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アジア・マンスリー 2011年5月号

【トピックス】
中国自動車産業の現状と課題

2011年05月01日 関辰一


中国自動車産業は旺盛な国内需要を背景に2009年に生産台数世界一となった。一方、完成車メーカーだけで100社以上存在し、多くの旧型・小型生産設備が用いられているため、生産性は低い。

■世界一の自動車生産大国
中国は世界一の自動車生産大国である。自動車生産台数は2006年にドイツを超え、2008年には世界第2位であった米国を上回った(右上図)。さらに2009年についに日本を追い抜き、世界最大の自動車生産国となった。2010年の自動車生産台数は1,826万台に達し、世界の23.5%を占める。
この背景には旺盛な国内需要がある。ここでは、生産と輸入を加え、輸出を引いたものを自動車の国内需要とすると、2008年時点で生産が935万台、輸出が68万台、輸入が41万台であるので、国内需要は907万台となり、生産の97%に達する。同年の中国の国内需要は米国には及ばないものの、ドイツの2.4倍、日本の1.8倍に達する。
中国の自動車産業を取り巻く環境において特筆すべき点は、2000年代前半まで自動車の普及は政府高官や企業経営者・マネジメント層を含む高所得層に限られていたものの、2000年代半ば以降、低所得層から高所得層に至るまでいずれの所得層においても自家用車の保有台数が急増したことである。国家統計局によると、2009年の都市部人口は6億2,186万人であった。1世帯あたりの平均人数は2.89人であったため、家計調査で中位20%と分類される世帯数は約4,304万世帯となる。中位20%層100世帯あたりの保有台数は7.43台であるので、その保有台数は2009年時点で320万台になる。2005年時点の中位20%層の保有台数は66万台にとどまっていたことから分かるように、2005年から2009年末にかけて、中位20%層の自動車保有台数は急増した。同期間において、中上位20%層も124万台から587万台へと飛躍的に伸びた。中間層が台頭したことで、自動車市場の層の厚さが増したといえよう。加えて、低所得層においても自家用車保有台数が増加した。下位20%層の保有台数は2005年の18万台から2009年の72万台に達した。中下位20%層も同じく35万台から179万台に大幅に増加した。
中国では5万元以下の安価な自動車も少なくない。こうしたなか、いずれの所得階層においても所得水準が大幅に高まったため、低価格車から高価格車に至る各価格帯で爆発的に自動車が売れている(アジア・マンスリー2011年2月号を参照)。

■求められる生産性の向上
中国の自動車生産台数は世界一であるものの、課題となるのが生産性の低さである。1988年に出版された『競争と革新-自動車産業の企業成長』(伊丹敬之・加護野忠男・小林孝雄・榊原清則・伊藤元重著、東洋経済新報社)は、戦後日本の自動車産業の発展を詳細に分析した。一連の分析の中で日米間の生産性比較も行っている。その手法に則り、日中比較をすると、2008年の中国自動車産業(含む二輪車、部品)の1人あたり年間自動車生産台数は今の日本の1/3ほどで、日本の1965年の水準にとどまる。
中国の自動車産業の現状を“スモールハンドレッドの時代”と表現したメディアがあった。これに優る表現はなかなか見当たらない。中国では完成車メーカーだけで100社以上存在する。
WTO加盟後に、確かにフォルクスワーゲンやトヨタなど世界的なグローバル自動車メーカーが相次いで中国投資を増やした。一方で、海外からの直接投資を大幅に上回る国内投資が実施された。2008年の外資自動車メーカーの固定資産投資は全体の21%を占める162億元であったものの、中国メーカーは同599億元と全体の78%にのぼる。自動車製造業(含む二輪車、部品)の企業数は2000年から2008年にかけて300社増加し、設立10年に満たない新興企業が多数存在する。
これらの企業では旧型・小型の生産設備を導入し、生産性を上げてきた。1人あたり固定資産ストックが1991年から2008年にかけて徐々に高まったように、中国の資本装備率は近年上昇した。これに伴い、1人あたり年間自動車生産台数は1991年の0.4台から2008年の4.5台に引上げられた。しかし、繰り返しとなるが生産性は未だ日本の1965年の水準にとどまる。
生産性が低いため、市場が急拡大をしているにもかかわらず、鋼材などの原材料価格や人件費の上昇を受けて、赤字に陥る自動車メーカーも少なくない。2009年の自動車販売台数は1,365万台と2008年に比べて426万台増加した。伸び率では前年比45.5%増と過去最大の伸びであった。一方、同年の自動車製造業(含む二輪車、部品)の12.3%の企業は赤字であった。
生産性を高めることで、中国が自動車生産大国から自動車生産強国に転換する過程を着実に進んでいくことが期待される。
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