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リサーチ・レポート No.2019-018

わが国の労働生産性のどこが問題なのか― 無形固定資産の積み増しと薄利多売・過剰サービスの是正を ―

2020年03月27日 牧田健


わが国の労働生産性の低さが指摘されているが、「生産効率」を示す「物的労働生産性」ではG7諸国のなかで必ずしも見劣りしていない。一方で、「稼ぐ力」を示す「付加価値労働生産性」は水準・伸び率ともに顕著に低い。両者の乖離の背景には、薄利多売とそれに伴うミスプライシングの定着が指摘可能。

薄利多売・ミスプライシングの定着は、内外でわが国を取り巻く経済環境が一段と厳しくなるなかで、製品の差別化が図られず、需要減退に対し価格引き下げ、労働コスト引き下げで対応してきたことが根本的な要因。結果として、国際的にみて労働コストの影響が強いサービス価格が著しく安くなっており、付加価値労働生産性の下押しに作用。

付加価値労働生産性の引き上げには、賃上げと内需拡大の好循環を構築する必要があり、その実現には、期待成長率の高まりや社会保障制度改革等を通じた将来不安の払しょくが不可欠。一方で、国際比較をすると、生産性引き上げには、①ジニ係数引き下げ、②R&D比率引き上げ、③ICT資本装備率引き上げ、④貿易比率の引き上げ、⑤公的債務比率の引き下げ、⑥小企業から大企業への雇用シフト、⑦小企業の付加価値生産性引き上げが有効。わが国は、特にICT資本装備率と中小企業雇用・付加価値に弱みを抱えており、同分野の改善に注力していく必要。

付加価値創出力の規模間格差には、①有形固定資産の資本装備率、②有形固定資産に対する無形固定資産投資比率、③海外現地法人からの配当の有無、が影響。このうち、資本装備率の引き上げは需要の伸びが限られるなか、設備投資効率の低下を招く公算。海外からの配当増加も中小企業には限界があり、中小企業の付加価値を底上げしていくには、ソフトウェア等の無形固定資産投資の積み増しが現実的な選択肢。

これを推し進めていくに当たり、製造業では、付加価値が減少するなかでも販路維持のため更新投資を余儀なくされており、資金面での余裕が乏しい状況。高い技術力を有する中小企業は、系列依存から脱し、自ら海外市場に打って出ることで付加価値創出額を高めていく必要。一方、非製造業では、中小・小企業ともに現預金を大幅に積み増しており、規模等の面でICTの必要性を感じていない、あるいは、活用できる人材が不足していると推察。無形固定資産投資のメリットが享受できるような環境を政府が中心になって整備していく必要。また、製造業・非製造業ともにICT化のメリットを高めるべく、規模の拡大を円滑に行えるよう税制面での支援も不可欠に。

「物的労働生産性」の改善を、値下げの原資ではなく「付加価値労働生産性」の向上につなげていくためには、薄利多売・ミスプライシングの是正も不可欠。そのためには、製品・サービスの差別化を図り、価格決定力を強化していく必要。国内では、富裕層の比率が上昇に転じるなど、「価格よりも質」を求める層が再び増加傾向。海外でも、主戦場であるアジアにおいて、わが国企業が価格面で勝負が可能な所得層が着実に増加。ターゲットを絞れば、わが国企業持ち前の高い品質やサービスを前面にブランディングしていくことで、一定の価格決定力を有することは可能。

わが国の付加価値労働生産性が米国の6割の水準まで低下しているということは、見方を変えれば、人口減少を補って余りあるほどの経済の拡大余地があることを示唆。再び欧米諸国にキャッチアップするべく、これらの国の経済・社会システムをうまくわが国に取り込んでいく必要。

わが国の労働生産性のどこが問題なのか― 無形固定資産の積み増しと薄利多売・過剰サービスの是正を ―(PDF:1,080KB)
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