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アジア・マンスリー 2011年6月号

第12次5カ年計画が示す中国の経済発展戦略

2011年06月01日 佐野淳也


第12次5カ年計画は、消費主導型成長への転換、新しい成長産業の育成、都市化の推進による地域振興に取り組むことを明記した。中国経済の成長持続に向けて、政府による着実な執行が期待される。

■2011年の全人代における主要審議事項
3月5~14日に開催された全国人民代表大会(国会に相当、以下全人代)では、予算や国民経済・社会発展計画の審議と採択、政府活動報告に対する決議といった定例の議事に加え、5カ年計画の審議及び採択(下1桁が1ないしは6の年から、計画はスタート)が行われた。
5カ年計画とは、国民経済・社会の発展目標を示すとともに、その達成に向けた施策や産業政策、重点プロジェクトを盛り込んだ中期計画である。市場経済化の進展に伴い、個別領域への過度な指示や目標設定は少なくなったものの、5カ年計画は中国政府の経済発展戦略における最重要指針の役割を果たし続けているといえよう。

■消費主導型成長への転換等を提起
全人代終了後に公表された第12次5カ年計画(2011~2015年)の全文から、経済発展戦略のポイントは、以下の3点に集約される。
第1のポイントは、成長方式の転換である。第12次5カ年計画では、消費、投資、輸出がいずれもけん引役を果たす方式での成長を掲げたが、どの需要項目も同等に重視しようとしている訳ではない。投資の場合、「合理的な伸びを維持する」としながらも、計画性に欠ける設備拡張や重複建設を抑制していくことが明記された。貿易についても、従来の5カ年計画と比べて、輸入の拡大を輸出の拡大と同程度に重視している。
対照的に、消費は内需拡大の重点と位置付けられ、拡大促進を前面に打ち出している。間接的ではあるものの、投資と輸出に大きく依存する成長方式から脱却し、消費主導の成長を目指す政府の決意表明と解釈できる。
その消費拡大の一環として、今後5年間の可処分所得の伸び率目標(年平均で実質7%超)がGDP成長率(同7%)の目標を上回る水準で設定された。都市部、農村部の両地域とも、可処分所得の実質伸び率は、実質GDP成長率より総じて低位であったことから、所得の拡大を通じて消費を底上げしようとする政府の強い姿勢が看取される。最低賃金水準の年平均13%以上の引き上げも、同様の目的に基づく施策である。また、将来に対する不安を除去し、個人の消費マインドを高めるため、社会保障制度の拡充が提唱された。あらゆる措置を講じて、消費を喚起したい政府の強い意向の表れであろう。
第2のポイントは、新しい成長産業の育成を柱とした産業政策の推進である。第12次5カ年計画では、①省エネ・環境保護、②新世代情報技術、③バイオ、④最先端の製造業、⑤新エネルギー、⑥新素材、⑦新エネルギー自動車の7業種を「戦略的新興産業」と位置付けた。エネルギー消費量や汚染物質排出量の削減目標が絶対的な総量ではなく、単位GDP当たりで設定された点も勘案すると、「戦略的新興産業」の選定は、省エネ・環境対策の強化と成長持続を両立させたい胡錦濤政権の経済発展戦略に沿ったものといえよう。具体的な取り組みとして、財政・金融両面からの支援措置が盛り込まれるとともに、GDPに占める7業種の割合を2015年までに8%前後まで引き上げるとの数値目標が示された。
その一方、サービス業のGDPに占める割合を5年間で4%ポイント拡大させる目標も掲げられた。これは、第2次産業への過度に依存した成長方式からの転換に加え、第3次産業の振興に伴う雇用創出効果を期待したためと推測できる。
第3のポイントは、都市化の推進による地域振興である。第12次5カ年計画では、農村から都市への人口移転を進め、全人口に占める都市人口の割合は同期間中に農村人口を上回るとの見通しが示されている。ただし、巨大都市については規模の抑制を明言した。都市への移転を促進し、消費を増やしたい(第12次5カ年計画原案の公式解説書では、都市人口1%ポイントの増加で個人消費需要は1.2%ポイント押し上がると試算)が、巨大都市への人口集中による混乱や負担の増加は回避したいとの判断に基づき、このような方針に至ったとみられる。そして、格差是正の観点から、地域の「調和のとれた発展」を引き続き提起するなかで、主要大都市と中小都市から構成される都市圏を東部、中部、西部、東北部に複数構築する構想が盛り込まれた。都市圏を地域振興の起爆剤と位置付ける中央政府の認識は、一段と強まったといえよう。

■目標実現に向けての課題
これらの経済発展戦略を推進していく際、適切な手段で目標達成に取り組むことができるかどうかが課題となる。
例えば、第11次5カ年計画において、単位GDP当たりのエネルギー消費量の(2005年比)20%削減が主要目標に掲げられた。しかし2010年上半期時点では、目標達成が困難な情勢となり、中央は実現に向けた取り組み強化を地方に求めた。その際、工場や家庭への電力供給停止を通じて、目標を強引に達成しようとする動きもみられた。最終的に、目標とほぼ同水準の削減(19.1%)に成功したものの、温家宝首相も指摘したように、このようなやり方での目標達成は、国民生活に悪影響を及ぼすものといえる。
中国経済の健全な成長持続に向けて、何が最適かを念頭に置いた取り組みが求められる。