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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.23,No.88

インドにおける金融のデジタル化 ―豊かさの実現に向けてー

2023年02月13日 岩崎薫里


インド政府は、社会・経済の後れを挽回し、国民の経済的豊かさを実現することを目的に、多岐にわたる分野でデジタル化を進めている。なかでも金融のデジタル化には、国民福祉の向上や経済活動の効率化などへの期待から、積極的に取り組んできた。その実現に向けて、中央政府が個人識別番号制度Aadhaarをベースとする多様な機能をデジタル・インフラとして開発し、それを広く官民に開放する、という手法が採られている。

官民はすでにそれらのデジタル・インフラを様々に活用している。具体例として、以下の三つを取り上げる。(1)中央政府・州政府の担当部署が、Aadhaar番号と銀行口座番号とを紐付けるシステムなどを利用して、それまで現金で手渡ししていた社会保障給付金・補助金を、銀行口座に電子送金するようになった。 (2)即時送金システム「統合決済インターフェース(UPI)」を活用したモバイル電子決済サービスを、多様な金融機関・事業会社が提供し、インドでの電子決済の利用拡大に貢献している。 (3)金融機関が、Aadhaarによる個人情報照会システム(Aadhaar eKYC)を利用することで、新規口座の開設時のKYC(本人確認義務)にかかわるコストを大幅に引き下げることが出来た。また、フィンテック・スタートアップが Aadhaar eKYCや電子署名(e-Sign)などを自社の提供サービスに組み込み、手続きや取引をオンライン上で完結可能としている。

インド政府は最近も、新たなデジタル・インフラの提供に乗り出している。各種の給付金を銀行口座の非保有者にも電子的に給付出来るようにするために、eRUPIが開発された。また、UPIを活用しつつ、フィーチャーフォンでも、あるいはインターネットの接続環境が悪い地域でも利用出来るように「UPI 123Pay」、「UPI Lite」が開発された。一方、銀行口座の非保有者を含め誰もが利用出来る中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入に向けて、準備が進められている。

インド政府がUPIという世界的にみて最先端を走る即時送金システムを開発したあと、それを利用出来ない層への配慮から、技術的に後戻りして「UPI 123Pay」と「UPI Lite」を開発した点は興味深い。新興国では途中の発展段階を飛ばして先端技術や先端商品・サービスを取り入れる「リープフログ(かえる跳び)」がしばしば指摘されてきた。しかし、インドの一連の取り組みをみると、リープフログ的な政策アプローチを採用しつつ、時には技術的に後戻りする、複線的なアプローチを採用していることが確認出来る。一方、まずは採用してみて、弊害が生じれば修正を加えるというインド政府のデジタル化の進め方は、日本を含めほかの国にも参考になるのではないか。


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