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コラム「研究員のココロ」

役員退職慰労金の廃止に見る報酬改革の流れ

2004年08月23日 高橋敏浩


1.50社以上も続々廃止…

 先日の株主総会では役員退職慰労金を廃止する企業が急増して話題になった。2002年に松井証券、野村ホールディングスなど、2003年にはオリックス、HOYAなど13社、そして今年は日本ハム、資生堂、アツギ、住友金属工業、オムロン、コマツ、クラヤ三星堂、KDDI、ヤマト運輸、小田急電鉄、大和証券グループ本社、日本興亜損保等々、枚挙にいとまがない。3月期決算の上場企業のうち50社以上が何らかの形で役員退職慰労金を廃止し業績連動を強化している。


2.予兆はあった。もう流れは止められない?

 これに先行する(社)日本能率協会の「役員の指名・業績評価・報酬に関する実態調査」(2003年12月)では、役員退職慰労金の廃止・減額の動向について「廃止・減額の予定はない」が前年79.8%から63.5%に減少し、「廃止・減額を検討中」が10.1%から25.4%に増加していた。この流れに乗ったのが今回の株主総会の様相といえよう。
 しかし、なおも多数の企業が「役員の退職慰労金の廃止・減額の予定がない」と回答しているが、「できない理由」としては「退職慰労金がインセンティブとして機能しているから」58.9%、「現在の税制では廃止・減額によって役員に不利益が発生するから」46.6%となっている。ところで、役員退職慰労金の算定基準については、「役員在任期間」98.9%、「役職位」83.9%に対し、「在任期間の業績」は35.5%であった。なのに「インセンティブとして機能している」といえるのだろうか。


3.どうやってやめたかというと…

 この調査にも見られるように、一般的に役員退職慰労金の課題としては次の3点があげられる。

  1. 役位、在任期間ベースで業績連動性が弱い。

  2. 役員報酬におけるウエイトが高く、株主から退職慰労金制度及び金額の開示を求める声が年々強くなっている。

  3. 社員の報酬は年俸制や業績連動賞与、確定拠出年金の導入等で成果主義に移行しており、自己責任が強化されているのに比べ、役員が年功の最後の砦と化している。

 各社の開示資料によると、「年功的要素の強い従来の役員退職慰労金を廃止して成果主義的報酬制度に1本化し、株主に向けて経営陣の業績評価に対する報酬を明確にするため」と、判で押したように同じ理由である。原資の振り替え先については単に廃止する場合から業績連動型報酬への吸収、ストックオプション等長期的インセンティブ、自社株式の支給等々、いくつかの手法に分かれている。日興コーディアルでは株式相場に過度に影響されない制度として、権利行使価格を1円にしたストックオプションを考案した。
 廃止時の取り扱いとしては、松井証券ではP/Lで特別損失として役員退職慰労金を一括計上し、B/Sで未払役員退職慰労金として固定負債に計上している。実際の支給は退任時とし退職所得として認められるようにしている。


4.お客さま、御社もですか…

 実は筆者も、長年の顧客企業D社から役員退職慰労金廃止のスキームについて今春相談を受けている。この企業ではすでに退職金の改定を行い、業績連動型への変更を済ませていたが、株主に対するアピール効果を狙って、経営企画部から廃止の要望が上がったのである。「役員の任期が1年間であり、退職慰労金は当該年度業績で決定する仕組みではあるが、支給されるのは退任時であり後払い報酬の要素がある」というのが理由であった。
 D社の退職慰労金の算定方式は、業績連動で決定する役員報酬と賞与の合計額にスライドして1年当りの金額を決定するものである。スライド係数の設定により役員報酬に占めるウエイトは調整可能である。金額は業績評価と連動して毎期精算する。支給は後払いなので税制上のメリットを享受できるし、万一、退任までに企業価値に対する毀損があった場合には不支給とすることもできる。
 さらにD社では今後も30、40代からの役員登用が予想され、その場合には従業員としての退職金の少なさを役員退職慰労金で補填する機能がある。役員を退任しても退職慰労金がない、年金受給権もないでは従業員のままの方が収入が多かったということになり、だれも役員を目指さなくなることが懸念された。日産のように1人平均2億3,500万円もの高額の役員報酬であれば、その心配はないだろうが。
 このような検討を重ね、結局D社では役員退職慰労金のメリットを活かし存続することにした。


5.順番が逆でしたが。

 社員が成果主義だから役員にも、というアプローチは本来逆であるし、役員報酬カットや退職慰労金廃止で社員の溜飲が下がる、というのも妙なハナシだ。役員は従業員より圧倒的に責任が重く、処遇の格差はあって然るべき、という一方で役員より稼ぐスーパー社員が出てもよい、とする企業もある。
 いかなる役割・価値創出に対してどのような形でいくら払うべきなのか、外圧によって切り崩される役員退職慰労金の見直しを契機として、役員の業績評価・報酬は一足先に導入された社員の年俸制や役割給とともに、再設計する必要性が高まっている。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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