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【ポストコロナのローカルDX戦略~時空を超える公共サービスの可能性~】
第2回 学校教育サービスのDX

2020年06月11日 山崎新太


1.従来の学校教育について
(1)はじめに
 新型コロナウイルスの影響を大きく受けた分野の一つは「学校教育」である。文部科学省の調査によれば、4月22日時点で全国の約94%の学校が休校措置を決定した。長期の休校措置は子ども達自身と親に様々な不安・懸念を与えている。学習進捗の遅れ、家庭環境による自宅学習の質の差、友達と会えないことによる不安、進路への影響など、枚挙にいとまがない。筆者もこの2カ月間、子どもの教育環境確保に腐心した親の一人である。
 休校が長期化し、自宅学習が日常になりつつある中、社会は「公教育のあり方」について再考の余地があると感じたのではないか。学校に行かなくてもオンラインで一定程度の学習ができる可能性、日本と世界と教育環境の違い、指定教科書と教室での授業よりも効果的な教育が安価に受けられる可能性、学校や教室で真に教えるべき内容など、今まで教育界で議論されてきたことが、この緊急事態によって一般市民の中でも話題に上がるようになった。
 学校教育に関する議論は多岐にわたる。中央教育審議会の初等中等教育分科会の構成を概観すると、初等教育と中等教育のそれぞれにおいて、全体的な教育内容、教科ごとの内容、教職員の養成や働き方、地域との関係等、様々な側面から議論がなされてきた。本稿はこれら多様な教育論について扱うものではない。特に義務教育(小学校・中学校)は子どもたちの人格形成に大きく影響を与えるため、大きな方針転換やデジタル化・遠隔化は慎重な議論を経た上で検討されるべきものである。
 一方、後期中等教育である高等学校については、もう少し自由な議論や教育方法が許容される可能性があると思われる。また高等学校のあり方は地域の将来を担う人材育成など、まちづくりとの関連性が強い。そこで本稿では、高等学校とまちづくり・地域活性化および財政の関係に絞って、DXの視点から論じることとする。

(2)高等学校とまちづくりの課題~人材流出は高校進学時にはじまる
①高等学校の統廃合と小規模化
 高等学校の抱える課題のうち、特にまちづくりと関連性の深いものとして、過疎地域における「高等学校の統廃合」および「小規模化」が挙げられる。
 高等学校の統廃合については、自治体の財政難を背景に、すべての都道府県で公立高等学校再編整備計画が策定されており、その中では生徒数の少ない小規模校は統廃合される方向が示されている。全国の高等学校数は平成元年の5,511校をピークに右肩下がりであり、平成30年度時点では4,897校にまで激減している。
  小規模校については、多くの生徒とともに学ぶ機会の不足、部活動等の課外活動の不足、教職員の不足(教員が専門教科外も担当せざるを得ない)などの課題が指摘されており、都市部と過疎地域における教育格差が懸念されている。また小規模校ほど学校運営の効率性を高めることが困難であり、生徒一人当たりにかかるコストが大きくなる。
 このように過疎地の高等学校が廃止される、あるいは地域間の教育格差がある場合、高等学校進学時に若者が地域から流出する可能性が高まる。例えば国土交通省の資料からは、離島の約90%には高校がなく、中学卒業者の約3割が島外に進学していることが分かる。また筆者の関わるある地域では、町内に高校は1校のみであり、かつその高校の大学進学率は低いため、大学進学を目指す学力の高い生徒は高校進学時点で地域を出てしまう。そして15歳で地域を離れた若者が、その後戻ってくることは簡単なことではないという。
 すなわち、地域における高校の有無が、将来その地域で重要な役割を果たし得る高度人材の確保に影響を与え、中長期的なまちづくりに影響を与えている。大学進学時の人材流出はかねてより課題として指摘され、東京23区内の大学において定員増加が禁止されるなど対策が講じられているが、人材流出は高等学校進学時にすでに始まっているのである。


