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薬局薬剤師・保険薬局の価値向上に向けた提言 -保険薬局の役割に関する大規模調査・認定薬局調査を踏まえて

2023年10月05日 持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム


提言資料(本体)
提言資料(サマリー)
保険薬局の役割に関する大規模調査結果

1.背景

 これまで、「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」では、国民の一生涯の健康を地域における多職種連携で診るプライマリ・ケアチーム体制整備を提言してきた。2023年3月に、特にプライマリ・ケアチームを支える薬局薬剤師や保険薬局に着目し、薬局薬剤師が価値ある機能・役割を発揮し、保険薬局が薬局薬剤師の活動を支え、真のプライマリ・ケアを実現するために求められる、以下4つの取り組みを提言した(※1)

[提言①] 薬局薬剤師の機能・役割や価値の明確化
[提言②] 計測・改善による、薬局薬剤師の機能・役割や価値の浸透
[提言③] プライマリ・ケアチームや国民からの薬局薬剤師の認知向上
[提言④] 薬局薬剤師が機能・役割を発揮するための保険薬局のあり方
 本チームでは、2023年3月の提言以降、薬局が果たす機能・役割の実態把握、専門医療機関連携薬局および地域連携薬局による医療貢献の具体化の検討を行ってきた。具体的には、さらなる薬局薬剤師・保険薬局の価値向上に向け、保険薬局の役割に関する大規模調査(アンケート調査)、デスクトップ・インタビュー調査、有識者研究会における議論を行った。本提言では調査結果を踏まえ、以下の提言を行う。
[新提言①] 疾患専門性を有する薬局薬剤師の継続的な育成
[新提言②] 調剤基本料・地域支援体制加算等調剤報酬の算定要件を活用した政策誘導の継続と薬局薬剤師・保険薬局の底上げ
[新提言③] 在宅業務の拡充とタスクシェアの推進
[新提言④] KPI調査の継続によるエビデンスに基づく、価値のある薬局薬剤師・保険薬局の拡充
[新提言⑤] 認定薬局の医療貢献拡大に向けた、実態把握・エビデンス構築推進と情報発信
[新提言⑥] 地域連携薬局の報酬の適正化

2. 提言策定の手法

(1)保険薬局の役割に関する大規模調査
 保険薬局の役割・機能の実態を俯瞰的に把握し、優れた取り組みの普及・促進に資する政策提言につなげるために、保険薬局に対してアンケート調査を実施した。結果は別添資料を参照いただきたい。

(2)デスクトップ・インタビュー調査
 専門医療機関連携薬局(がん)、地域連携薬局の実態を詳細に把握するために、各種文献調査と3カ所の保険薬局に対するインタビュー調査を実施した。

(3)有識者研究会における議論
 有識者(アカデミア、薬局薬剤師、医師等)9名が委員を務める「薬局価値向上研究会」を組成し、プライマリ・ケア推進における薬局薬剤師・保険薬局の価値向上に向けた機能・役割のあり方や課題、取り組み施策に関する議論・検討を行った。また、提言内容の妥当性、実現可能性への助言を受けた。
 「薬局価値向上研究会」の委員は以下の通り。



3.本提言の概要

[新提言①] 疾患専門性を有する薬局薬剤師の継続的な育成
 保険薬局の役割に関する大規模調査結果によると、認知症、がん、糖尿病に専門性を持つ薬剤師が所属する薬局はおおむね薬局全体の5%弱であった。そのような薬局では各疾患ケアに関する実績が豊富であることが分かった。
 専門性を持つ薬剤師を育成することが、各疾患ケアへの充実につながると考えられる。また、将来的には各疾患ケアの実績を調剤報酬で評価していくべきであると考えるが、まずは専門性を持つ薬剤師が所属する薬局や、育成を行う薬局を評価していくべきであると考える。

