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JRI news release

2008年10月22日

投資銀行危機の実相と今後の方向性 ~デレバレッジと原点回帰のビジネスモデルへ~

<本稿の目的>
 アメリカ金融危機シリーズは、2008年以降のサブプライム問題が引き起こしたグローバル金融危機と新たなリスクについて理解するため、いくつかのテーマについて、これまでの状況を整理するとともに、今後の金融資本市場の課題と方向性の考察を試みるものである。第1回目では、アメリカの投資銀行のビジネスモデルの変化と今後の方向性について採り上げることにしたい。
< 要 旨 >
2008年3月のベアスターンズ破綻により顕在化した危機の背景には、投資銀行のビジネスモデルの変化がある。本来、投資銀行は、多種多様な調達ニーズを有する資金の借り手と多種多様な運用ニーズを有する投資家とを、幅広いネットワークをもとに付加価値の高いソリューションによって繋ぎあわることが業務の中核的部分であった。ところが、1990年代以降、競争環境の変化と金融緩和によって、自己のバランスシートを拡大させて収益を上げるモデルへと重点を移していった。
グローバルにマネーが膨張するなか、最終的な投資の受け皿としてアメリカほどの巨大な市場が存在しないことから、世界の金融資産のアメリカ一国集中状況が続いた。こうした金融・資産バブルの恩恵を受けたのがアメリカの投資銀行であった。遡ってデータをみると、1980年以降、投資銀行が保有する金融資産の残高が急増加している。とりわけ、好景気、住宅・株価の資産バブルを背景に、2007年の投資銀行の金融資産は1952年対比約1,000倍に増加した。
投資銀行は過剰流動性を背景に、低コストで短期資金調達を行い、高いレバレッジを掛けて証券等に投資を行うことで、高収益を生み出した。マクロ経済環境が順調な間は問題なかったが、景気減速とともに、このような投資銀行のビジネスモデルの弱点があらわになってきた。
第1は、損失急増の可能性である。ひとたびサブプライム関連証券化商品など保有有価証券の価格が下落すると、レバレッジの巻き戻しによって資産売却が拡大し、さらに価格が下がるという悪循環が生じ、その損失も一挙に膨らむ。この損失が一挙に広がることが商業銀行と違って投資銀行に特徴的である。
第2は、流動性リスクである。投資銀行は、預金という市場外からの短期資金の安定的な調達手段を持たないため、資金調達の大半を市場に依存していたことが致命的であった。
第3は、過小な自己資本である。高いレバレッジを掛けることは、裏を返せば自己資本が薄いことを意味している。従って、損失への抵抗力も小さく、損失が拡大すると債務超過に陥るのも早い。
さらに、証券担保融資による資金調達依存度の高まりは、市場価格の下落による資金調達の不安定性を増幅させた。
今回の投資銀行がもたらした危機は、金融システムにおける新たな危機の出現を予感させるものである。すなわち、預金流出や市場での資金調達難の発生による「古典的な流動性危機」とは異なり、デレバレッジ(レバレッジはずし)による資産投売り(fire sale)が保有資産の価格下落を加速し、流動性不足を増幅する形で、最終的には支払い能力(solvency)の問題に至るという新しい類型の危機である。
今後の投資銀行のあり方について考えてみると、高レバレッジの仕組みや複雑な金融商品は当面姿を消すであろう。投資銀行は、資産運用業務(アセットマネジメント:機関投資家・富裕層等資金の運用管理受託、投資顧問、運用ファンドの組成運用受託等業務)や企業のM&A(合併・買収)仲介業務など得意分野を生かした経営に特化し、資産を過度に膨らませずに収益の確保を目指す可能性が高い。さらに、リスク管理の強化と優れたノウハウを活用するとともに、より実体経済に近い業務に注力することで、本業への原点回帰(back-to-basics)の色彩を強めていくであろう。
< 目 次 >
  1. はじめに  
  2. 投資銀行危機の発生  
  3. 投資銀行のビジネスモデル変化の背景          
  4. 投資銀行ビジネスモデル崩壊の根因
  5. 証券担保融資の仕組みと問題点  
  6. 新型の金融危機~ドミノモデルに基づいた相互に強い依然関係
  7. 今後の投資銀行ビジネスモデルの方向性