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新保豊の週刊雑記帳(2007年02月)

■■■『週刊雑記帳』(2007/02/05~02/11)■■■

◆競合他社のケーススタディは基本中の基本なのだが・・・

 月曜午前。情報通信系サービス会社向けに企画プレゼンテーションを実施。昨年度と異なるポイントもいくつかあるが、定点観測的な要素もかなりある。クライアント企業のなかでも最も優秀なスタッフを抱えているところだ。学生の人気も極めて高い。昨年度、こことミーティングをしていても、いつも話が早く済むので、大変効率的に仕事が進んだ。ただ、効率性のみを目指すと、思いがけないことを失念することも出てくるので、油断は禁物。どんなときでも綿密な準備が求められる。

 月曜午後。当社研究事業本部内にて、今期(2006年度下期)のある委員会の中間報告会が実施された。月に2~3度の定例委員会での討議成果を、常務や本部長および関係マネジャーへ報告。私は委員ではなくオブザーバーとして参加しているが、恐らく最も多く発言し(でしゃばり)、分厚いドキュメントも作成しているだろう。そのドキュメントの中には、競合他社に関するケーススタディも加えている。

◆組織の課題を認識することから変革は始まる

 私の仕事では、いわゆるシンクタンク競合者というよりも、通常コンサルティングファーム(コンサルティング会社)と対峙する場面が多い。例えば、N社はシンクタンクの側面も大きいが、コンサルティング部門も強力なものをもっている。普段コンペで競合する先の中に、必ずといってN社の存在がある。その他日本のコンサルティング会社とは、そうコンペ状態にはなっていない、言い換えると、当社はN社とともに、クライアント企業のオファー時に必ずといってショートリストに入っている、ケースによってはかなり優位性が高いのではないかと感じている。

 ただコンサルティング分野全般としては、一部のトップ級企業を無視できない。また、そうしたトップ級企業のHP(Web)を用いた情報発信力は、この1~2年の間で大きく高まった。当然、当社のケーススタディ先となる。よいものはよいものとして素直に認めることからすべてが始まる。しかしながら、この委員会の面々にその意識が欠けることをずっと感じてきた。

 この委員会のそもそもの狙いは何かという目的や目標に照らすと、ここで提出されたドキュメントや発言は道半ばだ。自身の発言が全体の中でどのように位置づけられるかを理解することが必要だろう。にもかかわらず、中にはかなり独りよがりなものも散見される。本日の各メンバーから提出されたドキュメント(およびその背景となる考え方・見方のレベル)が一層良くなるよう期待したい。いかなる企業も課題を抱え、その課題に対する認識の強さや的確性が、その後の企業のパフォーマンスを変える。その意味で当社のこの委員会での取り組みは、本部全体のパフォーマンスを占う分水嶺となっている。

◆年度末には引き受けられる仕事が限られてくる

 火曜早朝。定例のM&I(マネジメント&イノベーション)勉強会を開催。テーマは、「情報爆発時代の技術の伝え方」。取り上げた書籍は、畑村洋太郎著『組織を強くする技術の伝え方』(講談社現代新書)だったので、いささか勉強会としては、情報爆発時代というテーマと著書の内容は、マッチングしていなかったように感じた。

 火曜午後。欧州系投資銀行とあるプロジェクトに関する契約内容を確認。また米国系投資銀行およびその顧客企業とのミーティングに向け資料を作成した。夕刻、当社の常務らと一緒に、ある情報通信系企業の代表取締役副社長と金融系部門の取締役らと神楽坂のある店で会った。この店は、かつて住友銀行とさくら銀行の合併の舞台裏となったところ。副社長氏は大変きさくな方で、当日は国内の事業に関することよりも、むしろ海外事業に関する話題で盛り上がり、時間が経つのを忘れるほどだった。当社常務は、たまたま翌日に上海と北京の出張が入っており、中国事業への展開などもその晩の関心事となった。

 水曜午前。霞が関方面のある業界団体で、無線携帯電話、FMC、インターネット電話に関するリサーチ依頼仕事の件で話を聞いた。どれも大変興味深いテーマだったのだが、当社の体制が十分に組めないと、この夜には判断し、翌日にはこの案件をお断りした。お断りする理由には、当社側の体制と予算面などの別の面もある。この年度末の時期、できる研究員・コンサルタントは殆ど売れていて、よほど彼らのインセンティブを高められるようなことでもない限り、クライアントに対し自信をもって臨める体制は構築できない。一般的に言えることだろうが、この時期の当社の課題でもある。

◆6年前のプロジェクトについての問合わせ

 水曜午後。2001年度の仕事に関する件で、ある情報通信会社から問合わせが来た。このときは、①IT投資水準の適正度合い、②多額な設備投資が必要となるデータセンタ-事業、③IT関係部門の組織戦略の設計など、に関するリサーチとコンサルティングを実施した。リサーチ先は、投資水準の高かった金融機関やユーティリティ産業だった。

 具体的には、米国(Credit Union系企業、南部の大手電力会社、住宅ローン等金融機関、ハーバード大学ビジネススクール)、カナダ(元中央銀行、国内最大の銀行)、欧州(英国内最大の銀行、同国住宅金融組合系銀行、スコットランドの電力会社、独IBM)であった。私のビジネスパートナーであるドイツ人(フランクフルト在住)の2人で、ほぼ2週間かけ各地でミーティングをもった。今でも当時をリアルに思い出せる、とても刺激的な出張であった。本日の問合わせでは、特に①に関する件を、もう1度数ヶ月間かけ見直したいということだった。

