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Business & Economic Review 2003年01月号

【STUDIES】
保育制度改革を考える-ニュージーランドとスウェーデンの改革を参考に

2002年12月25日 調査部 経済・社会政策研究センター 池本美香


要約

  1. わが国の保育政策については、目下「待機児童ゼロ作戦」を中心に保育サービスの量的拡大が進められている。幼稚園でも教育課程終了後に「預かり保育」を行うところが増え、認可外保育施設も増加傾向にある。2000年には規制緩和の一環として、株式会社や学校法人など社会福祉法人以外による認可保育所の設置運営も認められた。しかし、現行の改革には依然として多くの課題が残されている。第1に、公的な補助制度が利用者にとっても施設運営者にとっても不公平感の強いものであること、第2に、子どもの利用施設が親の所得や就労状況で分けられていること、第3に、株式会社などの認可保育所への参入が抑制され、待機児童解消が遅れていること、第4に、保育の質を教育改革の一環として見直す視点が欠けていること、第5に、育児不安を抱える親への支援が不十分なこと、第6に、幼保二元体制のために、行政事務が非効率になっていることである。

  2. 諸外国の動向をみると、保育政策は、教育改革の一環として注目を集めつつある。1980年代後半にはニュージーランドが、保育所などを社会福祉省の所管から教育省の所管に移す幼保一元化の改革を行っており、90年代後半にはスウェーデンが、福祉の所管で一元化されていた保育所を教育科学省の所管に移す改革を行っている。両国とも、すべての就学前サービスを教育法のなかに位置付け、共通のカリキュラムを導入し、保育の質の向上を図っている。とくに、保育サービスの質や家庭環境がその後の子どもの能力に影響を及ぼすという観点から、教育の初期段階で子どもの能力格差が拡大しないように、就学前教育への参加率を高めることや、親を教育のパートナーとして位置付け支援していくことを重視している。親の就労支援だけでなく、すべての子どもに人生の良いスタートを保障することが、子どもの福祉の向上、教育全体の質の向上、それによる経済活力の維持、さらには将来的な教育・福祉のコスト削減という点でも重要であり、社会的に投資する価値があるという考え方がある。なお、両国とも補助金のシステムを、施設の運営主体にかかわらず公平にしたことで、ニュージーランドでは営利法人が、スウェーデンでは親組合が、待機児童の解消に積極的な役割を果たし、利用者にとっても選ぶ施設による補助金の格差が解消された。

  3. わが国の保育政策についても、教育改革との一貫性を重視し、保育所を幼稚園同様、教育施設として位置付ける抜本的な改革を行うべきである。とくに昨今、家庭環境の差による学力格差の拡大が懸念されるなかで、就学前教育施設を核としてすべての子どもに学習の基礎となる力を身につける機会を保障することが早急に求められる。具体的には、まず保育所と幼稚園の所管を文部科学省に統合し、新たに就学前教育法(仮称)およびカリキュラムを作成する。法の理念としては、就学前教育の役割として、第1に、すべての子どもに生涯学習の基礎を与えることを保障すること、第2に、親を支援することとし、就労支援に加えて親の学習支援の役割を明記する。就学前教育は「保育に欠ける」ことを施設の利用や補助金の支給条件とするのではなく、すべての子と親に保障されるものとする。施設に対する補助金については、現在の保育所措置費や幼稚園の私学助成などに代わって、利用時間当たりのレートを基準とする擬似バウチャー制度を導入する。これにより施設の種類や運営主体による補助金の格差をなくし、家庭の所得水準への配慮は、別途厚生労働省所管の児童手当の加算などで対応する。バウチャーや低所得層への補助の一定割合は国庫負担とし、施設整備費の助成やバウチャーの加算などについては、各自治体で負担する。

  4. 施設運営の公益性は、社会福祉法人、学校法人といった法人制度によって担保するのではなく、運営主体は営利企業、個人など自由としたうえで、親の意向を保育内容に反映させること、第三者評価を受けることなどの義務付けで担保する。認可制を廃止し、届け出制とし、一定の基準を満たす施設はすべて補助金の対象とする。株式会社や親組合などが運営する施設にも補助金が支給されることで、きめ細かな保育ニーズに柔軟に対応出来る。あわせて、保育ニーズがなくなった地域の社会福祉法人立、学校法人立の施設の撤退を容易にするなど、法人制度の見直しも期待される。施設の利用は、利用者と施設の直接契約とし、保育料は一定の上限の下、施設が自由に設定する。公立の施設は原則民営化し、民営化しない自治体は、公私間格差を是正する補助金の措置を講じる。自治体は、保育ニーズへの対応のみでなく、就学前教育への参加率を高める方向で、施設の設置や利用を呼びかける役割を負う。なお、ベビーホテルなどの認可外保育施設が主に担っている0歳児保育、延長保育、夜間保育、病児保育などは、本来育児休暇、看護休暇などの労働政策によっても解決出来るサービスであるため、その整備や補助金については雇用保険などによる対応も視野に厚生労働省が責任を負う。

  5. こうした幼保一元化の抜本的な改革は、過去何度か議論されつつも実現には至っていないが、財政難の折、少子化対策の効率化も課題となるなかで、再度検討が期待される。2000年の社会福祉基礎構造改革が「自立支援」を打ち出し、教育改革が「自ら学び自ら考える」生涯学習社会を標榜するなか、福祉と教育の領域は重なりつつある。本稿で提言する改革は、所管の一元化による行政事務の合理化にとどまらず、保育の質の向上と参加率の向上が教育改革を成功に導き、将来的な教育・福祉のコスト削減にもつながる。さらに女性の就労促進、親の育児不安解消といった多面的な効果も期待出来よう。
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