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コラム「研究員のココロ」

コレド日本橋の開業で日本橋は再興するか

2004年04月12日 


3月30日、日本橋1丁目ビルに商業ビル「コレド日本橋」が開業した。この土地は、平成11年1月末に東急百貨店日本橋店が閉鎖した場所である。地元では、コレド日本橋の開業で、日本橋の再興に弾みがつくことを期待している。日本橋は金融の中心地であるがゆえに、バブル崩壊後の日本経済の低迷を象徴するように地盤沈下した。日本橋のまちは再興するか、都市再生のモデルケースとして注目が集まっている。

●古い日本橋ファンあらわる
 久しぶりの大型商業ビルの開業ということで、大勢の消費者が訪れていたが、ショッピングセンター内を歩いていて特に目立ったのが、ステッキを持つ高齢者が多いことであった。日本橋の古いファンが、なつかしく訪れたものと思われる。日本橋はこのような高齢者のファンをたくさん持っていることが強みだ。また、日本を代表する企業の本社が多いのも日本橋の特徴で、日本橋で四半世紀近く働いて過ごすビジネスパーソンも多い。そのようなファンをたくさん持つ日本橋は、やり方次第で復活できるという印象を持った。
 ただ、コレド日本橋のテナント・ミックスは、上層階に入っているメリルリンチに勤めるビジネスパーソンをイメージターゲットとしているのであろうか、 30歳代向けのファッション、雑貨、カフェ、レストランなどのテナントが集積しており、いずれも若い感覚の店が多く、高齢者にマッチした店舗は少ない。こちらはやはり三越と高島屋の両百貨店に任せたということか。しかし、レストランは午後11時まで営業しており、夜が早い日本橋という評判を返上しようという意気込みは大いに評価できる。
 また、コレド日本橋開業に合わせて、3月18日から、八重洲、京橋、日本橋を結ぶ無料巡回バス「メトロリンク日本橋」が企業協賛で運行されている。午前 10時から午後8時まで15分間隔で運行しており、これにより、日本橋地区の回遊を高めて、少しでも日本橋の来街者を増やそうという試みである。この巡回バスは、すでにお台場や、丸の地で取り組まれている。中央区のような銀座、京橋、八重洲、日本橋、人形町など、個性的な商店街が点在している区は、もっと巡回バスに積極的に取り組んでもよいと思う。

●今後も大型ビルが続々と開業
 コレド日本橋に続いて、今年の10月には地上13階地下4階の三越本店新館が竣工する。ここでも50歳代から60歳代に高齢化した三越本店の顧客層を、 30歳代から40歳代に若返らせるようなテナント・ミックスを目指すものと予想される。さらに三井本館の隣には、(仮称)室町三井新館が平成17年9月末に竣工する。このビルは地上38階地下4階、延床面積133,500㎡で、「マンダリン・オリエンタル東京」ホテルが上層階に入るなど日本橋の新しいランドマークとなる。マンダリンホテルが入ることで外国人観光客が日本橋に目を向けるようになることも注目される。訪日外国人観光客を倍増させるためには、銀座や浅草といった従来からある国際観光地だけでなく、未活用の都心の観光資源をもっと売り込んでいく必要があるが、日本橋は最適な観光資源といえよう。

●大規模開発が難しい日本橋
 日本橋界隈は、江戸時代から続く歴史ある土地であるがゆえに、古い土地の区画が残っている。日本橋室町も関東大震災で築地へ移転するまでは魚河岸であった。そのため、室町には魚河岸の名残を伝える商店が連なっている。中央区では他にも八丁堀界隈に老朽化した家屋が多数存在している。東京駅から歩いて10 分もかからないようなところに、下町情緒たっぷりの住宅街が残っているのである。こうした土地は、大規模な開発に着手するまで膨大な時間がかかることから、現状に任せている所も多い。都市再生は汐留や品川のような開発しやすい大規模遊休地から着手した。しかし、中央区は、小規模な土地所有や借地・借家が残ることから、大規模開発が難しい場所なのである。

