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日本に根付くか、B Corp認証
~大企業がムーブメント形成に果たす役割~

2023年07月01日 橋爪麻紀子


インパクトスタートアップとB Corp
 23年6月、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版」が発表された。目を引いたのは「社会課題の解決」と「持続可能な成長」を両立し、社会へポジティブな影響を与えたいという意志を持つ、インパクトスタートアップへの支援策である。その充実ぶりからは、産官学からの期待の大きさが見て取れる。
 国内でインパクトスタートアップのための認証制度が設けられることも検討されており、この動きはさらに加速するとみられる。並行して、社会や環境に配慮した公益性の高い事業活動を行う企業に対するグローバルな認証「B Corp」を取得するインパクトスタートアップも現れ始めている。

公的役割を担う新たな法人形態とは
 1年前に遡る22年6月、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」で、欧米のベネフィットコーポレーションなどの法制度にならい、日本でも民間で公的役割を担う新たな法人形態を検討することが言及された。過去に類似の検討はあったが、これを機に「営利目的だけでも、非営利目的だけでもない、事業所得を生み出すと同時に明確な社会目的を最優先とする企業」の法人格であるベネフィットコーポレーションとB Corp認証への関心が国内でも高まった。
 名称の類似性からも両者は混同されがちであるが、法的に保護される法人格とグローバルに価値を共有できる民間認証制度の立場から、相互補完する関係にある。例えばベネフィットコーポレーションに類する法人格がある米国各州やイタリアの企業は、当該法人格を有さなければB Corp認証を取得できない。この認証要件の厳格さによって、B Corpは、公益性を担うことを認められたベネフィットコーポレーションとして、経済性と社会性の両輪を追求することに反対する株主提案や、企業理念を損なう敵対的買収などから逃れることを法的にも担保しようとしているのである。

世界で拡大する「B」のムーブメント
 世界では、B Corp認証企業は23年6月末に7,000社を超え、ベネフィットコーポレーションに類する法人は22年末で15,000社を超えた。日本では、B Corp認証企業は23年6月末で26社であり、ベネフィットコーポレーションの法制度は未だ存在しない。
 米国、イタリアなど先行する海外諸国では、いずれもB Corpの増加に伴い、自治体・教育機関・市民の認知が向上し、ベネフィットコーポレーションの法制度化が進められてきた。一方、台湾や豪州のように、B Corpが増加してもベネフィットコーポレーションの法制度化を進めず、現行法を用いて企業の公益追求やステークホルダーへの配慮を進める国もある。こうした多様な先行事例から日本が学ぶことは多い。B Corpが今後増加する過程で、海外諸国のように多様なプレーヤーが賛同し、日本の法制度や文脈に即した形を皆で模索しながら日本の「B」ムーブメントが形成されていくであろう。

大企業がムーブメント形成に果たす役割
 国内でB Corpと言うと、中小・スタートアップと捉える方が多い。実際に認証取得企業を見ると、世界のB Corpのうち、250人以上の従業員がいるのは482社(約6.9%)、1000人以上となると122社(約1.7%)でしかない。
 しかし、B Corpは中小・スタートアップだけのものではない。例えば、B Corpに賛同する英ユニリーバ、仏ダノン、伯ナチュラ&コーといった多国籍企業では、海外子会社のB Corp認証取得支援、B CorpのM&A、サプライヤー評価など、さまざまにB Corpの仕組みを活用している。つまり、こうした大企業がB Corpのムーブメントに関わることは、子会社、投資先、取引先、従業員、消費者に対するインパクトを創出し、いわばB Corpの思想を広めるアンバサダーの役割を果たしていると言える。
 B Corp認証を創設した米非営利法人B Labは、2020年から大企業へのB Corp普及促進を目的にB Movement Builderと呼ばれるイニシアチブを主導し、世界各国の大企業の参画を促進する活動を進めている。今後は、大企業によるB Corpとの取引やB Corpへの投資機会も増加すると予想される中、このムーブメントの価値を高め、根付かせるために、大企業は必要不可欠なプレーヤーと言える。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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