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トランス・グローバリズムの間(ミクロはマクロに抗し難い)

海外業務のイロハを通じた仕事観・世界観:はじめに

2009年11月02日 新保豊


 当社JRI日本総合研究所のHPの全面改訂に伴い、当コラムをお引き受けすることになりました。どうぞ宜しくお願い致します。
 これまで、紙媒体(雑誌、専門誌、新聞など)に加え、インターネット上では他社の商用媒体(例:NIKKEI NET、CNET Japan、nikkei BPnetなど)に寄稿してきました。そこでは、どうしても編集者の意向や好み・関心事など(あるいは広告主の意向もかな?)に左右され、あまり自由に書くことができませんでした。恐らく当コラムでは、テーマ性、書きぶり、文章の長さなどの点で、かなりの許容度があるものと思いますので、初回以降、徐々にエンジンのギアを上げて行きたいと思います。

◆当コラムのテーマ「トランス・グローバリズムの間」(ミクロはマクロに抗し難い)について

 最初に、このテーマについて簡単に記しておきます。
 何も昨年(2008年12月15日)の「リーマン・ショック」以降でなくとも、読者の皆さんの中には、「グローバリズム」の持つ意味合いを十分ご理解されている方々もいるに違いありません。しかしながら、弊社を含め、この世界の潮流について誤った考え方をしている人々も、少なからずいるものと想像しています。私はそう感じています。

 当コラムでは、この潮流が日本の企業や産業、ひいては経済・金融、さらには環境・エネルギーや食・農業分野などに及ぼしている、“再考”すべき問題を取り上げたいと思います。また、「トランス」の形容詞を付しているのですから、不十分ながらもその潮流を何とか“超克”できないか、という問題意識を持ちたいと思います。

 また、このグローバリズムという潮流は、私が観察する限り、結果的に個々の問題(ミクロ)を吹き飛ばし、私たちを問題の本質や全容から遠ざけたりする役目も果たしてきました。この思潮は、マクロ経済学(主に新古典派、シカゴ派)や金融グローバリズムという理論的な支柱を備えており、一見もっともらしい美しい体系となっています。しかし、それは偽りであり虚業であることが、人々に次第に分かってきたのです。今頃このようなことを記すのは、もうかなり遅いのかも知れませんが・・・

 私は自身の仕事を通じ、最近「ミクロはマクロに抗し難い」ということを常々想います。
 この場合の「ミクロ」とは、家計(消費者)や企業主体を扱う領域(経営そのものやその戦略など)に加え、特定市場・産業を扱う領域(競争問題、競争政策、産業組織論などのミクロ経済)を指します。一方、「マクロ」とは、一国の経済(GDPなどに関する生産物、総所得や総需要、財政)に加え、マネー・貨幣(資本や債券)市場などを示します。

 では、「グローバリズム」はどちらか。私の整理では、例えば、多国籍企業(MNEs:Multi National Enterprises)が進出国での市場で振舞う様子として捉えれば「ミクロ」であり、また金融グローバリズムが一国の経済圏やその経済構造を変容させ大手を振るう有様と捉えれば「マクロ」、となります。両方の面があるのです。後日触れますが、多国籍企業の行動(Conduct)を中心に考えるか、または進出国の構造(Structure)を中心に考えるかで、産業組織論上のパラダイムが異なると解釈されます。

 ミクロのみを扱う専門家は、とかく“要素還元主義”に陥りやすいものです。つまり、人々がある複雑な総合的な事象を理解しようとする時、その事象を複数の単純な要素に分割し、おのおののシンプルな要素のみを理解することにより、元の複雑な事象を推察・理解しようという思考の傾向のことです。かく言う私も、もちろん例外ではありませんでした。^^;

 さて、前置きはこの程度にして、初回の本題に入ろうと思います。

◆「海外業務研修」企画の一環として

 今月末(2009年10月30日)に、弊社総合研究部門の「海外業務研修」企画の一環として、私もレクチャーすることとなりました。
 そこでのテーマは、「海外業務のイロハを通じた仕事観・世界観」というものです。一石二鳥で、何とも手抜きですみませんが、そのレクチャーで準備したPowerPoint資料から抜粋して、文章にして行きたいと思います。
 
 仕事の性格上、そう多くはないのですがほぼ毎年、クライアント企業のビジネス支援または政府の仕事などで、海外に出向き、様々な機会を得ることが少なくありません。事業提携やM&Aに関すること、あるいは往訪国の政策や制度に関するスタディなど、その目的によって毎回異なります。
 そうした経験や知見を、この度弊社内の主に若手研究員・スタッフに披露しましょう、ということになり、まずは次のような構成で3時間のレクチャーをするつもりです。

