リサーチ・フォーカス No.2021-047 脱炭素に向けたトランジション・ファイナンスの現状と課題 大嶋秀雄トランジション・ファイナンスとは、「企業の長期的なトランジション戦略」に基づく取り組みを評価して支援する新しい金融手法。温室効果ガス(GHG)排出量は多いものの、早期の脱炭素が難しい産業(GHG多排出産業)の低炭素化(トランジション)を後押しする仕組み。とくに、GHG多排出産業が多いわが国では、トランジションを脱炭素に向けた柱の1つに位置づけられており、当局がトランジション・ファイナンスに関する基本指針や、企業のトランジション戦略の基準となる分野別ロードマップの策定などを推進。具体的な調達事例も出始めているところ。もっとも、黎明期のトランジション・ファイナンスには多くの問題点が存在。具体的に、①グリーン・ウォッシュ(みせかけのグリーン)懸念、②分野別ロードマップの使い勝手の悪さ、③わが国の脱炭素目標との整合性の不明瞭さ、④中小企業向けの仕組みの未整備、⑤金融機関における投融資先のGHG排出量(ファイナンスド・エミッション)増加、を指摘可能。これらの問題点を解決し、トランジション・ファイナンスを普及させるため、政府・当局は、以下の施策に取り組むことが必要。①分野別ロードマップの高度化:具体的なGHG排出削減プロセスの例示や対象業種の拡大による実用性の向上、および、各技術の開発難易度・導入コストの評価や国の脱炭素目標との整合性の明示による信頼性の向上。②金融機関へのサポート:ファイナンスド・エミッション管理での一定の考慮や公的な信用保証制度、地方銀行における支援機能強化の後押し。③企業に対する活用促進策:外部評価コストの助成や利子補給、好事例の認定などの制度拡充、および、中小企業向けのルール・活用促進策の整備。トランジション・ファイナンスは、脱炭素に向けた取り組みを推進していくうえで必要不可欠な金融手法。わが国政府には、上記施策を通じて、トランジション・ファイナンスの市場形成を促し、国際的に認められるサステナブル・ファイナンスの仕組みとして確立していくことが求められる。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)