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ESGスコアと信用リスクとの関係分析

2019年04月23日 長谷直子


 日本総合研究所創発戦略センターでは、三井住友銀行が実行する「評価型資金調達」において、資金調達を行う企業の環境側面やESG(※1)側面の取り組みの評価を行っている。三井住友銀行が2008年に「環境配慮評価融資/私募債」を開始して以来、その実行件数は400件を超えた(※2)。これまでに蓄積されたSMBC評価型資金調達のESGスコアと信用リスクとの相関分析を行い、ESGの取り組みを進めている企業は「信用リスクが低い」と言えるのか等を検証するために分析を行った(※3)。

 まず、環境側面の評価スコアをもとに分析を行った。「環境配慮評価融資/私募債」では、①環境負荷把握の状況、②環境保全対策の多寡と取り組みの成果、③環境マネジメントシステム構築の状況、④環境コミュニケーションと環境ビジネスへの取り組みの多寡という4つの観点から日本総合研究所が資金調達を行う企業の評価を行い、環境側面の評価スコア(以下、「Eスコア」と言う)を付与している。Eスコアと信用リスクに何らかの関係性があるかを確認するため、信用リスクを表すデータとして帝国データバンクの評点を用い、Eスコアとの相関関係を調べた。その結果、相関係数は、0.40(弱い正の相関が見られる)という結果が得られた。日本総合研究所の評価では、気候変動への適応に向けた取り組みや、土壌・水質汚染の調査など環境リスクマネジメントを問う設問も含まれており、漫然と環境問題に取り組むのではなく、経営戦略上のリスク対策としても捉えていなければ高いスコアを獲得できない。弱い相関ではあるが、リスク管理という視点も含めて環境問題に取り組む企業は、信用リスクを低減できている可能性があると言える。

 続いて、社会側面の評価スコアにも注目したい。三井住友銀行では2013年から、「サステイナビリティ評価融資/私募債(現在は、ESG/SDGs評価融資/私募債)」の取り扱いを開始し、評価の対象を環境側面だけでなく社会側面やガバナンス側面に拡張した。社会側面の評価では、企業は幅広い利害関係者(ステークホルダー)への公正な配慮が求められるという考えに基づき、①公正な経済取引、②顧客に対する誠実さ、③従業員への配慮、④サプライヤーへの配慮、⑤ローカル/グローバル・コミュニティへの配慮という5つの観点から方針、取り組み、実績について評価を行い、評価スコアを付与している。また、2017年から取り扱いを開始した「SMBC働き方改革融資/私募債」では、働き方改革の推進など「従業員への配慮」に向けた方針、取り組み、実績に特化して評価を行い、評価スコアを付与している。ESG/SDGs評価融資/私募債における社会側面の評価スコアと、働き方改革融資/私募債における、足元の取り組みと情報開示のスコアをSスコアとし、Sスコアと帝国データバンク評点との相関関係を調べた結果、相関係数は0.56(正の相関が見られる)となり、Eスコアよりも高い相関が見られた。日本企業は伝統的に環境問題には早期から着手し、環境側面の評価スコアは世界水準と比べて見劣りしない企業も多い。一方で労働慣行などの社会側面の評価スコアは相対的に低く、課題として指摘されてきた。上記の結果から、いち早く社会側面の課題に取り組み、足元で実績も出ている企業は、帝国データバンクの評点も高い傾向にあることが分かった。社会側面に配慮する企業は、「信用リスクが低い」という傾向が現れ始めていると言える。

 以上をまとめると、リスク管理という視点も含めて環境問題に積極的に取り組む企業は、信用リスク評価においても一定の評価を得る可能性があり、さらに、いち早く社会側面の課題に取り組んできた企業は信用リスクが低い傾向にある、という関係性を確認できた。因果関係の分析は今後の検討課題だが、ESGに取り組むことで信用リスクが下がる、といった因果関係が明らかになれば、評価型資金調達におけるESG評価は、企業の与信判断にも寄与すると考えることができるようになる。

(※1)環境(Environmental)、社会(Social)、企業統治(Corporate Governance)の頭文字を取ったもので、いずれの側面も企業が事業活動を展開するにあたって配慮や責任を求められる重要課題として考えられている。
(※2)2018年12月までに資金調達が実行された、環境・ESG/SDGs評価融資/私募債、なでしこ融資、働き方改革融資/私募債の累計の件数。継続して資金調達を行ったリピーターも重複してカウントしている。
(※3)分析の対象は、2008~2017年度までに三井住友銀行が資金調達を実行した企業のうち、帝国データバンクの評点を取得できた約180件である。リピーターは1件としてカウントし、直近のESG格付結果および評価スコアを使用した。なお、帝国データバンクの評点は2017年時点のものを使用している。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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