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CSRを巡る動き:生物多様性保全のための情報開示

2020年09月01日 ESGリサーチセンター、古賀啓一


 2010年に愛知県で開催された生物多様性条約(CBD)第10回締約国会議(COP10)から10年が経過しました。2020年10月に予定されていたCOP15では、当時策定された2020年に達成すべき目標(愛知目標)の達成状況を踏まえ次の目標設定が進められる予定でしたが、会議は新型コロナウイルス感染拡大による延期が決定しています。国際的な生物多様性に関する取り決めが遅れる一方で、民間レベルでの取り組み圧力は強まりを見せています。

 生物多様性条約の当面のスケジュールを確認すると、生物多様性条約科学技術助言補助機関会合(SBSTTA)の文書が8月にかけてレビューされている状況です。内容は、愛知目標に替わる2050年目標や2030年マイルストン、モニタリング要素、そしてSDGsとのリンケージなどです。SDGsとのリンケージについては、愛知目標に定められた20項目との関係が既に整理されており(注1)、新しく策定される目標についても同種の整理がなされる予定です。SDGsに取り組む企業が増加する中、改めて生物多様性保全への取り組みに注目が集まることになります。

 SBSTTAのレビュー後の文書は9月目途でドラフトとしてまとめられ、11月に予定される次のSBSTTAを経て、2021年1月以降に最終ドラフトとなる予定です。延期されたCOP15の開催日程は未定ですが、ドラフトがまとまる9月に開催予定のUN Biodiversity Summit of the Heads of Stateなども、1つのマイルストンになりそうです。

 民間レベルでは、生物多様性に関する情報開示圧力が強まる様相を見せています。気候変動に関する情報開示については、G20の要請から始まったTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が立ち上がり、国内では276の企業・機関が賛同しています(2020年6月22日時点)。これに倣って民間主導のタスクフォースとして新たにTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)を、COP15開催と併せて立ち上げようという動きが進められています。気候変動だけでは自然由来のリスクを捕捉するには不十分であるという認識のもと、生物多様性を含む、より包括的な情報開示が求められることになります。

 国内の生物多様性に関する情報開示の現状を確認すると、経団連企業会員および生物多様性民間参画パートナーシップ(JBBP)企業会員に実施された2019年度の調査によれば、アンケートに回答した企業の74%が生物多様性に関する何らかの情報開示をしています。一見、広く情報開示が進んでいるようですが、その内訳を確認すると、定量目標の設定が出来ていると答えた企業は27%にとどまり、客観的な目標設定・実績の把握に苦心している様子が窺えます。事業と生物多様性とのかかわりを整理し、客観的に評価できる指標は何か、検討を始める必要があります。

 現在も世界経済に影を落としている新型コロナウイルスについて、野生生物との接触と人の移動の拡大が原因ではないか、という懸念も持たれています。気候変動が事業に与える影響のように、生物多様性保全の失敗が与える影響についても今後さらに理解が広まることになるでしょう。自然由来のリスク認識のため、情報開示の求めに改めて備える必要があります。 


(注1)CBD “Biodiversity and the 2030 Agenda for Sustainable Development: Technical Note”
 https://www.cbd.int/development/doc/biodiversity-2030-agenda-technical-note-en.pdf



本記事問い合わせ:古賀啓一
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