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再び、製造業はサービス業になれ!

2011年01月25日 丸尾聰


10年前に、電機業界の役員向けに、「製造業よ、サービス業になれ!」と題した講演をしたことがある。講演では、当時のGEやトヨタが、本業で売上を伸ばしながらも利益が伸びず、収益の源泉を、金融やサービスにシフトしていることを、過去10年間の利益率の変遷データで説明し、サービス化への副産物として、顧客価値の源泉が見え、次なる開発のポイントも浮かび上がる、という話をした。しかし、講演後のアンケートでは「日本は技術立国だからサービス業など手を染めるべきではない」という反論が大勢を占め、聴衆から理解を得られなかった。

日本の製造業は、「モノ信仰」が強い、と言われる。正確には、モノが売れて利益が残る、という「ビジネスモデル信仰」が強い。サービス業は、モノに付随して発生するもので、製造業は、高品質なモノを供給することに専念すべき、との認識らしい。そういう言葉を技術者から聞くたびに、日本の製造業からは、アップル社のiPhoneのような製品を、商品として開発することは出来ない。

90年代後半に生まれたエネルギーサービス(ESCO)業は、それまで製造業が取り組んできた省エネ市場を、サービス業が塗り替える勢いを予感させた。多くの製造業がそこに参入を検討し、実際参入した企業も少なくない。が、その後、多くのESCO事業者が苦戦し、市場自体も600億円で頭打ちになっている。その原因の1つは、本来、サービス業として企業努力とすべきサービスの品質向上を怠ってきたことにある。当時は類を見なかった成功報酬型料金体系が、顧客に新鮮に映ったし、ESCO事業者も得意げに語った。

が、サービス業は、製造業にはない特性が存在する。
1つは、「接客性」。製造業では、製品の機能、品質、価格が、顧客に訴求できるか否かで、販売実績が決まることが多い。しかし、サービス業では、どんなよい製品でも「あの人から買いたくない」と思われたら、販売は成立しない。逆に、機能や品質が多少落ちても、接客する人が気に入れば買う客は存在する。2つめは、「日進性」である。製造業では、開発に1年もしくは5年~10年かける業種もあるが、サービス業では、日進月歩が求められる。提供しているサービスの見直しを毎日しながら、その蓄積ノウハウやそれによる進化が、顧客への信頼につながる。3つめは、「協働性」である。サービスは、享受する顧客がいくばくかの時間や作業をともにしなければならないため、提供する企業側のみで品質のコントロールは出来ない。製品の機能や価値をモノにパッケージして届ける製造業と最も異なる点だ。

今後は製造業にもこの3つの特性が求められると思う。既に、「接客性」は製造業でも営業部門には求められた行為だし、「日進性」もその内容は異なっても姿勢は生産現場に見られる。「協働性」も一部の業種では、開発現場に顧客を巻き込んだりしながら、顧客が自分の声を反映する仕組みが出てきている。モノがあふれた先進国では、顧客は機能や価値のみを厳しく見定める能力がついてきている。所有価値が相対的に低下し、利用価値に重点を置いた購買行為が、B2Bはもとより、B2Cでも急速に進むものと思われる。また、新興国のインフラ市場などでは、顧客と企業との役割分担が異なる商慣習があり、製造業にもサービス業的機能が求められることも出てきている。今こそ、製造業も、顧客の利用価値=企業のサービス提供価値を徹底的に掘り下げた製品の開発・生産・販売や、それに向けた組織や意識の改革が求められる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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