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自動運転サービスの官民連携事業モデルの提唱

2022年06月14日 逸見拓弘


 2022年4月、改正道路交通法が国会で可決された。今回の改正では、①運転者が存在しない無人自動運転サービスの公道走行、②電動キックボードや自動配送ロボットの公道走行、③運転免許とマイナンバーカードの一体化に関する事項が法令上、新たに規定されることになった。本稿では、特に、1つ目の無人自動運転サービスの公道走行に注目して、無人自動運転サービスに関して政府が掲げてきた目標、および政府目標達成に向けた制度整備の経緯を振り返った上で、無人自動運転サービスの社会実装に向けた次なる課題を述べたい。

 無人自動運転サービスに関し、政府は、「2022年度頃の限定地域での遠隔監視のみの無人自動運転サービスの実現」を、また「2025年度までに多様なエリアで多様な車両を用いたレベル4無人自動運転サービスの40カ所以上での実現」を目標として掲げ、この目標を達成するために必要な制度整備を進めてきた。例えば、自動運転車両の保安基準に関しては、2020年に道路運送車両法を改正し、レベル3以上の自動運転システムを「自動運行装置」と新たに定義し、政府が認めた走行環境条件(ODD)のもとでは自動運行装置を使用して良い、という規定を設けるなどしてきた。一方で、交通ルールに関しては、これまでの道路交通法では、運転者が運転席に存在することを前提とした規定となっており、運転者が存在しないレベル4無人自動運転に関する制度としては不十分であった。そこで、今回、道路交通法を改正し、レベル4の無人自動運転を「特定自動運行」と新たに定義することで、運転者が存在するレベル3以下の「運転」と区別し、「特定自動運行」を行う法人または個人が遵守すべき規定を設けることで制度整備を行った。

 今回の改正道路交通法が施行されれば、レベル4無人自動運転サービスの社会実装に必要な一通りの法制度が実現したことになる。これまでは法制度上、前述の政府目標の達成が現実にはできなかったが、改正道路交通法の施行により、法制度上は政府目標達成が可能になる。

 ただし、制度整備に目途がつき、社会実装に向けた機運はなお一層高まっているものの、実際に社会実装を実現するためには、次なる課題として無人自動運転サービスの事業モデルのあり方の検討が待ち受けている。法制度を遵守するために、自動運転サービスの事業体は、自動運行装置を整備・維持管理するだけでなく、政府から認められた走行環境条件から逸脱しないように走行環境も維持管理することが必要となる。しかし、路面や歩車分離帯を代表例とする走行環境の維持管理は、既に道路管理者である行政が主に担っているのが実態だ。自動運転サービスの事業体が行政と重複して走行環境の維持管理を行うのは効率的ではない。また、走行環境の不具合を発見した際、自動運転サービスの事業体が独断で修繕工事をすることは許されず、道路所有者が修繕工事をするまで待つしかない。こうした観点でも効率は必ずしも良くない。

 かといって、自動運転サービスの事業体自らが新たに専用道路を設置するなどということができるはずもない。ではどうしたらよいのか。本稿では、その解決策として、自動運転車両が走行する走行環境の整備・維持管理を、自動運転サービスの事業体に一任する事業モデルを提唱したい。これにより、行政は走行環境の整備・維持管理の行政コストを削減でき、自動運転サービスの事業体も独自の判断で自動運転車両が走行しやすい走行環境に改良しやすくなる。単一の自動運転サービスの事業体が、走行環境の整備・維持管理事業、自動運転車両の整備・維持管理事業、サービス運行事業を一体的事業として運営する事業モデルが確立できれば、万が一、不測の事故が発生した際の責任の所在もわかりやすくなる。将来的に国内外各地への展開もしやすくなるであろう。実際、現時点では自動運転サービスとは関連付けられていないが、ある対象区域内の道路の維持管理を包括して民間企業へ委託する包括的民間委託は複数の地方公共団体で、既に行われている。

 2022年度、当社が主催する「RAPOCラボ」では上記の事業モデルの実現に向けた検討活動を計画している。上記の事業モデルにご関心いただけた方には、ぜひお問い合わせいただきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。



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