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求められる既築マンションへのEV充電設備整備の方策

2011年03月23日 松井英章


電気自動車(EV)の販売が本格化してきた。そこで併せて求められるのが充電設備だが、全国の一般消費者が日常の足として利用するには心許ない整備状況である。EVの充電には、30分程度で充電を完了させる急速充電と、8時間程度、一晩かけてゆっくり充電する普通充電(200V)、さらに長時間要する100V充電があるが、急速充電器のコストは工事費合わせて数百万円ほどするので、一般家庭に設置することは現実的ではない。一方、EVの実質的な走行可能距離は、エアコンなどを利用すると1充電あたり100km程度といわれているが、日本の多くの自動車の利用者は1日あたりの利用距離は数十km以内なので、日常用途にはさほど短過ぎるということでもない。それでも日常の足とするには、毎晩充電を行い、利用前に充電完了しているという状態を作り出すことが必要である。そのためには、200Vの普通充電器が各EVの駐車場近くに整備されていることが望ましい。しかし、このハードルが実はかなり高いのだ。

社用車の場合は、導入企業内の駐車場などに充電器を導入するだろう。戸建住宅の場合も、オーナー自身の意志で普通充電設備を購入し、設置工事すればよい。200Vなら、工費費用もさほど要するものではない。一方、最近の新築マンションでも、EV充電設備の設置をPRするところも出てきている。東京都江東区は、「マンション等の建設に関する指導要領」に充電設備の設置を求める項目を新設した(所定の規模のマンションの場合、駐車場の1割に設置。ただし義務ではない)。このようにEV充電設備の整備環境はそれなりに充実しつつあるが、設置が難しいのは既築のマンションである。

既存のマンションには、駐車場に200Vの充電設備を用意しているところはほとんどない状況である。現在、一般家庭向けにも徐々にEVの納車が進んでいるが、そのほとんどが戸建て世帯向けということである。マンションに新しい共有設備を導入するには、住民組合の同意が必要だが、まだ少数派のEVを導入したいというユーザーの希望がすんなり通ることは少ないという。個人で全設備導入費まで支払うのであれば別であるが、普通充電設備単体の費用はともかく、電気工事費は決して安いものではない。なぜなら、EV充電のためにマンションの電気容量を増やす必要があるかどうかは定かではないものの、安全面を考慮するとそのためのそのマンションの電気幹線増強工事が必要とされるケースがあるためである。これは、EVだけでなく、プラグインハイブリッド自動車(PHV)が販売されるときにも同じ課題が顕在化するだろう。

それを解決するためにはどうしたらよいのか。そのための一つの方法は、幹線マネジメントである。マンションの電気幹線の容量は、実際には半分以下の使用量であることが多いという。しっかりと監視されていれば、この時間ならあと何台のEV充電が可能なのか、といったことが感覚ではなく数値で判断することができる。容量に余裕があれば、幹線はいじらずにわずかな設置工事費でEV充電設備の導入が可能になる。マンションで幹線マネジメントのサービスを受けられる可能性があるのは、今のところ高圧一括受電サービスを導入しているマンションの一部に限られるが、今後、EVやPHVの普及に伴い、円滑な充電設備導入に向けて注目されていくだろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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