 水曜夕刻。ある情報通信系企業と一番町にてミーティング。これまでのブレインストーミングなどを通じ、約150のアイデアを出していたので、今回のプロジェクトの目的に照らし、それらを絞り込んでいった。本日も近くのタリーズ(市ヶ谷店)のポットサービスにより「ハウスブレンド」を飲みながら、またクッキー類をつまみながらのミーティング兼ブレインストーミング。タリーズの「ハウスブレンド」は、スターバックスのそれよりも断然旨い。プロジェクトの残り時間も短いため、一気に5~6ほどのアイデアに絞った(集約した)。また、ある新しい通信方式によるアイデア出しおよびビジネスのカタチに関する件も、併せて討議。結果、大変野心的なイメージにまとまりそうだ。今後これらをさらに具体化することとなる。面白くなってきた。

◆米国系や欧州系の投資銀行とのミーティング

 木曜午前。東大経済学部のチームと霞が関にで、MNPに関するミーティングをもった。この件でWebアンケートの実施を控えている。午後、米国系投資銀行とその顧客であるフランス系金融機関とのミーティングを一番町にて持った。本国フランス(パリ)の本社に、日本の通信や放送に関する事情を報告するために、私どもの意見を聴取しに来たのだ。よく次のように言われる。「あのCIAすら、ある国に対する戦略および行動決定のために、その国に関する7~8割を公表情報から得ている」と。ポリシー・ウォッチの大半はこの程度の情報でできる。

 最近では、前総務大臣の竹中平蔵さんがそのことを、あるテレビ番組(第二日本テレビ:2007年1月19日オンエア)で言っていた。当日の担当者は、総務省などから公表されたドキュメントには目を通していた。しかし、あまり十分ではなさそうだったので、追加の関係ドキュメントを示し、加えて私の仕事で得られた知見・経験から関連事項について示唆差し上げた。これで「7~8割の公表情報」以外の情報(残り2~3割分)になったであろうか。

 続けて、欧州系の証券会社のディレクターが来社。あるメディアを用いた情報配信に関する仕事の件だ。関連するドキュメントを受け取り、市場規模やその市場の成長性などを推定するための準備に、関係メンバーやアシスタントにとりかかってもらった。

◆経営コンサルタントの「仕事の立ち位置」

 金曜朝。出社途中、タリーズのお気に入りのコーヒー豆を購入してオフィスへ。このコーヒー豆は酸味と苦味のバランスが大変よくとれていて、ここ数ヶ月はいつもこればかりを飲んでいる。飲むと頭がたちまちすっきりする。

 午後、情報通信会社とミーティング。来週から本格的な仕事になり、忙しくなる。プロジェクトの期間は短く、週に2回のペースで定例ミーティングを重ねることになるが、大変興味深いテーマである。私たちのコンサルティング現場の仕事は、クライアント企業と一緒にサービス戦略やマーケティング戦略などをつくり、その後、クライアントが実際のアクションに出る。その結果が、そのビジネスのパフォーマンス(収益や市場シェアなど)に反映される。そのデータをフィードバックすることで、戦略の修正を施すこともできる。経営学の教科書の理論を実際の競争市場にてアクションに移し、その理論の有効性を検証できる。

 よく学者は次のようなアプローチをとる。それは、企業ヒアリングや当該分野の事業者へのアンケート調査結果から得られたものから、その理論を構築したりその有効性を確認したりするやり方だ。私たちコンサルタントのやり方は、その関わり具合(コミットメントの深さ)などの点で、この学者のアプローチとは決定的に異なる。

◆戦略は細部に宿る(Strategy is in the details)

 竹中前大臣が、「政策は難しい」「私のように政策の勉強を30年やって来ても、約5年半、実際の実務に就いたことで分かったことがたくさんあった」と前述の番組で述懐していた。行政においても産業界においても現場を知らない学者では、通用しないことも多々あろう。翻って、シンクタンクやコンサルティング会社の現状はどうか。経営コンサルタントは産業界を相手に、ビジネスの現場の中に深く入り込んで仕事ができる場合が少なくない。一方、行政を相手にしている研究員・コンサルタントは、実際に行政の実務に取り組むという経験が通常ない。竹中さんが指摘しているように、この実務という経験がないゆえ、行政担当者と同等レベルで政策を立案していく能力に欠ける。もちろん「経験」は必要条件であり、十分条件ではない。経験しても能力を発揮できないこともある。

 また、経済財政諮問会議メンバーでもあった竹中さんは、「戦略は細部に宿る」といったようなことを述べていた。「God is in the details」(神は細部に宿る)をもじったものだ。元々は、20世紀中頃に活躍したドイツの建築家Mies van der Rohe(ミース・ファン・デル・ローエ)の言葉だ。例えば、郵政事業に関し「完全民営化」と「完全に民営化」は異なるそうだ。前者の民営化の対象は郵政事業であるのに対し、後者では郵政事業を必ずしも指している訳ではなく、いくつかの民営化対象のどれかを指しているらしい。「このように対象を曖昧にしてしまうことで、条文を骨抜きにする。これが頭の良い官僚のやり方である」と。

 こうした実務現場の経験なくして、確かに細部を知ることはできないだろう。当社の場合はどうか。OB(エコノミスト)が、現在内閣府などで仕事をしていたり、出向者(政策系研究員)がある県の泥臭い現場で貴重な体験を重ていたりするケースも多少はある。この「経験」の厚みを増していくことが、中央(国)や地方行政の舵取りの方向をチェックし、途中過程での無駄を省くことに寄与することになろう。その真の寄与という観点では、わが国の民間シンクタンクの影は薄い。竹中さんの言には、傾聴すべきことが多い。民の立場からの行政のチェックの質を上げていくことが、わが国に求められている重要な課題であると教えられた。

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