[新提言②] 調剤基本料・地域支援体制加算等調剤報酬の算定要件を活用した政策誘導の継続と薬局薬剤師・保険薬局の底上げ
 保険薬局の役割に関する大規模調査結果によると、地域支援体制加算(※2)の算定要件に関する実績について、基準値をちょうど満たす、あるいはわずかに上回る算定実績を有する薬局が多数存在することが明らかとなった。例えば、多職種連携会議への参加実績に着目すると、調剤基本料1以外の薬局では「多職種連携会議への参加実績の合計年間回数(直近1年間)5回以上」が地域支援体制加算3・4の算定要件となっており、基準を満たさない4回が146薬局、基準を満たす5回が389薬局となっている。
 また、2023年3月の提言において、「「調剤基本料」や「地域支援体制加算」等の調剤報酬と、保険薬局・薬局薬剤師の機能・役割や価値との関係性が不明瞭なものが存在する。薬局グループの規模が小さく、処方箋受付回数が少ない薬局が点数の高い調剤基本料1(42点)に区分されやすくなっている、地域支援体制加算は、調剤基本料1か否かで要件が異なり、調剤基本料1であればそれ以外の薬局と比較し高い点数の地域支援体制加算(1=39点、2=47点)を算定できる)」と指摘した。本調査において、調剤基本料の報酬が少ない薬局(調剤基本料1以外)で薬局価値の向上に向けた取り組み実績(※3)が多くなっている現象が確認できた。
 これらを踏まえると、厚生労働省による政策誘導がうまく機能しており、薬局が各算定要件に合わせて実績を挙げているという状況と考えられる。引き続き、算定要件を活用し、あるべき薬局薬剤師・保険薬局の機能・役割や価値を浸透させていくことが有用なアプローチであると考える。
 一方で、算定要件の基準を大きく上回る実績を挙げている薬局も存在する。これは、報酬によらず地域のニーズに合わせて薬局薬剤師・保険薬局が機能していると考えられ、次世代のモデルケースとしてこういった薬局薬剤師・保険薬局を増やすための要件設定(段階的に報酬を増やす等)が薬局薬剤師・保険薬局の全体の底上げにつながると期待する。
 また、調剤基本料によらず、果たす役割・機能や提供する価値に合わせて一定の報酬上の評価とすることで、現状収益性が低いものの価値が高いと考えられる業務(例:在宅業務等の対人業務)への投資につながる可能性があると考えられ、結果的に薬局薬剤師・保険薬局の全体の底上げにつながると期待する。

[新提言③] 在宅業務の拡充とタスクシェアの推進
 薬局薬剤師の在宅業務とは、在宅医療を受けている患者の自宅や施設を訪問し、医薬品や衛生材料の供給、服薬指導・管理、薬物療法の評価・調整などを行う業務である。在宅業務については、在宅患者訪問薬剤管理指導料(※4)等の調剤報酬での評価が一部なされている状況である。
 一方、薬局価値向上研究会において、複数の委員より、以下の指摘があった。
 ・保険薬局は対人業務に費やせる時間の確保が課題となっている
 ・薬局薬剤師以外の人員が薬局薬剤師と同数程度あるいはそれ以上にいる保険薬局では、薬局薬剤師が対人業務に集中でき、保険薬局としてのパフォーマンスが高くなっている
 ・十分な調剤報酬で評価されなければ人材の雇用や機器導入を行う余力がなく、在宅業務への取り組みが進みづらい。さらに、在宅業務に力を注ぐ保険薬局は、地域への奉仕活動として行っているのが実態であり、普遍的な活動になりづらい。
 また、保険薬局の役割に関する大規模調査結果によると、薬剤師以外の職員の配置人数が薬剤師より多い薬局においては、在宅薬剤管理の算定回数が若干多い傾向が見られた。
 これらを踏まえると、労働時間や業務内容、労務管理等、薬局薬剤師の労働環境に関する実態把握が必要であり、それに基づき、薬局薬剤師が価値ある業務に集中できるような、以下の施策を検討することが必要であると考える。
 ・タスクシェアや機器導入等により薬局薬剤師が在宅業務等対人業務へ専念できる環境整備
 ・保険薬局における人材雇用や機器導入等の投資を促進するための在宅業務を評価する新たな調剤報酬制度の構築
 また、薬局内のタスクシェアのみならず、地域の中でのタスクシェア(地域の薬局間や、薬局薬剤師と訪問看護師間等)を促し、専門性を持つ薬剤師が、地域における専門性の高い業務に専念できるための取り組み推進と、将来的にはそれを評価する仕組みが必要であると考える。

[新提言④] KPI調査の継続によるエビデンスに基づく、価値のある薬局薬剤師・保険薬局の拡充
 保険薬局の役割に関する大規模調査を通じて、本調査項目が薬局の活動を把握するためのKPIとして機能する可能性が示唆された。
 このような調査を継続的に実施し、薬局での取り組みとKPI変化の関係性、各種施策・報酬とKPI変化の関係性等の実態を把握することが不可欠である。さらに、保険薬局業界全体でのKPI改善に向けたPDCAを循環することにより、エビデンスに基づき価値のある薬局薬剤師・保険薬局を拡充すべきと考える。

