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日本総研ニュースレター 2011年3月号

2011年「百貨店戦争」激化 
浮上のきっかけとなるか

2011年03月01日 齊木乃里子


大阪で始まる「百貨店戦争」
 ここ数年、百貨店が大きな転換期を迎えている。特に昨年は厳しい1年であり、日本百貨店協会の発表では、有楽町西武をはじめ、過去最多の11店が閉店を余儀なくされ、売上高も全体で14年連続の前年割れの結果に終わった。
 しかし、今年は一転、九州全体の商業集積を一変させるともいわれる博多阪急の開店をはじめ、大規模な改装や開店が次々と予定されている。特に激戦なのは大阪地区で、3月は高島屋大阪店、4月は大丸梅田店がそれぞれ増床し、5月には三越伊勢丹が大阪駅周辺の大型開発の目玉としてオープンする。さらに、来春は阪急梅田本店で8万㎡以上の、14年は近鉄阿倍野店で約10万㎡の増床が控える。
 本稿では、「百貨店戦争」とさえ呼ばれる大阪の動きを中心に、百貨店の今後について考えてみたい。

各百貨店の差別化戦略
 百貨店業態の弱体化は、消化仕入が中心の「リスクをとらない」取引形態によって、マーチャンダイジング(以下、MD)機能が育たなかったことが大きく影響している。これまでの増床も、他所で成功したブランドを連れてきた程度の企画が多く、結局どの店でも似たようなブランドや商品が並んでしまうということが繰り返されてきた。
 しかし今回の一連の増床からは、MD力や新売場提案など、独自路線を目指す意思が感じられる。例えば、ダブルネーム1号店となる三越伊勢丹では、伊勢丹新宿店が2008年に立ち上げた自主編集売場「イセタンガール」を展開する。イセタンガールは、10代女性を中心とする若年層のライフスタイルや嗜好が研究されており、百貨店業態から離れつつあるといわれる彼女たちの呼び戻しに成果を上げている。既存のブランドに頼らず、次の流行を作るブランドをいち早く発見して自ら作り込むのは伊勢丹のお家芸ともいえ、大阪でも期待が大きい。モノ以上にライフスタイルを重視する女性層の取り込みを目指す阪急では、料理教室などの体験型売場を核の一つに位置づけ、博多阪急での開始後、梅田本店増床時にも展開する。高島屋大阪店では、若年層女性の化粧品ブランドに対するスイッチング意向に着目し、約400種類の化粧品を試せる「トライアルスタジオ」を設けた。インターネット通販が伸びる化粧品チャネルでは、消費者の価格志向が強まりつつあるが、美容部員の目が届かない場所で思う存分商品を試せるトライアルスタジオは、定価でも百貨店で購入するメリットを感じさせる試みといえる。
 一方、大丸を擁するJフロントリテイリングは、MD力以上に、不動産業としてのサポート力を打ち出す。梅田店の増床では、高層階に百貨店初となるポケモンセンターやトミカショップなどの目玉を誘致して、ショッピングセンターに通うファミリー層まで取り込み、低層階へのシャワー効果を狙う。

新しい消費者への提案力復活の契機に
 百貨店は本来、「新たな文化・消費スタイルを発信」する存在であった。それがいつしか「高価なモノ」が「なんとなくたくさん並ぶ」店となり、各社の個性が活きない業態にまで陥ってしまった。百貨店の主要な収益源であるアパレルでは、一部のセレクトショップの方が、新たなデザイナーの抜擢やヴィンテージ・半製品(ハンドメイド化)・エシカルな商品など、新しい消費スタイルの発掘に長けているように見受けられる。化粧品にしても、口コミ情報サイト「@cosme」に見られるように、消費者の積極的な発言が流行を左右する状況も出てきており、もはや百貨店で取り扱うブランドだけでは、主要な消費トレンドを語れなくなっている。
 近年は小売業にとって望ましくない消費動向が続く。モノの入手自体で幸せを感じる層は確実に減っており、特に若年層では、自ら上限や範囲を決める控えめな消費様式が広がる。しかし、手づくり教室・習い事の隆盛や「女子会」の流行など、「一緒に何かをする」ことには「消費」の意識なく対価を支払う傾向もあり、市場は縮小一辺倒でもない。
 百貨店が外部に依存してきたMD力を再び手中にするには、「百貨店とはこうあるべき」「高価な商品を置くべき」といった固定観念を捨てるとともに、シーズンや月間といった長期の枠組みで大きな売場改善を行うのではなく、まさに「“明日の売場”に何を並べるのか」という発想で検討するべきだ。一連の大規模増床や開店は、百貨店が情報発信力を復活させ「新しい消費者」に応え続ける業態になるための最大のチャンスなのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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