2007年のサブプライム問題表面化から2年超、2008年9月のリーマンショックから1年以上が経過した。急速に冷え込んだ世界経済は、各国政府が財政・金融政策の総動員したことによって、2009年春以降、ようやく回復の兆しを見せはじめ、最悪期を脱出した。
サブプライムローン問題に端を発したアメリカ発の世界金融危機は、アメリカの金融システムの脆弱性を露呈させたのみならず、世界の金融システムの抜本的な再構築の必要性を認識させた。そして、これまで最先端の金融市場として各国のモデルとして位置付けられてきたアメリカの金融システムには、金融規制・監督やリスク管理に不備があることが明らかになった。
さらに金融システムだけに留まらず、それが拠って立つ経済の原理に対しても懐疑的な見方が表れた。すなわち、英米型の資本主義の特徴である「アングロサクソン・モデル」(Anglo-Saxon model)と呼ばれる自由市場経済(free market economy)を活用した「新自由主義」(neo liberals)にも改善すべき点が存在するのではないかという疑問である。つまり、資源配分に関して言えば、自由な市場が最も効率的であり、その市場を適切に維持することができれば、あとは市場に任せればいいという従来の常識は消え、信頼喪失(confidence crisis)を通じて、まず金融市場が機能不全に陥り、本来健全であった取引でも収縮した「市場の失敗」(market fatigue)が生じたのである。
今回の金融危機の反省として、新自由主義の源泉とも言われる「自レッセフェールキャピタリズム由放任資本主義」(laissez-fair Capitalism)に基づいた「アングロサクソン・キャピタリズム」の修正を求める動きが表れた。それは自由放任主義から規制された競争への基本方針の転換になる可能性もある。
一方、金融セクターに対する規制・監督における大きな欠陥が金融危機の根因の一つであると指摘されている。こうしたなか、金融危機の再発防止策を前提とした各国の金融規制改革が注目を浴びている。アメリカ、ドイツ、イギリスの各国政府をはじめ、ECBやFRBに至るまで、さまざまな改革案が提出され、国際的な金融規制の強化に向けた議論が高まっている。
こうした規制強化論は、2007年10月のG7財務相・中央銀行総裁会議の要請を受けて、2008年4月に発表された金融安定化フォーラム(FSF、注1)の提言を端緒とするが、その後、2008年のリーマンショック、AIG問題、欧州(東欧を含む)金融危機を経て、より広範囲で厳格な規制を求める動きが台頭するようになった。
とくに、G20金融サミット(注2、以下G20)では、危機管理における国際的連携が模索されるとともに、強力で整合的な監督・規制の枠組みを構築すべきとの方針が打ち出された。そのなかで銀行の健全性規制強化の議論は、2008年11月のワシントン、2009年4月のロンドン、9月のピッツバーグの各サミットにおいて内容が強化され、それまでの自己資本規制見直し議論などを含めた規制強化の方向性が再確認された。
このように、今後の金融規制・監督の在り方については、G20など国際協議の枠組みのなかで大きな方向性が打ち出され、2010年明けから具体的な議論が深まる見込みである。しなしながら、その後の各国における議論の状況をみると、必ずしも当初目指された規制の国際的協調が達成されるような状況ではない。
金融規制は最終的には、各国の国内法によって担保されるため、各国の政治的状況によって、当初の国際合意とは異なる形となって表れてくる場合が多い。例えば、規制強化すべき事項については、おおむね合意が出来ているようにもみえるが、その具体的改革案について統一的合意はないようにも思える。また、規制強化の方向論についてはすでに、多数の論文で紹介されているが、それが果たして妥当なものかについて議論したものは多くない。
本稿では、各国において具体的な規制強化を実行する前に、まず、相互依存性が高まった今日の世界経済構造の特徴を言及し、今後の規制見直しの方向性に触れるとともに、G20の国際協調の枠組みについて概観する。次に、金融規制の歴史的な経緯を振り返り、今般の規制議論を今日の環境に照らして再評価してみる。最後に、三つの地域(米・英・欧州)において現在展開されている金融規制改革の議論を紹介したい。
(注1)金融安定化フォーラム〔Financial Stability Forum:FSF〕は、金融市場の監督及びサーベイランスに関する情報交換と国際協力の強化を通じて国際金融の安定を促進することを目的に、7カ国蔵相・中央銀行総裁会議によって1999年に創設された。FSFは、そのメンバー国及び地域の関連当局、金融監督当局による国際機関(バーゼル銀行監督委員会、証券監督者国際機構(IOSCO)、保険監督者国際機構(IAIS))・国際金融機関(国際通貨基金(IMF)・世界銀行)等が参加しており、我が国からは金融庁、財務省及び日本銀行が参加している。なお、FSFは第2回金融・世界経済に関する首脳会合(ロンドン・サミット:2009年4月)の宣言を踏まえ、より強固な組織基盤と拡大した能力を持つ金融安定理事会〔Financial tability Board :FSB〕として再構成されることとなった。
(注2)G20(Group of Twenty)とは、20カ国・地域首脳会合(G20首脳会合)および20カ国・地域財務大臣・中央銀行総裁会議(G20財務相・中央銀行総裁会議)の参加国・地域である20カ国・地域のことである。主要国首脳会議(G8)の参加国・地域(欧州連合)および新興経済国11カ国が含まれる。