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【1】イントロダクション(およびIntention)
 ◇全体概要 ⇒すべての研究員や関係スタッフ向け
 ◇個別向け ⇒実質、一部の研究員・スタッフ向け
   ∵①〔機会⇔関心〕+②知的体力+③内省(仕事観・世界観)
【2】事例
 ◇ある政府筋のケース
  * ○○戦略会議
  * 主要国との比較ランキング
  (ミクロ面:○○インフラやサービス、マクロ面:生産性、経済成長など)
 ◇A社:海外の情報通信事業との比較・分析に関するケース
  * IT投資水準比較
  * 競争力と投資水準
  * 戦略考案
 ◇B社:強力なトレーディング機能を持つ事業会社の海外事業展開のケース
  * 海外投資、事業提携模索
  * 海外事業展開のイメージ
 ◇C社:エレクトロニクス産業・ビジネスの海外進出に関するケース
  * ○○インフラ事業の海外展開
  * M&Aによる収益基盤の獲得早期化
  * 準備段階としての事業提携模索
【3】業務フロー〔一部のみ抜粋〕
 ◇海外での移動スケジューリングの例
 ◇海外業務における持ち物
 ◇海外業務のコツ
 ◇安全面での留意点
【4】仕事観・世界観〔一部のみ抜粋〕
 ◇エピソードまたは教訓
  * 米商務省・USTR(通商代表部)とのミーティング
  * ブラッセル郊外のお城での晩餐
  * 中国北京政府とのミーティング
  * UAE(アブダビ、ドバイ)での英コンサルティング会社幹部とのミーティング
 ◇海外業務を通じて得られる「仕事観・世界観」
  * ミクロはマクロに抗し難い
  * 多様な人々やその価値観と接することで得られるもの
   (与党政権への「政策提言」に関すること含む)
 ◇最近の気になる海外情報(日本のマスメディアでは殆ど報じられないもの)
 ◇おわりに:「仕事観・世界観」の共有と発展へ
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◆「全体概要」と「調査」という言葉のニュアンス

 「全体概要」については、すべての研究員や関係スタッフ向けを意識しています。海外業務(リサーチやスタディ、事業展開支援、提携やM&A関連など)に関する、弊社の総合研究部門(リサーチ・コンサルティングまたは政策提言機能を持つ部隊)の研究員による、代表的な「事例」についての情報(経験、知見)の共有が主だったものです。

ところで「調査」という言葉を、こだわりがあって私は普段使いません。
 英訳辞書を引くと、「investigation、research、study・・・」などとして示される通り、英語では「(隠された事実・原因の)investigation」という意味も含まれているからです。言い換えますと、どうやら「取り調べる、捜査する、スパイする」と言ったニュアンスで、欧米などの英語圏の相手に伝わるようなのです。

 もう20年ほど前、ある国の政府機関を訪ねた際、私が「私たちは、ここへ調査(investigation)に来ました。」と英語で挨拶したら、そのワシントンDCの米国政府高官が「君たちは、私たち政府機関を捜査・スパイしに来たのかね?」と笑いながらおっしゃっるので、初めて言葉のニュアンスを知るに至りました。私も笑ってとりなすしかありませんでしたが・・・(^-^)

 日本語で普段よく使う「調査」という言葉は、英語では「study」または「research」と言えばよいのです。従って以降、私は単純に日本語では「スタディ」や「リサーチ」と言い換えています。明治時代にできた言葉なのか、「調査」という言葉の成り立ちは分かりませんが、時間とともに随分と多様なニュアンスを含むかたちになってしまったと感じます。
 ちなみに、日本で最初に「調査機関」ができた組織は、「日銀調査部」であり、次に「満鉄調査部」とされるようです。確かに当時のこれら組織には、その米国人を驚かした意味の役割や機能があったのかも知れません。

 話しを戻します。もう少し「全体概要」をブレイクダウンしますと、次の通りです。

「全体概要」
◇海外業務に関する「業務フロー」の共有
 * 各種コツ
 * 注意事項(マナー、安全面など)
◇海外業務を通じて得られる「仕事観・世界観」の紹介
 * 自身の活動領域に「枠」をはめない
 * 最初の「業界」(クライアント):例)公共システム・サービス、通信・メディア、エレクトロニクス、金融
 * 仕事の性質:例)リサーチやスタディ、経営コンサルティング
 * 業務の内容:例)研究開発、マーケティング、財務・ファイナンス、組織、政策提言
 * ミクロはマクロに抗し難い:
企業経営や国の個別政策【ミクロ】を、マクロ経済やグローバル金融【マクロ】という与件・パワーが左右
◇多様な人々やその価値観と接することで得られるもの