●日本橋の魅力は歴史と文化
 日本橋には三井本館や日本銀行本店など、日本を代表する歴史的な建造物が存在する。三井本館は昭和4年に建造された建物で、現在は国の重要文化財に指定され、日本橋のランドマークとして夜間ライトアップされている。そして「歴史的建築物の保存と周辺と調和した開発の両立」を目指した(仮称)三井室町新館計画で、「三井記念美術館」が三井本館に開設される予定である。
また、日本銀行本店の旧館も、現在の日本銀行の建物の中でもっとも古く、明治29年に完成したもので、明治中期の西洋式建築物としては、東京・赤坂の迎賓館とならぶ傑作といわれており、国の重要文化財にも指定されている。
 このような歴史的な建造物が残されていることが日本橋の強みであり、今後は、建物の文化的な活用を検討していくことになり、日本橋の新しい集客装置となりうる。
 日本橋には江戸時代より続く老舗の本店が多くあることも、まちの魅力である。老舗の多くは、全国に支店を出店しており、日本橋で儲けなくてもよいという余裕があるためか、土日に店を閉めるところも多かった。しかし、最近では、日本橋老舗めぐりツアーといった街なか観光が注目され始め、ガイドに引き連れられた一行が老舗めぐりを楽しんでいる光景を目にするようになった。老舗も次第に目で見て楽しめる店作りに取り組むようになってきた。今後は老舗を生かした特色ある商店街づくりが可能となろう。

●日本橋はなぜ人を引き付けるのか
 日本橋が商業の中心であった江戸時代から、明治時代になると銀座に新しい商店街が生まれて今日まで発展してきた。その間、日本橋の商業はすたれるばかりであった。しかし、銀座は、百貨店と専門店、飲食店が過度に集積して、まちにゆとりがなくなりつつある。先日、中央区に住む外国人に銀座の印象を聞いたところ、小さなビルのなかに店が立体的に入っているので、何処に何があるかよくわからないといっていた。商店街とは本来、通りを散策しながら、ウィンドウ・ウォッチングを楽しむものであったが、銀座はもはやそれができないところまで立体化してしまったのである。銀座では歴史的な建造物も取り壊されて、新しい商業ビルばかりである。
それと比較すれば、日本橋は、まだ空間にゆとりがある。まして、大型の歴史的な建造物や、日本橋川と日本橋というランドマークもある。丸の内の最近のまちづくりをみても、オフィスビルだけのまちを脱却して、ショップ、カフェ、レストラン、学校、サロンなど総合的な都市の魅力をつくり出そうとしており、企業だけでなく、大学、NPOなど、多様な主体が参加したまちづくりを行おうとしている。日本橋は、昔から大企業もあれば老舗もあり、町衆もいるという、様々な要素が混在していて、多様性のあるまちであった。これは、更地にデベロッパーが開発するような手法では、決してつくることのできないまちなのである。このような多様性を活かしながらまちづくりを推進することが日本橋で求められている。

●都市再生はまちを愛する人の力から始まる
 まちをつくるのは、まちに関わる人々の、まちを愛する心である。原宿や青山のまちは、ファッション・ビジネスに従事する人々によって時間をかけてつくられた。
それでは日本橋をつくるのは誰か。私は、日本橋を愛するビジネスパーソンであると考えている。日本橋の老舗めぐりツアーが好評である。これは、日本橋活性化フォーラムという、ビジネスパーソンの日本橋ファンが集まって、日本橋を活性化させようと取り組んでいるフォーラムの仲間が、企画しているものである。このような熱心なファンが多数いることが日本橋の強みである。
 今、日本橋では、首都高速道路を撤去して日本橋に青空を取り返そうという議論がさかんである。日本橋の町衆、ビジネスパーソン、学生工房、老舗経営者、大企業、国土交通省など、様々な人々が熱い議論を戦わしている。日本橋のまちづくりから当分目が離せないのである。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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