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CSRを巡る動き:サプライチェーンにおける人権尊重

2022年05月02日 ESGリサーチセンター、村上芽


 2022年3月、経済産業省が「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」を設置しました。これは、人権デュー・ディリジェンスに関する業種横断的なガイドラインを策定することを目的としています。この夏を目途に、ガイドライン案を取りまとめることを予定しているとのことです。

 3月18日に開催された第1回の会議資料によると、ガイドラインは①国連指導原則をはじめとする国際スタンダードに則ったもの、②人権尊重に関する具体的な取り組み方法がわからないという企業の声に応えたもの、を目指すとしています。

 特に中心的な内容が、「デュー・ディリジェンスのプロセス」になるとみられます。検討項目として、(1)人権方針の策定にあたり企業が留意すべき点、(2)リスクの特定・評価をどうするべきか、範囲の示し方、記載の仕方、(3)負の影響の停止・防止・軽減のために企業が具体的にすべきことは何か、どのようにサプライヤーに働きかけるか、(4)実施状況をどのように追跡調査できるか、改善できるか、(5)公表する情報の形態、公表のための記録の残し方、(6)是正措置、特に苦情処理メカニズムの設計方法、という6項目が挙げられています。

 則るべきスタンダードは、国連ビジネスと人権に関する指導原則(2011年策定)、解釈の手引き、OECD多国籍企業行動指針(2011年改訂版)、OECDガイダンス、ILO多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言(2017年改訂版)))等としています。

 デュー・ディリジェンスのプロセスに挙げられた6項目については、いずれも、具体的な取り組み方法や書き方を知りたい、という企業の声があるのは事実であり、これに応えようとする意義を有すると考えられます。ただ、上記のスタンダード類の策定・改訂年からも分かるように、サプライチェーン上で人権尊重を行うことは、10年以上前からグローバルにビジネスを展開する大企業にとっては必須とされてきた事柄です。資料に掲載されているもの以外にも、米国で紛争鉱物規制ができたのは2010年、英国で現代奴隷法ができたのは2015年のことで、国内の取り組みは、かなり遅れて本格化してきたと言えます。その点を踏まえ、今後の世界の変化に対応できるような素地を作るための指針となることが期待されます。

 もちろん、ESG投資家による人権問題への関心の高さを見越し、「人権方針」の明文化を進めた企業もあったでしょう。最近、新たに人権方針を策定した企業では、「従業員の人権」というふうに範囲を狭く捉えず、すべてのステークホルダー、としたり、範囲を限定せずに広く人権の尊重をうたったりしている例が目につきます。ESGのうち、環境では気候変動、社会では人権については、あらゆる業種にとって無関係ではない、という認識が進んでおり、近年、双方がクロスオーバーする傾向も顕著です。今回のガイドライン策定を機に、日本企業が、人権の領域でも世界の共通言語で話せるようになることを期待したいと思います。

本記事問い合わせ:村上 芽


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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