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【次世代交通】
自動走行ラストマイルで町をよみがえらせる(第2回)レベル4の実装は進むのか

2018年02月14日 井上岳一


 機械に走行を委ねるレベル4の自動運転が実現すれば、無人走行が可能となる。無人走行が可能になれば、移動は革命的に変わる。人の移動だけではない、物の移動=物流も変わる。産業革命以来、最初に鉄道が、次に自動車が移動を変え、産業を変え、社会を変えたように、自動運転は、移動を変え、産業を変え、社会を変える。とりわけ公共交通が貧弱で、マイカーに頼るしかない郊外や地方の暮らしに与えるインパクトは大きい。

 2020年に完全自動運転も含む高度な自動運転の実用化を目指す日本政府は、レベル4相当の自動運転を「限定地域」で実装(=サービスとしての実用化)していくとしている。「限定地域」の定義はないが、2020年に実用化される無人自動運転移動サービスのイメージとして例示されているのは、「過疎地等の比較的交通量が少なく見通しの良いエリア、市街地でも歩行者・二輪車などの突然の飛び出しが生じにくいエリア、あるいは、大学構内や空港施設内等であって比較的走行環境が単純なエリアなど」において、「時速は10~30kmなど低速」で、「あらかじめ定められた特定のルートのみ」を走行し、「搭乗可能な乗客は少人数」で、「特定の場所にて乗降する」移動サービスで、「運行状況はサービスを提供する民間事業者等により監視され」、何かあった場合は「遠隔のドライバー」が遠隔で運転を代わるか、「サービス提供者等が駆けつける」というものだ。そして、ドライバーではないが、乗降の補助など「補助的なサービス等」を行う人が同乗する(引用は「官民ITS構想・ロードマップ2017」。以下、「ロードマップ」と呼ぶ)。

 要は、「事故の起きにくい場所で、遠隔制御と定ルート・低速走行、車掌の同乗という条件下で認められる無人走行」ということだが、確かにこれならば実装しやすそうだ。ユースケースとしてイメージしやすいのは、「ロードマップ」でも例示されている大学構内や空港施設内をはじめ、病院や工場などの閉鎖環境内を走る巡回バスだ。閉鎖環境内なら、ナンバーもいらないし、警察や運輸当局の規制の対象にもならないから、その点でも都合がいい。
 「ロードマップ」では、そういう実装しやすい無人自動運転移動サービスが2020年以後全国に拡大し、「2025 年目途に全国の各地域で高齢者等が自由に移動できる社会を実現」するとしている。
 だが、この目論見が実現するかは、相当に怪しい。全国で実装されるには、事業として自走する(=ビジネスとして成立する)見込みが見えてこないからだ。

 ビジネスとして成立するためには、誰かがお金を払わないといけない。だが、限定地域内を定ルート・低速で走る移動サービスにお金を払っても良いと思うのは誰なのか。低速が条件だから、中長距離の移動は向かない。短距離の移動サービスにニーズがあるのは、閉鎖空間以外では、駅やバス停から自宅までの、いわゆるラストマイルだと言われるが、ドアツードアでもない、低速・定ルートのラストマイルにわざわざお金を払ってでも乗る人がどの程度いるのか。遠隔監視者と車掌の人件費に加えてシステム費と車両費まで含めての経費を運賃で賄うには、相当な数の利用者が必要になる。もちろん、運賃制でなく、無料巡回バスのような形でもいいが、そうだとして運行経費は誰が持つのか。自治体か。既存バス路線の維持費すらままならない自治体が、これ以上の負担ができるのか。

 限定地域の無人自動運転移動サービスの実装が2020年を目標としているのは、オリンピック・パラリンピックをショーケースにして、日本の自動走行の技術を世界にアピールしたいと国が思っているからだ。だが、オリパラで見せることができたとして、その後のことはまた別の問題だ。2020年に間に合わせるだけでなく、2025年までに全国で実装が進むようにするためには何が必要なのか。次回、その点を考えてみたい。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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