 今回の研修対象は若手が中心となりますので、その知識や経験不足もあって、恐らく半分も理解できればよし、とすべきでしょう。新たなことばかりでしょうし、かなり高度なことも扱いますので。

◆「仕事観・世界観」についての位置づけ

 上記【4】については、弊社の経営幹部やシニア研究員(クラスター長やディレクター、マネジャーら含む)にとっても、それなりの示唆が得られるだろうものを盛り込みました。

 このパートについては、実質一部の研究員・スタッフ向けとなりましょう。何となれば、「①〔機会⇔関心〕+②知的体力+③内省(仕事観・世界観)」なる要件を満たさない限り、そう一朝一夕で同様のことを追体験したり、習得したりすることは難しいと考えるからです。

 この①~③の意味について。まず、何かしらの①「機会」(チャンス)が訪れた際、それをモノにするだけの①「関心」を持てるかということが第1関門です。何かに(この海外に関する事象など)「関心」を持てることも、ある種の「能力」だと思います。別に海外業務に関することに限らず、すべてはここからスタートとなります。

 次に、②「知的体力」があるか。これは前述の「関心」を持ち続けることのできる忍耐力・持久力に相当するものです。瞬発力だけでは、なかなかモノにならないでしょう。最初は感度が鈍くとも、物事の飲み込みが芳しくなくとも、知的好奇心をずっと続けて持てる状況になっているかがポイントだろうと思います。第2関門です。

 そして、③「内省」を通じ「仕事観や世界観」を持てるところまでの段階(第3関門)に、どの程度到達できるかどうかが重要だと思います。私の到達度など大したものではまったくありませんが、やはり経験的にも、やりっ放しではなく、何がしかの自己へのフィードバック(≒内省)が不可欠だと今では痛感しています。ムダを嫌う効率重視の若手の“スマート” な研究員にとっては、余計なことと映るかも知れませんね。しかし、ここが当人のその後の分岐点になるところだと思います。「急がば回れ」。一見ムダと思えることも、心がけ次第では必ずしもそうとは言えないのです。

 最初の知識や価値観を基礎にスタートし、個々の経験を通じ、言い換えると、その間の相手・対象との対面のなか、時に共感を覚え、またある時には「そんな馬鹿なことはない」と違和感を覚えるなどの過程を経ながら、都度知見として蓄積していくのです。つまり、単に机上の知識のみに留めず、自身の「仕事観」として昇華していくのです。主に机上に集まるデータや情報を基に分析作業を行うアナリストやエコノミストとは、ここが大きく異なります。もちろん経験のみで何事も判断はできませんが、知識とこの経験がうまく重畳(オーバーラップ)させることが求められます。

 何だか欧米人の典型的な思考方法である弁証法的な物言いで、やや抵抗があることなのですが、「スタート(始原)→対立(矛盾)→昇華(止揚)」と言うプロセスを経ることになります。仕事は何でもそうですが、お決まりの仕事となっては刺激が得られず、長続きしないものです。お決まりの退屈な仕事にならないように、仕事そのもののやり方を時折変えたり、様々な工夫を施したりすることが肝要でしょう。

 また、少々大袈裟かも知れませんが(私にとっては大事なことなのですが)、「世界観」を持つことの意味です。このことは、リサーチ・コンサルティングの仕事をもう19年もやって来て、ようやく少し前に気付き始めたことです。私のような凡人には、このくらい時間がかかったということです。かつてFDR(フランクリン・デラノ・ルーズベルト)が「In politics, nothing happens by accident. If it happens, you can bet it was planned that way.」(政治の世界では、偶然に起こる事件など何もない。もし何か事が起きたとすれば、それはそうなるよう周到に計画されたことなのだと、賭けてもいいよ」と言ったことが、どうも最近頭をよぎるのです。

 「世界観」、言うなれば世界を観る視点、あるいは世界がどのように動いているかを分析・評価する際の物差し。こうしたものを持っていることにより、読者の皆さんの「仕事」に良き刺激を与え、幅と深みをきっと与えてくれるのではないかと思います。「リーマン・ショック」後の世界は大きく変わろうとしています。世界(そして日本)が、どこへ進もうとしているのか、どうなってしまうのかの手ががかりを模索したいと思います。

 当コラムでは、世界のパワーエリートたちによる“世界経営”としての「グローバリズム」およびその関連としてのマクロ経済や金融・財政問題、そして企業経営に関することを、「トランス・グローバリズム」の観点から、少しずつ記して行きたいと思います。私の備忘録でもあります。弊社のHP上のことですので、ややはみ出しそうな事柄は、私の個人Blogに補記しておこうと考えています。

 この≪海外業務を通じて得られる「仕事観・世界観」の紹介≫および≪多様な人々やその価値観と接することで得られるもの≫について、次回以降で記したいと思います。