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都市の魅力・競争力としてのゼロカーボン

2021年06月08日 中村恭一郎


 創発戦略センターのグリーンチームでは、来年4月に施行される「配電事業ライセンス制度」に着目し、地域企業連携による「新しい配電事業」に向けた取り組みを進めています。今年1月には「ローカルグリッド研究会」を立ち上げ、配電事業への参入を希望する民間事業者の意見を集約し、政策提言をまとめました。また、地域の自律的電力インフラを確立することが脱炭素社会の実現とレジリエンス向上に資するという見解を5月25日付オピニオン(七澤安希子「【グリーン】地域の自律的電力インフラ確立と個々人が担う役割」)で発信しています。これらに関連して、本稿では「都市の競争力としてのゼロカーボン」について、海外の最新都市開発事例を採り上げます。

 筆者は、この10年来、海外スマートシティの調査、事業開発に携わってきましたが、現在注目している都市開発プロジェクトに英国ロンドン市郊外で進む「ブレントクロスタウン開発」があります。ロンドン中心部から整備中の地下鉄ミッドランド本線で10分強の場所に、2024年までの第一期開発だけでも6,700戸の住宅を建設、オフィス等で2万5千人分の雇用環境を作り、20haにも及ぶ公共空間(緑地公園やスポーツパーク)を整備するものです。ロンドン周辺で最新の都市開発事業であり、地元自治体が定めた地域再生計画の具体化として、自治体と現地デベロッパーの協働により計画が進んでいます。

 筆者が同開発に着目する理由は、開発地域で「ゼロカーボンタウンの実現」を“公約”しているからです。「遅くとも2030年までにゼロカーボンタウンを達成する」としており、実現に向けた具体策として、徒歩・自転車・公共交通の最適利用、ゼロカーボンの熱融通網、木造建築による大規模オフィスの整備などが示されています。これまでも、低炭素化、脱炭素化は都市開発のテーマとして存在しており、ブレントクロスタウン開発が掲げる個々の施策が特段革新的な訳ではないのですが、自治体も開発主体として責任を負う大規模開発事業において、ゼロカーボンの実現が公約されていることは注目に値します。また、同開発に携わる民間デベロッパーが「公約実現は事業者としての責任である」とまで明言している点に注目したいと思います。非常にチャレンジングな取り組みであるゼロカーボンタウン実現に、官民の双方が強くコミットメントしていることには驚かされました。

 こうした事例に触れ、筆者は、この先ゼロカーボンの実現が都市の魅力・競争力の源泉になっていくだろうと考えています。そうした中、冒頭に述べた配電事業ライセンス制度の開始は、都市の基盤インフラである電力の領域でゼロカーボン実現をけん引する重要施策になると期待されます。創発戦略センター・グリーンチームでは、引き続きこのオピニオンやセミナー開催等を通じて、配電事業ライセンス制度により立ち上がる「新しい配電事業」がゼロカーボン実現などの地域・都市の価値向上にどのように貢献していくのか発信を続けていきます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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