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コラム「研究員のココロ」

「電子市民会議室」は行政への市民参加の「近道」ではない

2002年01月21日 東一洋


 福井県敦賀市が、 市のWebサイト上に、市が提供したテーマごとに市民が相互に意見交換や議論できる掲示板「フォーラム Ton21」を設け、積極的な行政への市民参加を促進するという。(掲載記事 出典:「japan.internet.comパブリック」2001年12月13日)

 市は、第一回のテーマとして、電子市役所の実現や市内全域への光ファイバーの敷設などを掲げた第3次行政改革大綱案への意見を募り、来年度からの本格的な運用を目指すらしい。

実は自治体によるホームページを活用した「電子市民会議室」的な取り組みは、実は珍しいものではない。

下表のように、多くの自治体において様々な会議室や掲示板が開設されている。


電子会議・電子掲示板を開設している自治体一覧
表 電子会議・電子掲示板を開設している自治体一覧 (「市町村Portal」より)


 このような取り組みの先駆けは、筆者の知る限り、神奈川県藤沢市の「市民電子会議室」である。 藤沢市では1996年3月に策定された「藤沢市地域情報化計画」にもとづき、同年9月より「市民電子会議室実験プロジェクト」を慶應義塾大学(SFC)、(財)藤沢市産業振興財団とともに開始した。そして2001年4月に本格稼働させている。

 藤沢市の「市民電子会議室」が先駆的である点は、何と言っても「市政への反映システム(下図)」が組み込まれている点であろう。インターネット上での市民の様々な意見や提案事項を、市が責任を持って処理する(勿論すべてが市政に反映できるわけではない)仕組みこそ、「電子市民会議室」の真骨頂であると筆者は考える。

 上表における全ての自治体の電子市民会議室の全てをチェックしたわけではないが、藤沢市のような仕組みをきちんと用意しておらず、単なる掲示板的機能で終わっているものに関しては、市民の積極的発言(書き込み)が少ないであろうことは想像に難くない。市民は暇を持て余すお人好しではない。行政がネット上に交流の場を提供しますから皆さん積極的に「行政ネタ」で交流してください、というようなスタンスでは、市民の発言は期待できない。ネット上の交流の場であれば、Yahooなど民間ポータルが開設している圧倒的な登録者数を有する掲示板に勝るものはない。そこには交流のための様々な「ネタ」が散りばめられている。
 インターネットを「行政への市民参加」の促進のためのツールとして活用するためには、行政側に覚悟が必要である。その覚悟とは、インターネットを通じて届けられる様々な市民の様々な意見に対し、「聞きっぱなし」ではなく、庁内にて責任を持って吟味し、責任ある回答を市民に返すという覚悟である。

 実は、前回も紹介した筆者の住む自治体のNPO条例では「(意見等の提出)第11条 市長は、非営利公益市民活動の促進について非営利公益市民活動団体その他関係者から意見等の提出があった場合は、必要に応じてその意見等について調査審議するものとする。」とされており、「必要に応じて」という曖昧な解釈が前提ではあるものの、市民側からの提案事項をどのように扱うのかについてのルール化が規定されている。

 「電子市民会議室」という先進的な取り組みが、行政への市民参加を促進するのではなく、行政と市民とのインタラクティブな仕組みやルール作り、そしてその運用こそ、重要なのである。

 その意味で「電子市民会議室」を開設しっぱなしにしている自治体のHP担当者は、早速に会議室を閉鎖し、責任ある庁内ルールの作成・運用の根回し後、リニューアルオープンされることを期待する。

藤沢市市民電子会議室の市政への反映システムのフロー図
図 藤沢市市民電子会議室の市政への反映システムのフロー図(出典:藤沢市役所)
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