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コラム「研究員のココロ」

シャッター通りをにぎわい通りに
~中心市街地活性化成功のヒント~

2008年03月24日 牛島美友


■基本計画の見直しは進むか

 かつて地域住民の生活の中心として栄えた中心市街地の衰退が問題となって久しく、平成10年に制定された「中心市街地活性化法」の下、各地で活性化のための取り組みが行われてきました。しかし、メディアに取り上げられるような成功事例が出てくる一方で、大多数の中心市街地では居住人口や事業所数の減少が続いているのが現実です(2004年、総務省「中心市街地の活性化に関する行政評価・監視」)。
 上記のような背景を受けて、中心市街地活性化法は見直され、平成18年に改正されました。旧法での商業機能をテコにした活性化から、新法では多方面からのにぎわい創出を目指し、公共交通や住宅、コミュニティといった新たな視点が加えられています。また、明確な目標・計画期間の設定がない、支援がバラマキ型であるといった旧法の反省点を踏まえ、新法では数値目標の設定や総理大臣による基本計画の認定といった、計画の実効性を担保する制度も設けられました。
 法改正後、新法に基づく認定を受けた基本計画の数は、平成20年2月現在、24市となっています。国の認定を受けたこれらの計画は、各省庁からの横断的な支援を受け、順次実行されていくことになります。一方、旧法に基づいて基本計画を策定した自治体は606に上ります(平成19年10月時点)が、新法の趣旨に合わせて計画を見直すのかどうか、興味深いところです。そこで当社では、中心市街地活性化基本計画を策定している自治体を対象としたアンケート調査を行い、中心市街地活性化に向けて取組みの現状や課題等を取りまとめました(平成19年10月実施。323自治体から回収)。

■民間参入に期待/ポテンシャルの高い土地の活用を ~アンケート結果より~

 アンケート結果によると、旧法下で中心市街地活性化の取り組みを行っている自治体は回答者の58.8%ですが、このうち34.2%は「今後見直しをする予定」としており、新法に合わせて計画をつくり直す自治体は今後も増加する見込みです。しかし、現在の中心市街地の現状は厳しく、小売業者数、小売業販売額とも5割以上が「減った」と回答していることから、もはや、小売を中心とする商業へのテコ入れに期待した計画では活性化は困難といえるでしょう。にもかかわらず、自治体の多くは依然として「商業・業務」を重視すべき要素として挙げており(81.4%)、商業以外に活性化の手段を見出しあぐねていることがうかがえます。
 一方、中心市街地活性化のための事業を行う上での課題として最も回答割合が高かったのは「財源の不足」でした。多くの自治体では自主財源での事業実施は困難であり、民間の活用といった、自治体財政にできるだけ負担のかからない形での事業が求められているといえます。また、「土地の所有者の協力が得られない」も課題として上位に挙げられており、これは、地権者との調整がうまくいかず、活用のポテンシャルが高い土地がみすみす低利用のままにされている可能性があることを示唆しています。

■土地の所有と経営を切り離す ~丸亀町商店街のモデル~

 地権者の意向を立てつつ、当該土地は有効に活用する。その有効な方策として「所有と経営の分離」を図る定期借地権の制度があります。この手法であれば、所有権を手放さなくとも貸すだけですので、一定期間すれば土地は地権者に返却されます。店舗等を設置、経営する側にとっても、土地を購入しなくてよいのでイニシャルコストを低く抑えることができます。また、複数の地権者をまたぐ土地も、まとめて借り受けることで商業ビル等を整備することが可能になり、民間ビジネスの採算に乗りやすくなることから、大手ディベロッパーといった新たな事業者の参入も期待できるようになると考えられます。
 筆者は昨年11月、この「定期借地権」を活用した活性化事例として有名な高松市の丸亀町商店街振興組合を取材する機会に恵まれました。丸亀町商店街では、土地に定期借地権方式を取り入れ、地元事業者が出資する会社がまとまった土地を開発・運営することで、地権者に土地を手放させることなくにぎわいのある商店街づくりを成功させています(スキームは下図参照)。このスキームは、地権者の全員合意が最も大きな障壁です。しかし、丸亀町では振興組合と地権者の熱心な努力によって、借り受けた土地を運営する第三セクター「まちづくり会社」を設立。ディベロッパーを呼び込みマンション・商業の複合ビルの建設を実現しました。そして、テナント誘致には地元に立地していた大手百貨店の協力を得て、いち早く商店街の再開発を行いました。

図

出典:矢作・瀬田著「中心市街地活性化 三法改正とまちづくり」掲載図をもとに筆者作成

■コンセプトのあるまちづくり

 丸亀町商店街はなぜ再開発に成功したか。もちろん前述の通り、振興組合と地権者の努力は欠かせない要因ですが、さらに大きな要因として、かねてからの振興組合の自主的な取り組みと明確なビジョンがあると考えられます。丸亀町商店街の振興組合は自らの環境がどうなっていくのかを地道に研究し続け、駐車場や賃貸ビルの運営といった自主的な事業を積極的に行い、その収益を商店街の整備に投資し続けてきたのです。再開発にあたっても、商店街をただ新しくするのではなく、商店街に不足しているものを十分に検討し、コンセプトに沿って妥協のないテナント・施設選びを行っています。例えば、再開発が完了したA街区(丸亀町商店街は開発を行う上でA~G街区に分けられています。)のコンセプトは「ドーム広場&ブティック街」。ドームは国内最大級の大きさを誇る、デザイン性も高いガラスドームです。完成後、ドーム下の広場では様々なイベントが行われています。再開発ビルの低層~中層階には、これまで進出していなかった海外有名ブランドやフレンチ・レストランを誘致し、高級感を打ち出しています。
 また、上記のようなテナントだけでなく、ビルの高層階にはマンションを併設しています。立地が良いこともあり、このマンションは全室完売となり、中心市街地のにぎわいづくりに一役買っています。先に見たアンケートでは、依然として商業機能重視の傾向がありましたが、丸亀町の事例からは住機能やコミュニティ機能といった商業機能以外の要素を呼び込むヒントも得ることができると考えます。


■土地のポテンシャルを活かす

 アンケート結果の通り、自治体の財政は非常に厳しく、民間の参入可能性があるところでないと、再開発のような大きな事業を自主財源だけで実施することは難しいでしょう。丸亀町は地元に立地する大手百貨店の協力はもちろん、再開発にあたってはディベロッパーの参入を得るとともに、国や自治体からの補助金を受けていますが、決して「頼る」というスタンスではありません。商店街の振興組合会長の古川氏によれば、補助金は行政にとっての「投資」であり、商店街が活性化することで行政もこの投資を回収できるはずだとの認識です。丸亀町のもつ自分たちの取り組みに対する自信とこだわりが、周囲の協力を呼び込んでいるのです。
 中心市街地の土地は、元来「投資」の対象となるべきポテンシャルの高い土地であることがほとんどです。丸亀町のような取り組みは、多くの中心市街地で取り入れることができるはずです。土地の所有と経営を分離するなど土地を活かせる状態にすること、現在のまちに本当に必要なものを見極めること、この2点がかなえば中心市街地は活性化に向けて動き出すのではないでしょうか。
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