②高等学校とキャリア形成
 後期中等教育に位置づけられる高等学校は、小学校や中学校と比較して、生徒のキャリア形成に大きな影響を与える。社会に出てからどこに身を置き、どのような技術・能力を身につけ、どのように生計を立てるのかは、どのような高等学校で学ぶのかに影響される。
 これは人口減少と少子高齢化が加速する過疎地域にとって大きな課題である。地域の再生には、地域特性に精通し地域課題の解決を仕事とする人材の育成が急務である。しかし、そもそも高等学校が地域内に立地しない、あるいは立地していたとしても地域課題に即した特徴的な教育が提供できていないのが現状だからである。
 文部科学省の中央教育審議会「新しい高等学校教育の在り方ワーキンググループ」では同様の課題認識が示されている。令和元年8月30日に開催された同WG(第2回)の資料「議論のための論点メモ(検討課題1・2関係)」には、「これからの社会を牽引し地域の将来を担う人材を育成するためには、社会とのつながりの中で高等学校教育を展開していくことが求められている」「各高等学校において、生徒の多様な実態や学校や地域の特性等を踏まえ、地元の市町村や国内外の高等教育機関、産業界、関係機関等の様々な分野における多様な主体との間で、組織的・継続的な連携・協働体制を構築するための方策について、検討する」との記載がある。

2.学校教育サービス(高等学校)のDX
 このように、過疎地域をはじめとした地方都市は、自らの地域のまちづくりと地方創生のために高等学校への関わり方を再構築する時期に来ている。現在、全国の約94%の公立高校が都道府県によって設置管理され、市町村の関わりは限定的であるが、今後は市町村と高等学校がより一層連携を深め、特色ある教育・学習環境を提供することで、地域内における高等学校進学率を高めるとともに、人材育成に取り組む必要がある。しかし先に述べた通り、都道府県の財政状況の悪化によって、過疎地域の小規模校を維持することは困難である。
 本稿では、この課題の解決策として市町村が中心となった高等学校のDXを提言する。厳しい財政状況の中でも、地方部・過疎地域において若者たちが望む高度な教育が受けられ、また若者たちの定住可能性・まちづくりへの参加可能性を高める方策である。

(1)DXされた高等学校~オンラインとオフラインの組み合わせが鍵
 高等学校をDXする際の成功の鍵は「オンラインとオフライン(現場)」のハイブリッドにあると考える。
 まず基本的な授業は、オンラインで実施される。授業は複数拠点をつなぎ、オンライン上の生配信とオンデマンド配信を組み合わせて提供される。これは現在の学校制度では通信制高校に位置づけられるものであり、オンラインの私立通信制高校に近いモデルである。授業の内容は数学・国語などの一般的な科目に加えて、観光や一次産業など地域性の色濃く出たものとなるであろう。
 教職員は全国から能力の高い教員をオンラインでつなぎ、ハイレベルで専門性の高い教育(課外活動も含めて)が受けられるようにする。例えば、学校法人角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校で用意されている「Advanced Program」では、大学受験、プログラミング、ウェブデザイン、中学復習など様々なテーマに沿って、各界の専門家が授業を行っている。また部活動も起業部、投資部、囲碁部、人狼部などがあり、やはり専門家が顧問を務めている。これは教育レベルの向上のみならず、教員の労務環境改善および人手不足の解決にもつながる。
 次に、オンライン授業で学んだ内容を、生徒の住む地域での実際の活動に結び付ける。田畑や山林、観光スポットなど現場での授業の実施、あるいは学んだことを活かした課外活動(職業体験やNPO等)に携わることが考えられる。地域活動における教員や支援スタッフは地元住民が担う。このように、オンラインで最先端の専門教育を受けながら、身近にある「学びの現場」でオフラインの実地体験ができることは大きなメリットである。

(2)DXによる効果
①生徒・家族にとっての効果
 高等学校のDXによって、生徒はいつでも、どこでも、自由に、自分のペースに合わせて授業を受けられるようになる。また教室における教師1名対生徒多数という形から、オンライン上で教師と生徒が一対一で対面できるようになるため、より個人のニーズに応じたサポートが得られるようになる。生徒個人の進捗に合わせた個別プログラムの提供も容易になるであろう。
 地域を離れずに希望の教育環境を手に入れられることも大きなメリットである。生徒が地元の高等学校を選択する理由としては、その高校の教育環境、地域への愛着、あるいは経済的理由、家庭環境など様々なものが考えられるが、すべての生徒・家族に対して、「地域に残りながら希望の教育を安価に受けられる」という選択肢を与えることができる。また高等学校のDXを進めるとき、自治体はカリキュラムの内容やレベル、教職員の選定などに多くの工夫を凝らすであろう。そのようなハイレベルで専門的な教育を受けられることは、意欲ある生徒にとって大きなメリットである。
 教育のBCPの面でもメリットがある。先に述べたように、新型コロナウイルスの感染予防のため、国内のほとんどの公教育が一時停止した。一方で遠隔授業に素早く移行した一部の私立学校や、元々オンライン教育に対応していた大学等は継続的に教育プログラムが提供されている。自然災害や感染症など予期せぬ事態にあっても、継続的に教育が受けられることは生徒にとって非常に重要なポイントである。

