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シーズをつかめ シンクタンクが提案する再生への処方せん 
住宅用分散型電源の本命、燃料電池 普及のカギはネットワーク

西村慶太

出典:日刊建設工業新聞  2005年2月7日号

国の導入目標は5年後120万KW

今月16日発効予定の京都議定書を踏まえた二酸化炭素(CO2)排出削減の取り組みが本格化している。中でも民生家庭部門は国内の排出総量に占める割合は少ないものの、具体的な削減の方策がないまま、90年以降もCO2排出量が増加し続けている。
この対策の一つとして期待されているのが住宅用燃料電池である。国は10年までに住宅分野で120万キロワットの導入を目標としており、同年の住宅用燃料電池の市場規模は2650億円に上るという試算もある。昨年12月、いよいよ東京ガスと新日本石油がそれぞれ住宅用燃料電池分野における年度内のサービス開始を発表した。また、都市再生機構では集合住宅の一部住戸に燃料電池を設置した賃貸住宅を3月から貸し出す予定である。このように住宅分野に燃料電池が本格的に導入されるのも、もう間近である。

期待される三つの理由

住宅用燃料電池が期待される理由は三つある。
1点目は総合エネルギー効率の向上だ。燃料電池では発電時に発生する熱をお湯として活用できるので総合エネルギー効率が向上する。当然のことながら、効率が向上した分だけ消費燃料を減らすことができるので、CO2の排出削減やエネルギーコストが期待できる。
2点目は電源所有による家庭の省エネ意識向上である。昨年2月に住環境研究所が発表した『太陽光発電システム採用層の実態調査について』では太陽光発電を導入した550世帯の内、57%が省エネ行動を取るようになったという結果が出ている。同様の効果が燃料電池でも期待できるので、住人の省エネ意識が高まり、省エネ行動につながるだろう。
3点目は燃料となる水素を、幅広い手段で取り出せることだ。水素は都市ガスやLPGといった化石燃料のほか、水の電気分解などによっても取り出せる。将来的に水素が太陽光や風力、バイオマスといった再生可能エネルギーによって製造されると、燃料電池はCO2を排出しないシステムとなる。

他の電力系統と組み合わせ、複数住戸で融通、安定運用を

ピーク時の対応など課題も残る

一方で、住宅用燃料電池にも課題がある。
一つ目は系統に与える影響である。住宅用燃料電池の出力は1キロワット程度であり、家庭の電力需要のピークには対応できない。不足分は電力系統からの電力で賄われる。また、電力の利用にあたり欠かすことのできない電圧や周波数といった電力品質の維持も系統に依存する。分散型電源の多くが同様の方法を採用しているが、量が限られていたため大きな問題とはならなかった。しかし、燃料電池が将来的に数百万世帯の住宅に導入されると、系統の安定運用に支障をきたすことも懸念される。
二つ目は、効率性の問題である。燃料電池は、発電と同時に一定量のお湯が出るが、実際に利用する時間帯は異なる。お湯はタンクに貯めておくことができるものの、冷めた分だけロスとなってしまう。また、現在計画されている一つの燃料電池が一戸に対応するシステムには、家庭の電熱の需要が少ない時間帯に燃料電池が稼動しない。もしくは負荷率が低く、エネルギー効率が悪くなるという問題がある。
三つ目は非常時に運転ができないことである。消費者にとって燃料電池は、系統が停電した際にも使えるというイメージがある。しかしながら現在の導入方法では、電力の品質調整を系統に依存しているため、系統に異常があった場合は、燃料電池も停止してしまう。

高効率なシステム構築へ

こうした課題の解決策として期待されるのが、燃料電池のネットワーク利用である。 燃料電池を設置した複数の住宅をネットワークし、ネットワーク内で電力を融通するのである。電力が不足する時間帯には系統から電力を受けられるよう系統連系するが、各戸の燃料電池がそれぞれバラバラに系統に接続するよりも影響は小さくできる。 効率の面でも、更なるエネルギー効率の向上が期待できる。例えば、お湯の需要のある住宅の燃料電池を優先的に稼動させ、お湯はその住宅で、電力は融通して別の住宅で用いるという運転を行えば、高負荷率で高エネルギー効率なシステムが実現できる。 また、ネットワーク内で電圧、周波数などの電力品質を調整すれば、系統に異常があった場合には、系統から独立して電力を供給することが可能になる。燃料電池単体でこうした制御を行うとコストが増加するが、ネットワーク全体での制御であれば相対的に安く抑えられる。 燃料電池は理論効率も高く、技術革新とコストダウンが進めばより魅力の高い電源となるだろう。しかし、当面の住宅用燃料電池は小型のガスエンジンと発電効率はそれほど変わらない。その能力をフルに生かすためにも燃料電池のネットワーク利用が有効となるのだ。

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