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Business & Economic Review 1996年07月号

ポスト2002のサッカースタジアム整備・運営

1996年06月25日 研究事業本部 東一洋


1.民間企業によるスタジアム研究の場

サッカースタジアムは都市公園内に運動施設として設置される場合が多く、都市公園法の制約から施設機狽ヘシンプルなものである。一方、東京ドームが純民間施設として登場して以来、福岡そして来年には大阪、名古屋と5万人収容規模の大型ドームが整備されつつある。これらの大規模ドームは単なる野球場ではなく、音楽コンサートや見本市等のためのイベントホールとしての機狽ェ中心となる傾向がある。また施設単体ではなく、まちづくりにおける中核施設としての位置づけがなされるケースが多い。

(株)日本総研では、平成7年2月から「スタジアム整備研究会」を主催し、スタジアム運営開発ノウハウを有する100を超える民間企業等と共に大規模サッカースタジアムとその周辺整備のあり方についての検討を重ねた。本研究会はスタジアムを含めたまちづくりの基本国zを有する川崎市.浮島地区を主たる研究対象としている。民間企業の参加はそのプロジェクトへの参画が最大の理由であることに疑問の余地はないが、一スタジアムの整備がこれほど多くの民間企業に興味を持たれた背景には、

・ ブーム上でのビジネスチャンスの模索

・ ドーム開発等で培ったノウハウの有効活用 の可柏ォ

・ 他業種との情報交換の場としての活用

等が考えられる。いづれにせよ、サッカースタジアムの整備.運営に民間企業のノウハウが活用されようとするのは全国でもめずらしく、スタジアム整備の今後の一つの流れを創出することとなろう。

本稿が読まれる頃には2002年W杯のアジア初のホストカントリーが決まっている。ホスト国が我が国となった場合、2002年の華やかな宴の後のスタジアム運営が大きな課題となろうし、韓国の場合でも15の招致自治体のスタジアムは新たな目標のもとで整備.運営がなされるべきである。

野球場が多目的大規模イベント対応型空間.中核的都市施設へと進化したのがドームであるとするならば、サッカースタジアムは今後どのように進化すべきなのか。本稿では、スタジアム整備研究会の成果をベースとしつつ、ポスト2002を見据えたスタジアム整備.運営のあり方について述べたい。

2.スポーツの孵化器としての地域社会

1993年にスタートしたJリーグの理念は「地域に深く根ざしたホームタウン制」であり、我が国のスポーツの2つの発展形態(学校教育としての体育と企業スポーツ)のどちらとも一線を画するものを、我が国に根付かせようとする壮大な試みと評価できる。 学校教育としてのスポーツの頂点は国民体育大会(国体)であり、「本施設(メイン会場)」「補助競技場」等の必要施設とその他の競技施設整備の大きな契機となっている。しかし開催県が必ず優勝する国「や、整備された施設の国体後の運用面の未整備で国体不要論もあり、学校教育としてのスポーツは転機を迎えつつあると言えよう。

一方企業スポーツはバブル経済崩壊後の長引く景気低迷のもと翳りを見せ始めている。野球やサッカーといったマスコミ登場機会の多い種目は別として、今後プロ化を模索していく種目とそうでない種目に二極分化し、後者は同好会的活動となることが卵zされる。企業も自社のマイナー種目を強化する余裕.インセンティブは乏しい。

「学校教育」「企業」という2大孵化器を有していた日本のスポーツの将来は「地域社会」が担う、との宣言がJリーグである。そして今後スタジアムの整備を検討する上でJリーグの理念は極めて重要となる。

3.バックヤード空間の有効活用

建設省では地方公共団体による都市公園内のスタジアム整備を積極的に支援するためにスタジアムの施設水準、管理、運営に関する事項を検討している。ここで特筆すべきはスタンド下の建築空間(バックヤード)の複合利用について言及されている点である。平成5年には都市公園法の一部改正で都市公園における許容建築面積の特例措置が緩和されている。これらの一連の動きは、近年の地方財政が各種税収の伸び悩みにより、緊縮財政を余儀なくされる中で今後一層の規制緩和で都市公園内のスタジアムの多機秤サとそれに伴う民間企業の参入をも可狽ニしていく方向性を示すこととなろう。

スタジアム整備研究会では、都市公園内ではなく、規制のない立地でのスタジアムにおけるバックヤードの有効活用策を、[1]行政が中心となるインドアスポーツやスポーツ医学等のスポーツ特化型と[2]エンターテインメント、飲食.物販等の民間活力導入型とを検討している。

スポーツ特化型事業の典型事例(スポーツ.アカデミー事業)はスポーツ医科学分野やスポーツ関連ビジネスの人材育成や実際の地域スポーツ文化づくりのプログラム開発.実施等を行う教育行政機関的性格と、地域のスポーツクラブ情報や市民のからだと運動及びスポーツ体験の記録をデータベース化し、市民の資産としてストックする博物館的性格を有する事業である。Jリーグの理念におけるスポーツ施設の位置づけ(地域に根ざした文化施設)に照らせば、スタジアムのの多機秤サメニューに今後組み入れるべき事業であろう。