②自治体にとっての効果
 高等学校のDXによって、自治体は真に地域課題に則した教育を提供することができる。地域課題解決に取り組むのは、外部の主体ではなく第一に自治体や地域の主体であるべきで、そのためには地域に根差した人材育成が必須となる。自治体が地域の若者に地域課題の解決につながる教育を提供することは、まちづくりの観点からも効果が大きい。
 さらに、全国的な自治体のネットワーク効果も期待できる。地場産業や地域特性に注目すると、一部の過疎地域には共通する特徴がある。例えば漁村地域、酪農地域、島嶼地域、自然資源豊富な観光地などである。それら共通した特徴を持つ自治体が高校を共同設立することにより、アグリテック、六次産業、ホスピタリティ産業など、地域特有のテーマに特化した授業・カリキュラム・課外活動について、地域が連携しながら提供することができる。同じ分野の夢・目標を持つ生徒が出会い交流できるのもよい。
 コスト面のメリットも挙げられる。小規模高等学校のコスト構造は約8~9割が人件費、残り1~2割が教材費や施設管理費である。後述の通り、複数の市町村が高等学校を共同設立したうえで、全国から教職員を雇用しオンラインで授業を提供することになれば、各市町村は従来型よりも大幅に財政負担を抑制して整備することができる。また、校舎を所有しないため、施設管理費も発生しない。

(3)実現に向けた課題
①誰が設置管理するのか:複数の市町村による共同設置管理
 DXされた高等学校は、ニーズの共通する複数の市町村が共同して設置管理することを提言したい。従来、高校は都道府県が設置管理することがほとんどとなっているが、「中等教育とまちづくり・人材流出」に関する課題は市町村が抱えているため、その課題解決に主体的に取り組む市町村が設置管理することが望ましいと考えるからである。
 しかし複数の市町村が共同して学校を設置する例は、極めて少ないのが現実である。現在、組合立の高等学校は全国で3校、複数の市町村が共同設立している公立大学法人も3法人のみである。また、これらはいずれも同一都道府県内の近隣市町村によるものである。共通する地域課題やニーズを持ち、必ずしも同一都道府県内ではない市町村が高校を共同して設置管理するには、それら市町村のマッチング機能や首長および教育長のリーダーシップが欠かせないであろう。
 なお、公立大学法人の設立には都道府県教育委員会の許可が必要となるが、複数の都道府県教育委員会の許可を得るのは極めて労力のかかる手続きとなる。都道府県を横断する共同設置時には代わりに国の許可を得ればよいとするなど、シンプル・簡易な手続きとなる制度設計が必要である。

②ノウハウ不足ヘの対応
 市町村のノウハウ不足も課題となる。高校の設置管理経験がない市町村が取り組む際には、官民連携スキームの導入が有効である。高等学校は自治体が設置するが、カリキュラムや教材作成、教員採用等の実務・タスクについて、官民がリスクと役割を分担しながら進めることが必須となるであろう。現在、オンライン中心の通信制高校については民間事業者にノウハウがあり、それらの私立高校では地域における職業体験等に積極的に取り組む例もある。地方創生が喫緊の課題となっている現在、それらの民間ノウハウを最大限に活用し、スピーディーに高等学校のDXに取り組むことが望まれる。

3.展望
 地域のまちづくりを成功させるには何よりも「人」の発掘、育成、定着である。地域発の高等学校DXによって、地域課題を解決する人材育成を市町村自ら行うことは、中長期的な価値を生み出す。地域課題を解決する主体的な力を身に着けるには、まず現場を知ることである。解決すべき課題を目の前にしながら高度な教育を受け、すぐに実践できることは地方部の高等学校でなければ提供できない価値である。一方、ある地域に閉じこもるのではなく、様々な人脈・ノウハウ・知見を吸収することも重要である。授業・校務のオンライン化により、共通する地域課題を持つ市町村で学ぶ学生と教員が交流すること、また対象テーマの第一人者の授業をいつでも受けられることは、DXの大きな強みである。
 この取り組みを進め、一人でも多くの若者が地域に残り活躍できる場を提供することは人材流出の抑制につながるであろう。また特徴的な教育を提供することは外部からの人材流入にも資する可能性がある。スポーツ強豪校に全国からトップクラスの学生が集まるのと同様に、いずれはアグリベンチャー教育校や観光産業特化高校に、その分野での成功を目標とする若者たちが入学してくることも起こるかもしれない。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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