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サステナビリティ・リンク・ローンの現状と今後の期待

2020年04月28日 長谷直子


 企業向け融資において、借入人の包括的なサステナビリティの取り組み成果と金利等の借入条件を連動させる「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」が拡がりをみせている。欧州を中心に2017年頃から同ローンの組成額が急速に増加し、2018年時点で320億ドルだったが2019年にはその2倍以上の713億ドルに達した。2019年3月には国際的な指針として、「サステナビリティ・リンク・ローン原則」が整備されており、今後さらに組成額の増加が見込まれる。

 SLLでは、借入人は資金調達にあたって、野心的なサステナビリティ目標を事前に設定することが求められる。サステナビリティ目標としては、自社独自の重要業績評価指標(KPI)を設定しても良いし、外部機関による格付等を用いてもよい。海外の先行事例を見ると、SSLの黎明期には外部機関による格付を向上させることを目標に設定している事例が多かったが、最近では自社のサステナビリティ戦略との整合を踏まえた、独自のKPIを設定する事例が増えてきた印象である。

 日本の大手銀行においても、海外の金融機関がアレンジャーとして組成したSLLのシンジケートローンに参加する形で、2018年頃から関与するようになった。最近では日本の銀行自身がアレンジャーとなるシンジケートローンについても、SLLが出始めている。国内でのSLLの実施例はまだ少ないが、2020年3月、環境省が国内におけるSLLのさらなる普及促進を目的として、「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2020年版」を公表した。ガイドラインの制定にあたっては、銀行部門や証券部門、コンサル・外部レビュー部門との意見交換会を実施するなど、市場関係者の意見を取り入れつつ、現場の実務担当者にとって参考にしやすい実践的な内容となっている。

 今後、日本でもさらなる拡がりが期待されるところだが、国内でSLLを推進する上で一つ課題がある。SLLの本来の目的である、サステナビリティ経営の高度化を進めるには、いかに借入人が「野心的な」サステナビリティ目標を設定するかが肝心だが、「野心的な」目標設定を促すためには、借入人にとって相応のインセンティブが必要となる。ところが国内では足元の低金利環境下、借入人がサステナビリティ目標を達成した場合に「金利を引き下げる」といったインセンティブをつけにくいという点がネックとなっているのだ。金融機関側も低金利政策により収益環境が厳しい状況下で、金利条件の優遇が難しいのも無理はない。ただ、金融機関に求められる役割は金利の優遇だけではない点に改めて目を向けたい。SLLでは、サステナビリティ目標の設定を通じて、借入人と事業課題について深く対話することも求められている。対話を通じて、借入人のニーズに合ったソリューションの提供などにより、ビジネス機会の獲得につなげることができるとすれば、借入人にとって有効なインセンティブとなり得るのではないか。金融機関が、借入人の中長期的な事業課題を見据えた深い対話を通じて、企業価値向上を共に目指す伴走者としての役割を担えるかが、今後日本でSLLを普及拡大させていくためのキーポイントになるだろう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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