車である。日本車の低迷には、東日本大震災と超円高なども影響した。また価格差の縮小により、韓国車から欧州車へのシフトが生じているため、韓国企業も値下げに踏み切っている。

韓国市場を取り巻く環境が変化するなかで、日本企業も韓米FTAを利用するなど新たな対応を取り始めた。トヨタは2011年11月、米国製ミニバンのシエナの韓国輸出を始めたのに続き、2012年より米国製カムリの輸出も開始した。ルノー・日産グループは最近、2014年から小型クロスオーバーSUV「ローグ」の後継モデルをルノーサムスンの釜山工場に委託生産し、米国に輸出する計画を打ち出した。経営が悪化したルノーサムスンの立て直しを図るとともに、韓国を輸出拠点として活用する狙いである。市場を取り巻く環境の変化にどう戦略的に対応していくのか、日本企業にとって重要なテーマになってこよう。