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国際戦略研究所 田中均「考」

【日経ビジネスコラム】
直言極言 日本の強さと見識を示そう

2011年04月04日 田中均


『日経ビジネス』2011年4月4日号p.104 コラム「直言極言」から転載

 最初に今回の震災で被災された方々に心よりのお見舞いを申し上げたい。

 日本を襲った未曾有の惨劇に世界は息をのんだ。日本の懸命の努力に世界100カ国を超える国々が支援を申し出た。中でも同盟国である米国の支援は本当に心強い。緊急援助隊のほか、直ちに在日米軍を出動させ艦船7隻が物資の輸送、捜索・救難活動に従事した。仙台空港の復旧や福島第1原子力発電所の緊急事態にも手を差し伸べるなど、物心両面の支援は同盟関係の強さを示した。海外の報道も惨事を連日克明に報じたが、日本及び日本人に対して好意的な論陣を張る記事が目に付いた。

 冷静に、しかし危機意識を持って、これからの日本を考えなければならない。この大震災からどう立ち直っていくかによって、日本の将来は決まる。日本の惨事が世界に与えた経済的影響も大きく、世界は大きな関心を持って見守っている。今後を考えるにあたり、銘記するべき点がある。

 第1点は復興に向けた大胆な施策を可能にするためにも、震災前の政治状況に戻るわけにはいかない。ねじれ国会を克服し、与野党が協力して迅速に対処できる体制を構築しなければならない。例えば衆議院選挙までの2年という時限つきで民主党と自民党の大連立をも実現するべきである。

<増税、TPP・・・先送りはいけない>

 子ども手当や高速道路無料化関連の施策は凍結し、復興資金を捻出する必要がある。もはや国債発行には限度があることを考えれば、増税を視野に入れざるを得ない。1991年の湾岸戦争に際し、日本は130億ドルの資金拠出のために石油税やたばこ税などの増税に踏み切っている。

 第2点は、本来日本が取り組まなければならない財政構造改革やTPP(環太平洋経済連携協定)への参加に通じる農業改革といった構造問題の解決を、震災を理由に先送りすることがあってはならない。

 新興国の台頭による世界の安全保障・政治・経済構造変化への日本の対外戦略の再構築という課題も先送りできない。大連立と適材適所の挙国一致内閣は、こうした構造問題に対処していくうえでも有効であるはずだ。

 震災の危機管理を通じて見えてきた課題も多い。菅直人総理や首相官邸が危機において政治的リーダーシップを前面に出したことは正しかった。しかし、官僚機構が十分活用されたとも見受けられない。危機管理は経験と知識に基づく、プロフェッショナルなものである。政治家のリーダーシップと官僚のプロフェッショナリズムを生かすと同時にタテ割りを改めることが求められる。

 震災という国難の中でも、従来の政局的関心が抜け切らない一部メディアの姿勢も厳しく問われる。日本の運命がかかっていることを肝に銘じ、健全な世論形成の役割を果たしてほしい。

 最後に、支援してくれた国際社会に対し、日本の責務を果たすべきだ。それは、津波や原発の被災で日本が学んだ諸点を、包み隠すことなく迅速にかつ詳しく情報提供することである。原子力発電への勢いが強まっていた中で、福島原発を巡る危機は各国の原子力政策の見直しにつながるだろうが、日本は自らの経験を客観的に説明しなければならない。

大震災での犠牲者に報いる意味でも、日本は日本の強さと見識を示さなければいけない。もし日本の政治が震災前の状況に戻り、今後予想される大事業に取り組むことができないことになれば、日本に未来はない。
 
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