[新提言⑤] 認定薬局の医療貢献拡大に向けた、実態把握・エビデンス構築推進と情報発信
 本提言に向け、デスクトップ調査、インタビュー調査により、認定薬局が具体的にどのような医療貢献を行っているか、実態把握を行った。その結果、認定薬局が目指すべき医療貢献は、①専門性に基づいた患者フォローアップ、②医師・他職種との高品質かつ高密度な情報共有、③地域包括ケア体制構築の中心的な役割、の3点に集約されると考える。
 これらの医療貢献を実現するにあたって、専門性を有する薬剤師の育成、医師・他職種の視点を有する薬剤師の育成、疾患専門性や多職種連携・健康サポート機能を有する地域薬局の育成の3点が重要な取り組みであると考える。一方で、これら3点の具体的な取り組みの中には、認定薬局の認定要件や加算等での評価の対象とならない重要な取り組み(※5)が多く含まれており、また評価の対象とならないために保険薬局が自らの医療貢献の実績を定量的に捕捉するインセンティブがないために薬局での実態が十分に把握されていないと考える。
 これらを踏まえ、認定薬局の医療貢献拡大に向けては、価値ある医療貢献を果たしている認定薬局の実態を把握・公表すること、認定薬局の取り組みが結果としての医療貢献につながっていることを示すエビデンスの構築を推進・支援すること、情報発信により国民・他職種からの認定薬局の取り組みや医療貢献に対する認知を向上させることで、認定薬局の取り組みが加速し、医療貢献が拡大するものと考える。

[新提言⑥] 地域連携薬局の報酬の適正化
 保険薬局の役割に関する大規模調査結果によると、地域支援体制加算の算定要件に関わる実績回数は、地域連携薬局以外と比較すると、おおむね実績は豊富であることが分かった。一方、地域連携薬局であっても、地域支援体制加算の算定要件でない無菌製剤処理や退院時カンファレンスの参加については、それぞれ、約94%、約88%の認定薬局で実施実績がないことが分かった。
 地域連携薬局の認定要件の実績回数に関する実態から、認定保険薬局では、地域支援体制加算に関わる取り組みが優先され、政策誘導がうまく機能していない可能性があると考える。
 これら、重要な取り組みであると認知されているものの実績が少ない取り組みに対して、報酬を拡充する、あるいは、地域支援体制加算の要件を地域連携薬局の認定を受けていることとする等により、地域連携薬局の意図する機能・役割の実装を促すことで、地域連携薬局全体の底上げにつながるのではないか。


(※1):株式会社日本総合研究所「薬局薬剤師・保険薬局の価値向上に向けた提言」(2023年3月30日)
(※2):地域医療に貢献する薬局を、実績を重視し評価するための加算。地域支援体制加算には1~4の4種類があり、調剤基本料1であればそれ以外の薬局と比較し、高い点数の地域支援体制加算(1=39点、2=47点)を算定できる。
(※3):かかりつけ薬剤師指導料等の実績回数、服用薬剤調整支援料1および2の実績回数、外来服薬支援料1の実績回数、重複投薬・相互作用等防止加算等の実績回数、麻薬の調剤実績の回数、服薬情報等提供料およびそれに相当する業務の実績の回数、多職種連携会議への参加実績の合計年間回数
(※4):在宅患者訪問薬剤管理指導の届け出をした上で、医師の指示を受け、保険薬剤師が薬学的管理指導計画を策定し、薬学的管理指導を行い、医師に対して訪問結果について情報提供を行った場合に算定できる。
(※5):「症例検討会や勉強会をオンラインで週に2~3回実施し、他店舗からの参加受け入れも行うことで、知識の共有を行う」、「基幹病院の病院薬剤師も参加する研究会に参加し、情報交換を進める」、「地域で独自の制度を設定し、開業医の元で他職種と合同の研修を行う」、「他薬局の薬剤師も参加する、定期的な症例検討会を実施する」等

<本提言の帰属>
 本提言は、株式会社日本総合研究所「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」が公正・公平な視点を心がけて、国民・医療従事者視点で中長期的な観点から社会貢献をしたいと考え、意見を取りまとめ、提示するものである。

<持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム>
本提言取りまとめ リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー 川舟 広徒
社内アドバイザー 調査部 主任研究員 成瀬 道紀
社内アドバイザー リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 川崎 真規
社内メンバー リサーチ・コンサルティング部門 ⼩倉 周⼈、長崎 俊憲

<本件に関するお問い合わせ>
マネジャー 川舟 広徒
E-mail: kawafune.hiroto@jri.co.jp

*本提言は一般社団法人日本保険薬局協会からの資金による調査研究業務の成果物ですが、その内容については「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」が自由かつ独立性のある調査研究によって取りまとめたものです。
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