RIM 環太平洋ビジネス情報 2003年1月Vol.3 No.8
アジアにおけるインフレーション・ターゲティングへの取り組み
新たな金融政策フレームワークを模索する韓国、タイ、インドネシア
2003年01月01日 環太平洋研究センター 高安健一
要約
- 1997年に経済危機に見舞われて以降、アジアの多くの国々が経済制度整備に取り組んできた。
金融政策フレームワーク(financial policy framework)の再構築は、金融システムの再建や財政改革などとともに、持続的経済成長の基盤となる経済制度改革の一つとして位置付けることができる。
国際通貨基金(IMF)の監視下に置かれた韓国、タイ、インドネシアは、98年から2000年にかけてインフレーション・ターゲティング(inflation targeting:インフレ目標政策)を導入した。
これは、中央銀行が、a.目標とするインフレ率(あるいはレンジ)を事前に公表するとともに、b.その実現にコミットすることを公言し、c.必要な政策手段を動員するものである。 - 韓国は、中央銀行の独立性を強化するとともに、物価安定を金融政策の目標として法定化し、98年にアジアで最初のインフレーション・ターゲティング採用国となった。
通貨価値の急落、景気後退、金融危機などの難問が山積するなかで、中央銀行は金融調節を、マネーサプライを中間目標として用いる方式から金利操作によりインフレ目標を達成する方式へと転換した。 - タイは、通貨バスケット制が崩壊したあと、IMFの監視下で一時的にマネーサプライを重視する政策に転じたものの、2000年5月にインフレーション・ターゲティングを導入した。
これまでのところ、インフレ目標は達成され、金融政策の透明性や中央銀行の説明責任は改善している。
しかし、為替レートの動きが不安定になったことと、政府による中央銀行への介入が懸念される。 - インドネシアは、99年に中央銀行法を改正し、中央銀行の役割を物価と為替の安定に限定した。
そして、為替レートが不安定で、金融システムに大きな問題を抱え、財政赤字の削減が急務となっているなかで、2000年1月にインフレーション・ターゲティングを導入した。これを突破口として、インドネシアは関連する経済制度整備を加速させようとしていると考えられる。 - 適切な金融政策フレームワークを採用して、資源の最適分配を促し、市場主導型の成長の基礎を造り出すことは、政府の重要な役割の一つと考えられる。
インフレーション・ターゲティングの推進は、通貨危機までの成長志向型の経済制度改革から、成長と安定のバランスのとれた経済制度改革へ、アジア諸国が軸足を移したことを示している。