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Business & Economic Review 2006年11月号

【STUDIES】
アジアの貧困削減とマイクロファイナンス

2006年10月25日 向山英彦


要約

  1. 1990年代後半以降、貧困削減は国際社会が協力して取り組むべき最重要課題となるなかで、マイクロファイナンスが注目されている。それは貧困削減に有効であるとともに、金融機関の収益性が確保されるためである。

  2. 東アジアでは高成長が持続した結果、貧困人口比率は低水準となったが、アジア全体では依然として膨大な貧困人口を抱えている。なかでもインドやバングラデシュなどの南アジアでは貧困人口比率が高いうえ、絶対数で世界全体の約4割を占める。

  3. 東アジアで貧困削減が進んだのは、適切な開発政策にもとづく成長の持続と農村開発によるものである。中国では80年代前半、請負生産方式の導入により農業生産が増加するとともに、郷鎮企業の誕生により農村の工業化が進んだため、貧困人口比率が急低下した。その後開発の重点が沿海部にシフトしたのに伴い、貧困削減のペースが鈍化した。現在、政府は地域開発を本格化し貧困削減に取り組んでいる。

  4. 中国と比較すると、インドでは輸出志向工業化の開始がかなり遅れた。インドの貧困削減には、労働集約産業の輸出拡大により農村の過剰労働力を吸収することが必要であると同時に、灌漑、道路、鉄道、港湾などのインフラが不十分なため、その整備が急がれる。また農村の所得向上と所得変動リスクの軽減のためには農業以外の収入源を多角化することが必要であり、この点でマイクロファイナンスに対する期待が大きい。

  5. マイクロファイナンスとは、低所得層および自営業者、零細企業に対する金融サービスの提供である。世界的に広がるなかで業務内容の多様化と商業化が進み、最近では、マイクロファイナンス機関を対象とした投資ファンドが現れている。

  6. 新しい動きがフィリピンでみられる。同国では国内の雇用機会の不足を解消するために、政府が海外就労を積極的に支援している。海外就労者からの送金額は同国のGNPの約1割に相当する。その海外就労者からの送金の一部をマイクロファイナンスの資金として活用する動きが開始した。

  7. マイクロファイナンスには所得の向上やリスク対応力の向上、小規模事業の促進などの経済的効果があるが、決して貧困削減の万能薬ではない。最大の問題は極貧層がアクセスできないことである。この点では、バングラデシュのBRACが「超貧困層をターゲットにした」プログラム、グラミン銀行が「物乞自立支援プログラム」を開始しており、今後の成果が注目される。

  8. マイクロファイナンスは全体的な開発政策のなかに組みこまれることにより、貧困削減効果が高ま
    る。貧困削減には、a.適切な開発政策にもとづく「貧困削減を伴う成長」の持続、b.農村開発および貧困層をターゲットにした政策の実施、c.社会保障制度を含むセーフティネットの整備など、総合的なアプローチが必要である。

  9. 今後、日本とアジアとの経済的相互依存はより一層強まることが予想される。したがって、日本がアジアの貧困削減に協力することはアジアの持続的発展に貢献するだけでなく、日本経済の成長基盤の強化にも資する。
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