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デジタル化の進展を阻む電力需要爆増
~オフグリッド型データセンターに活路を見いだす~

2024年04月15日 早矢仕廉太郎


1.生成AIの普及により、2050年のデータセンターの電力使用量は国全体の20%に
 ChatGPTに代表される生成AIの利用拡大により、データセンターでの電力使用量は増加する見通しだ。2024年1月、電力広域的運営推進機関(以下、OCCTO)は、データセンターや半導体工場の新増設により、2033年度で407億kWhの電力使用量の増加を見込む想定を公表した(※1)。また、OCCTOが主催する「将来の電力需給シナリオに関する検討会」で、各研究機関による将来の電力需要の見通しが示されているが、2050年にデータセンターによる電力使用量は、現在と比較して1,000億kWh弱、最大で2,000億kWhまで増加すると試算されている。国内の電力需要は現在約9,000億kWhであり、将来のデータセンターの電力需要(+1,000~2,000億kWh)は国全体の10~20%に相当する。これは、関西エリア、中部エリアの電力需要と同等の規模であり、仮にこれだけの電力需要が新たに創出されるのであれば、日本の電力市場に非常に大きなインパクトを与えるといえるだろう。
 こうした電力問題は、電力業界およびデータセンター事業者にとっては悩みの種である一方、データセンターをはじめとするデジタルインフラは、「国家の心臓」と呼べる重要なインフラであり、今後のDXの実現、デジタル化の進展にとって必須なものになるはずだ。本稿では、データセンター建設に伴う電力問題にどう向き合うべきか述べる。



2.電力調達に向けては、電源確保の他、系統確保が課題
 データセンターの電力需要は、サーバー等IT機器の利用に伴い発生するデータ処理用の電力需要と、サーバーから発生する熱を冷却するための空調需要等によって構成される。データ処理は日夜行われるため、24時間365日絶え間なく電力が必要となる。また、近年データセンターは大型化しており、新たに建設されているデータセンターの多くは100MWを超えるようなハイパースケール型が中心である。加えて、データセンターを利用する事業者の多くはRE100等の国際イニシアティブに賛同しており、再生可能エネルギー(以降、再エネ)のような脱炭素電源を志向する場合が多い。これらを踏まえると、安定、大規模、脱炭素、の3つがデータセンターの電力調達に求められる要件といえる。



 これら3つの条件を満たす電源を今後国内で確保していくことは容易ではない。例えば、日本で主に開発が進む太陽光は、脱炭素の観点からは申し分ないが、発電時間帯は昼間に限定され、開発適地も減少してきており、安定性、規模の観点から相性の良い電源とは決していえない。そのため、近年は、再エネのうち、電力の取引を行わず、環境価値のみを取引するバーチャルPPAを活用する動きもみられる。安定かつ大規模な電気を卸電力市場や火力等の電源から調達しつつ、バーチャルPPAにより環境価値を調達することで、脱炭素の要件を満たすことができる。
 一方、大規模な電力を調達するためには発電所だけでなく、系統の確保も必要だ。データセンターの立地においては、BCP(事業継続計画)の観点から複数の変電所から受電できるかも選定基準になるが、複数の変電所から受電できる場所は豊富にあるわけではない。また、今後本当に1,000~2,000億kWhの需要増加が見込まれるのであれば、系統自体を大規模に増強せねばならないため、時間もコストも大幅に増加することになる。したがって、バーチャルPPAを活用する場合の前提となっている系統からの電力調達が、今後は難しくなるかもしれないのだ。

3.オフグリッド型データセンターが課題解決のカギに
 電力確保が問題となっているのは海外でも同じである。米国では、発電所にデータセンターを隣接することでこうした問題を解決する動きがある。Amazon Web Services(以下、Amazon)は、ペンシルベニア州にある米国最大級の原子力発電所(2.5GW)にデータセンターを隣接し、当該原子力発電所から電力を調達するようだ(※2)。原子力発電所は先に挙げた3つの要件を満たし、発電所に隣接することで系統の問題も解決することができる。原子力については不確実性があるため、そのまま参考にすることはできないが、大規模発電所とデータセンターをセットで整備するオフグリッド化(系統に頼らず電力を自給自足できる状態)は、今後の日本にハイパースケールのデータセンターを立地していく上で有効な方策となるのではないか。
 例えば、臨海部にデータセンターを立地し、洋上風力発電所からの電気を直接引き込むオンサイトPPAや、水素等の脱炭素火力発電所を隣接させ安定的に脱炭素電源から電力を調達する方法もあるだろう。洋上風力、脱炭素火力といった電源は割高なため、経済性の観点からみると劣後するが、オフグリッド型とすることで系統を活用しない分、託送料金や再エネ賦課金の負担を軽減できるメリットも生まれる。また、脱炭素火力発電所の活用に際しては、長期脱炭素電源オークション、水素関連の支援制度等も適宜活用することで経済的負担を軽減するのも一手だ。さらに、オフグリッド型の発電所と系統の複数から受電することでBCPの問題も解決できる。



 わが国のエネルギー多消費産業である鉄鋼、化学、製紙・パルプ産業等も、経済性の観点からオフグリッド型の発電所を活用し、発展してきた歴史がある。次世代のエネルギー多消費産業となるデータセンター事業においても、オフグリッド型の発電所をうまく活用することで、デジタル化が着実に進展することを期待したい。


(※1) 2024年度 全国及び供給区域ごとの需要想定について(2024年1月 OCCTO)
(※2) Amazon buys nuclear-powered data center from Talen -- ANS / Nuclear Newswire

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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