コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2011年3月号

【トピックス】
注目される中国の為替政策

2011年03月01日 佐野淳也


貿易摩擦関連で、人民元の切り上げを求められる状況が続いている。中国としては、海外からの切り上げ要求には応じない半面、物価対策として緩やかな元高を容認する可能性が高い。

■米中首脳会談で焦点となった人民元問題
1月19日に開催された米中首脳会談では、世界あるいは地域の安全保障、人権問題への取り組み、国際金融システム改革、気候変動や省エネ・環境面における米中協力など、多岐にわたる意見交換が行われた。会談直後に発表された「米中共同声明」は総じて、両国が幅広い分野で協調していくことを内外にアピールする内容となっている。とはいえ、人民元をめぐる問題に関しては、米国側の不満を十分払拭できなかった。「米中共同声明」は、中国による「人民元レートの形成メカニズム改革の継続的推進、弾力性の強化」を明記したが、これらは、2010年半ば以降中国の為替政策方針として繰り返し表明された文言であり、問題の進展を期待させるものとは受け止められていない。
一方、中国側は対立緩和の観点から、胡錦濤国家主席の今回の訪米に合わせ、総額450億ドルを超える米国製品の購入や数十億ドルの対米投資を発表した。人民元対米ドルレートの緩やかな増価が続いたことも、膨大な対中貿易赤字を背景とした米国の人民元切り上げ要求に対する一定の配慮と解釈できる。これに対し、オバマ大統領は共同記者会見の席上、航空機や農作物などの購入に関しては23万5,000人の国内雇用創出効果をもたらすと、中国に謝意を表明する一方、人民元が依然過小評価され、為替レートの形成メカニズム改革も進んでいないと批判した。オバマ大統領の発言から、一時的な緩和策では完全に封じ込められないほど、中国の為替政策に対する米国の不満は大きいと判断されよう。
なお、2月4日、米国財務省は議会に「外国為替報告書」(年2回、通常春と秋に提出)を提出した。同報告書では、中国を為替操作国として認定しなかった。この決定は、問題解決を意味するものではなく、むしろ報告書提出時期が近付くたびに、米国からの人民元切り上げ要求が高まることが想定される。

■物価高騰は、元高を国内から促す要因
中国は、米国を中心とする海外からの切り上げ要求に応じない姿勢を堅持している。その理由として、次の2点を指摘できる。
第1に、貿易不均衡の原因についての見方である。中国政府は基本的に、為替相場と貿易黒字は無関係と主張している。2010年前半に1米ドル=6.83元前後の水準を維持するなか、貿易黒字が前年同期に比べて縮小(2010年3月は、小幅な貿易赤字を記録)したことは、その有力な根拠となっている。米国との貿易摩擦では、ハイテク製品の対中輸出規制が不均衡の一因と度々指摘した。過小評価された人民元が貿易不均衡の主因との考え方に対し、中国政府は否定的な見解を示し続けている。
第2に、政治的な事情である。理由はともあれ、海外からの人民元切り上げ要求に応じた場合、圧力に屈したとの印象を国民に与え、政権に対する不満を増幅させかねない。中国の近現代史では、対外的な融和策の実行を契機として、政府への大規模な抗議活動に至ったケースがいくつかみられる。このようなリスクを回避するため、胡錦濤政権は米国などからの切り上げ要求に応じようとしないのであろう。
半面、人民元切り上げを促す国内要因は強まりつつある。例えば、消費者物価指数の上昇ペースは、2010年7月以降加速している(右上図)。物価抑制措置が導入され、12月は、6カ月ぶりに前月の伸びを下回ったものの、前年同月比+4.6%で高止まりした。2011年入り後も、世界的な天候不順や投機資金の流入等から、食品価格を中心に上昇圧力が続いており、政府は物価安定を最優先事項とする経済運営を行っている。そうした状況において、元高による農作物や原材料の輸入コスト削減は、有力な物価抑制手段に位置付けられる。
また、為替レート安定のためのドル買い元売り介入が中国国内に過剰流動性をもたらし、足元の景気過熱につながったとみられている。この考え方に沿えば、元高を容認し、介入を手控えることは、根本的な過熱防止策として肯定されよう。

■緩やかな元高容認と関連措置の推進へ
以上を総合すると、中国の金融当局は物価高騰が沈静化するまで、元高を容認する可能性が高い。増価ペースについては、1年ほど前、将来の人民元上昇期待を断ち切るため、一度に10%程度の切り上げを実施すべきと、政府系研究機関の研究員が提案したと報じられたことがある。この提案を採用する可能性はゼロではないものの、輸出への影響を勘案した場合、急激な切り上げは実施困難と思われる。海外からの要求に応じたとの印象をぬぐえないうえ、上昇期待をかえって高め、海外の投機資金が一段と流入する局面も想定されることから、金融当局は2007~2008年と同様、米ドルに対して年10%以下の緩やかな元高にとどめるであろう。
2010年11月、国家外為管理局は、外貨建て短期債務の規制強化等を柱とする通達を公布した。緩やかな元高を進めながら、海外からの投機資金(いわゆるホットマネー)の流入防止措置も強化していくためである。2011年に入ると、人民元での対外直接投資を一部緩和する方針を打ち出した。中国政府は、このような海外への資金還流ルートの拡大を含め、過剰流動性の解消に向けた複数の為替政策を推進していくものと予想される。
緩やかな元高容認で物価の沈静化に成功するのか、その際、デメリットを最小化できるのか、こうした観点から、中国の為替政策の今後の展開を注目する必要がある。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