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Business & Economic Review 2009年3月号

【STUDIES】
カバード・ボンド-グローバル金融市場における金融仲介機能回復に向けて

2009年02月25日 調査部 ビジネス戦略研究センター 主任研究員 河村小百合


  1. 2007年夏のサブ・プライム危機以降、グローバル金融市場は大きな痛手を被った状態が続いている。そうしたなか、いかにして金融仲介機能を回復していくかが重要な課題となっているが、本稿では、「プルーデントな(適切にリスクが管理された)」金融仲介機能を回復するための一方策として、カバード・ボンド(covered bonds、担保付き債券の意味)の活用を検討する。

  2. カバード・ボンドとは、一定の質が確保された安全性の高い融資を実行する民間銀行等が、当該債権を担保としつつ、発行銀行自身の信用力にも裏付けられた形で発行する債券のことである。担保債権、発行する債券(カバード・ボンド)とも、発行銀行のバランス・シート上に残るという意味で、オン・バランス型の市場型間接金融の一形態である。担保となる融資債権は、不動産向けと公共セクター向けが中心である。投資家にとって、カバード・ボンドは、担保債権および発行金融機関自身の双方にリコース(遡求)することのできる、「二重リコース債券」である点に特徴がある。そのため、各国国債に次いで信用力が高く、かつ、国債よりは若干高めのリターンを期待できる投資対象と広く認識されている。その裏返しとして、発行銀行の立場からは、低利で資金調達を行うことができる。

  3. では、なぜ、今、カバード・ボンドに着目するのか。それは、次の理由による。すなわち、a.市場型間接金融自体は、金融仲介機能を円滑化・効率化するもので、その重要性は、今回の危機を経ても不変であること、b.カバード・ボンドは、今回の危機で露呈した、市場型間接金融の一手法としてのオフ・バランス型の証券化市場(資産担保証券等)の弱点を克服する特質を具備していること、そして、c.そうした特質に対する市場関係者の高い評価が、カバード・ボンドのこれまでのパフォーマンスから確認できること、とりわけ、市場に極度のストレスが作用している今回の危機の局面においても、他のオフ・バランス型の証券化商品とは異なり、総じて堅調なパフォーマンスをみせていること、の3点である。

  4. カバード・ボンドの市場規模は欧州諸国を中心に急速に拡大し、欧州の債券市場においては、主要な一角を占めるに至っている。この背景には、近年の金融技術革新により、特定の法制度の基盤が整っていなくても、ストラクチャード・カバード・ボンドを発行することが可能になったことのほか、法制度を整備する動きが各国で拡大している点も指摘できる。

  5. 今回の国際金融危機の局面におけるカバード・ボンドのパフォーマンスを、アセット・スワップ・スプレッドによってみると、同種の債権を担保とするMBS(モーゲージ担保証券)に比較して、その堅調さが際立っている。カバード・ボンドの、「プルーデントな」金融仲介手段としての制度設計およびその運用が、市場から評価されていることの証左であると考えられる。

  6. グローバル金融市場における本来の金融仲介機能は、政府の手によって取り戻せる性質のものではなく、民間金融機関によって回復するよりほかにないものである。そのためには、多様な分野において、様々な関係者が地道な努力を積み重ねていくほかに途はなかろう。「プルーデントな(適切にリスクが管理された)」金融仲介機能を回復するためには、市場型間接金融の一方策でありながら、オフ・バランス型の証券化市場が抱えている弱点を克服する特質を元来から兼ね備えているカバード・ボンドを、さらに広く活用する余地があるのではないか。わが国においても、将来的には、法制度の整備をも含めて、検討することが望まれる。


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