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JRIレビュー Vol.7, No.125

シリコンバレー型を目指さないスタートアップ:B Corp認証を中心に

2025年07月11日 岩崎薫里


「B Corp™」は、アメリカのNPO法人「Bラボ(B Lab)」が運営する、社会や環境への配慮にかかわる国際的な認証制度であり、認証企業を広げることでビジネス全体、さらには社会全体を変えようという社会運動でもある。世界経済の株主資本主義からステークホルダー資本主義への移行が究極の目標として掲げられている。B Corp認証を取得するには全方位で「よい企業」であることが厳格に求められる。これが認証への信頼性を高める一方で、組織やサプライチェーンが複雑な大企業の認証取得をとりわけ難しくしている。現在、100カ国以上で1万社近い企業がB Corp認証を取得しているが、中小企業が多くを占めるのはそのような事情による。

B Corp認証の取得企業のなかにはスタートアップが散見される。スタートアップの世界では、シリコンバレー型成長モデル、つまり短期間で急成長して大きな金銭的リターンを得ることが王道とされてきた。成功確率が極めて低いだけに、社会や環境にまで目配りする余裕はないはずである。それにもかかわらず認証を取得しているのは、創業者がもともと自社利益だけでなく公益の追求に強い目的意識をもっているためである。彼ら・彼女らは、事業が大きく成長することを目指しつつそれだけを絶対視せず、社会や環境にも配慮する事業展開のほうが、社会全体にとって価値があり、同時に自分自身も充足感を得ることができると考えている。

スタートアップ起業家はB Corp認証の取得により、社内的には自社の公益配慮の取り組みが第三者からみても通用するかを確認するとともに、課題を明らかにし今後の改善につなげたいと考えている。一方、社外に対しては、自社の取り組みを客観性・具体性をもって訴求し、他社との差別化を図る狙いがある。社会・環境への関心の高い消費者、求職者、投資家、サプライヤーなどにアピールできることで、知名度や信頼度に乏しいというハンディキャップを軽減することが期待できる。B Corp認証は国際認証制度であるため、海外進出に際しては認証を取得していることがドアノッキングツールにもなり得る。

日本でB Corp認証を取得したスタートアップは10社にすぎず、全体でも57社にとどまる。B Corpの認知度が低いことに加えて、たとえ認知していても、審査などがすべて英語という「言語の壁」や、取得のための手続きなどを相談する相手が周囲にいないなどの要因が取得を阻害してきた。しかし、最近になってB Corpの日本での活動を推進する組織が設立され、認証取得を支援するコンサルタントも登場している。取得に要する労力が多大であることに変わりはないが、英語で対応できない、手続きの仕方がわからない、といったハードルは大幅に下がっている。日本でも今後はB Corp認証の取得を目指すスタートアップが増えていくことは十分考えられる。

B Corp認証を取得するには、地域への貢献を含め全方位で「よい企業」である必要があるため、認証取得スタートアップが立地する地域にもさまざまな恩恵がもたらされる。恩恵はとくに地方では経済活性化と持続可能性の向上につながる。前述の通り、今後認証スタートアップの増加が見込まれるなか、その動きを地方にも広げられれば、「よい企業」を触媒に地方創生の取り組みも前進することが期待できよう。


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