4.スタジアムの多様な利用形態

スタジアムは、もちろんプロサッカーのJクラブのホームとなることが望ましい。これは安定顧客の得という事業性の観点だけでなく、「自分たちの地域社会のトッププレイヤー」の活躍を楽しむ場を地域住民に提供できることになるからである。Jクラブはスタジアム運営の必須のャtトウェアである。ただし、Jクラブだけのために行政が税金を投入することは考え難く、その他の利用メニューを検討しておく必要がある。

(1)コンサート等イベントの開催

夏季の屋外大規模イベント(コンサート等でも雨天決行)の誘致.開催が有効である。

(2)次世代型のイベントの開催

情報通信技術の進展により、世界をリアルタイムで結ぶイベント開催の可柏ォがある。また各種のインタラクティブ(観客と舞台の双方向)なイベントも要検討であろう。

(3)市民参加イベントの開催

行政主催の行事を定期的に開催し、市民に親しみを持って貰うことが必要である。そのためには縦割りの行政組織を超えたイベント誘致推進体制とスタジアムの運営主体との有機的連携が必要となる。

(4)自主企画イベントの開催

他では観ることの出来ないイベントャtトが必要である。これは市民対象イベントを行政と連携して企画.運営することでノウハウを培い、将来的に興行の分野のスタッフを投入し、事業化していくというプロセスが重要である。

これらの多目的利用を実現するためにはフィールド面での開催対応(芝の保護)設備と周辺環境の整備が必要となる点に留意すべきである。

5.その他の提案事項

サッカーというスポーツ自体が一過性のブーム.特定の人達の趣味のように語られることの多い我が国において、そのための施設整備に行政が多額の税金を投入することへの抵抗がは今後強まっていく可柏ォもある。

研究会では行政主導によるスタジアム整備事業が成功する大きな要因として市民レベルでのコンセンサス形成に着目している。そのための方策として市民に門戸を開いた会員事業(ex.芝のオーナー制度)や運営に対する市民ボランティア活動の促進等により地域住民の活躍の舞台を用意しておくことの重要性が指摘されている。

6.運営体制のあり方について

スタジアムの利用形態やバックヤード空間の有効活用等の検討を貫くキーワードは、これまで述べたとおり「地域住民、市民」である。スタジアムの運営体制を検討する際はまず地域住民.市民の便宜を考慮する必要がある。次いで観客.主催者といった利用者に目を向けるべきである。

(1)地域住民へのサービス提供のために

運営主体は行政のスポーツ、健康、福祉、コミュニティ等の関連部局と横断的に連携でき、これらのサービスをスタジアムを核として提供することが必要となるであろう。

(2)観客のへのサービス提供のために

緊急時の安全性に助ェ配慮した運営体制が組まれることが最も重要となる。また、今後まちづくりの中核としてのスタジアム整備がなされるような場合、周辺施設での活動も含め、観客の一連の行動を想定し、これに資する情報提供のあり方を検討しておくことが重要である。

(3)主催者へのサービス提供のために

将来全国に多くのスタジアムが整備された場合、当該スタジアムの差別化ポイント、優位性を主催者にアピールする必要がある。その際には対応の柔軟性と施設の安全性がポイントとなる。情報通信技術を活用し、常日頃の施設からの情報(避難空間、避難誘導の動線等)の提供とシミュレーション教育等の実施により安全性を高める努力を怠ってはならい。

7.サッカースタジアムの今後の方向性

これまでの検討から、ポスト2002を見据えたサッカースタジアムの今後の整備.運営の方向性は以下のように考えることができよう。 都市公園におけるスタジアムの場合、運営体制の見直しが必要である。我が国では公園施設管理のための組織がスタジアム運営主体であるケースが多く、市民に対し「使わせてやる」という発想がないとは言い切れない。これをスタジアムを活用し、対住民サービスを積極的に提供する組織に代えていく試みが必要である。地元行政が地域のスポーツクラブや各種団体(学校含む)との協力関係を築かなければならない。

また、まちづくりの中核施設としてドームと同じく、多目的.多機狽ネスタジアムも今後整備されることであろう。開閉式の屋根国「と可動式床面(天然芝~コンクリート床)を有し、多目的な利用に耐えうる大型イベント空間としてのスタジアムである。一方多機秤サも進み、今後は市役所をそのバックヤードに内包するスタジアムが建設されても不思議ではない。

通産省では昨年民活法を改正し低利.無利子融資の対象施設に大規模スタジアムを加えている。これにより民間企業の参入が容易となり、これまでにないスタジアムが建設されることも想定できる。

ポスト2002を見据えたとき、「行政と教育の現場、民間企業が連携した運営組織体制の確立と民活による複合機柏ョ備」のもと、スポーツ.健康.福祉.コミュニティ等の複合的な住民サービスの拠点としてスタジアムが整備.運営されることが望まれる。
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