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JRIレビュー Vol.10,No.71

【特集 外国人材の望ましい受け入れに向けて】
8章 シンガポールの外国人労働者受け入れ策-徹底した政策の効果と問題

2019年11月28日 岩崎薫里


シンガポールでは、1980年代から2010年頃まで外国人労働者を積極的に受け入れてきた。その結果、今や雇用者全体の4割近くを外国人(永住権非保持者)が占め、外国人労働者に大きく依存した経済構造となっている。

シンガポール政府は外国人労働者受け入れ策において、労働者を技能別に明確に区別したうえで、それぞれで大きく異なる政策を実施してきた。まず、低技能外国人労働者に関しては、国内の労働力不足を補う存在と位置付けるとともに、労働需給の変動に対応するためのバッファーとして活用している。このため、人数を常に調整可能な状態にしておけるように、結婚の制限や出産の禁止など、定住化を回避するさまざまな措置が導入されている。定住化の回避はまた、社会における低所得階層、あるいは異文化のコミュニティの形成を防ぐことで、低技能外国人労働者の受け入れに伴う社会的コストの極小化を狙ったものでもある。

一方、高技能外国人労働者に関しては、シンガポール国内にイノベーションと経済活力をもたらす存在と位置付け、各種の特典を用意して積極的に受け入れるとともに、永住許可、さらには国籍を付与することで定住化を促してきた。それらが奏功して、現在、高技能外国人労働者を巡る世界的な獲得競争が繰り広げられるもとで、シンガポールは「勝ち組」となっている。

シンガポール政府は2010年頃から、それまでの外国人労働者の積極的な受け入れを後退させ、抑制姿勢を強めている。国民がとりわけ高技能外国人労働者への反発を強めたことに加えて、低技能外国人労働者への過度な依存が経済の持続的発展にマイナスに働くとの懸念が強まったことが背景にある。

シンガポールの外国人労働者受け入れ策は、経済的な観点からすれば高い効果が上がっているといえる。とりわけ、低技能外国人労働者を徹底して管理することで、多くの国が直面する彼らの定住化や不法滞在の問題を惹起することなく、受け入れの果実のみを得ることができている。しかし、そうした措置は人道的な観点からは問題があるのも事実であり、一時滞在を前提に低技能外国人労働者を受け入れることの難しさが改めて確認できる。
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