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【次世代農業】
農業ビジネスを成功に導く10のヒント ~有望な新規事業の種はどこに埋まっているのか?~
第8回 ヒント(7)2050年、新たな「肉」が人類を救う?

2017年01月10日 各務友規


 2015年時点における世界の総人口は約73.5億人。2050年にはこれが97億人に達すると推計されています(注1)。また、所得水準の向上やそれに伴う食生活の現代化が進行し、世界のたんぱく質需要が増大することが想定されています。これに対し、家畜生産を通じた動物性たんぱく質の供給は、そもそも生産効率が著しく低い(注2)こと、過放牧による環境汚染や森林減少を招く恐れがあること、動物福祉(アニマルウェルフェア)を重視する消費者の台頭等、さまざまな観点から、その限界が指摘されています。今回のメルマガでは、この地球上の人類を養い得るたんぱく質の確保に向けた近年のビジネスチャンスについて、興味深い3つのトピックをご紹介したいと思います。中には「ゲテモノ感」が拭えないものもありますが、人類の未来を思慮すれば、これらは決して無視すべきものではありません。

1. 植物性たんぱく質を活用したフェイクミート
 最初にご紹介するのは、植物性たんぱく質を活用したフェイクミートです。ここで言う「フェイクミート」は、特定の植物から抽出したたんぱく質を基に、セルロースやデンプン等を加え、肉のように成形したものという定義を用いることにします。菜食主義が多く見られる欧米では、既にさまざまなベンチャー企業が立ち上がり、当該市場を盛り上げています。この植物由来のフェイクミートを製造・販売する企業として一際注目を集めるのが、米国のベンチャー企業「Beyond Meat」社です。Beyond Meat社の商品は、高級小売店の精肉売場で販売されており、食感が肉に近く、ヘルシーであることから、健康志向の強い消費者を中心に人気を集めています。2016年10月には、世界最大の食肉加工会社であるTyson Foodsから出資を受け入れ、今後の規模拡大や海外進出が期待されています。

2. 人工肉・培養肉
 次にご紹介するのは、動物の幹細胞を人工的に培養することで、肉を生産する方法です。遡ること数年前の2013年8月、英国において、牛の幹細胞を培養して作られた「人工肉バーガー」を試食するという、何とも驚異的な会が催されました。各種報道によると、この培養肉の食感は肉に近いものの、ジューシーさに欠けるという評価でした。なお、当初の懸念であった製造コストは、2013年ではハンバーガー一個当たり32万5千ドルでしたが、2015年4月には11ドルまで低減されています。工業的に培養された肉を食べることに対する抵抗感は一定程度存在すると思われますが、今後の技術動向や長期的な視座に立った消費者心理の変容によっては、再び脚光を浴びる可能性があります。

3. 昆虫食
 最後にご紹介するのは、昆虫食です。日本では、古くからイナゴや蜂の子等の食虫文化が根付いていますが、近年では食の欧米化・都市化の影響から、こうした文化は下火となっていました。しかし、世界に視野を広げると、アジア、アフリカ、南米においては、昆虫は現在でも食生活の基礎となっている地域があります。実は、2013年に、FAO(国際連合食糧農業機関)が「Edible insects Future prospects for food and feed security」という重厚な報告書を発表しました。同報告書によると、昆虫は、環境面での利点(変温動物故に飼料交換効率が高く(注2)、温室効果ガスの排出が抑制できる。また、生活廃棄物を餌にすることが可能で、必要水分量が少なく、土地利用も少ない)、健康面での利点(良質なたんぱく質や微量栄養素を供給し、動物性感染症の媒介リスクが低い)、社会・経済面での利点(採集が容易で、養殖に要する初期コストが小さく、生計・経済への貢献が期待できる)を有し、食用昆虫は有望な食材に成り得る、という帰結が導かれています。この報告書の発表当初、関連業界ではちょっとした話題になりました。賛否両論ありますが、昆虫食に対する嫌悪感を心理学的に分析する等、各領域で研究が進められています。

(注1)出所:World population prospects 2015, United Nations Department of Economic and Social Affairs
(注2)農林水産省の試算によると、「牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵1kgの生産には、とうもろこし換算でそれぞれ11kg、7kg、4kg、3kgと多くの穀物が必要」とされています。他方、FAOによると、昆虫の種類や飼料の種類・製造工程によるものの、概して昆虫の飼料変換効率は、牛の4倍程度高いと言われています。

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※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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