イノベーション勉強会:第123回討議録
研究本_M&I勉強会(第123回) 「情報爆発時代の技術の伝え方」討議録 | ||||||
(記録:武藤。その後、参加者による修正・加筆) | ||||||
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1. 日時、場所、参加者 | ||||||
◇ | 日時、場所 | : | 2007年2月6日(火) 8:30~10:00 日本総合 研究所303会議室 | |||
◇ | 参加者 | : | 梅田(コンサルティング営業部)、新保(TMT戦略C)、河野(同)、浅川(同) 、今井(同)、武藤(同、研修生) | |||
2. 発表の概要 | ||||||
■ | 「情報爆発時代の技術の伝え方」 (TMT戦略クラスター 河野賢一) | |||||
● | 発表に当たって | |||||
◇ | デジタル情報が爆発する中で、従 来の知や目利きの力が縮小しているのではないか。 | |||||
◇ | 畑村洋太郎著『組織を強くする技 術の伝え方』(講談社現代新書)をテキストに著者の主張ポイントを紹介する。 | |||||
● | 著者の主張ポイント | |||||
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【1】技術の伝達が行われていな い現実 | |||||
◇ | マニュアル化が進む中「無駄を省 く」という名目の下に技術の伝達が表面的な部分でしかなされなくなっている。 | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | 伝え手と受け手の意志と伝達方法、伝えようとす る技術の複雑性と変化の早さ、伝え手と受け手を取り巻く組織の変化なども原因ではないか。 | |||||
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【2】技術とは何か | |||||
◇ | 本書では、「技術」とは、「知識 やシステムを使い、他の人と関係しながら全体を作り上げていくやり方」を指す。 | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | 著者は、一人で考え会得したものは「技術」では なく「技能」であると定義しているが、この定義に従うとイチローのバッティング技術は「技能」にな る。 | |||||
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【3】技術の伝播と組織のパフォ ーマンス | |||||
◇ | 伝達された技術を使うことは、先 人の経験や考えを手っ取り早く自分のものとして使うこと。 | |||||
◇ | 技術が正しく伝達されると世代を 重ねるごとに、より高いレベルに達する。 | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | 先人のレベルに達することなくレベルダウンする 縮小化現象が起こっているのではないか。 | |||||
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【4】技術というのは、「伝える もの」ではなく、「伝わるもの」 | |||||
◇ | 技術は、「伝えるもの」ではなく 、「伝わるもの」なので、伝えられる相手の立場で考えた「伝わる状態」をいかにつくるかが重要。 | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | 技術伝達は二分化できるのではないか。マニュア ル化可能な技術伝達であれば受け手に興味を持たせる工夫が必要だが、高等な技術の場合、受け手の意 識も高いのであえて興味を持たせる工夫は必要ないのではないか。 | |||||
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【5】理解のためのテンプレート | |||||
◇ | 伝えられる人の頭の中に「理解の ためのテンプレート(型紙)」のようなものがあり、相手が示した知識の構造と一致したとき「理解で きた」ことになる。 | |||||
◇ | 似たようなテンプレートを持って いればその場で新しい理解のためのテンプレートを作っていくことが可能。 | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | 理解のためのテンプレート作りこそ、若いうち( 学生時代や社会人新人時代)に行わなければならない。 | |||||
★ | 中小企業の創業者などは、自ら徹底的に考え数多 くの経験の中から答えあわせをしているので、テンプレートが出来上がっているのではないか。 | |||||
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【6】原因、行動、結果 | |||||
◇ | 原因と結果の間には必ず人間の行 動があり、失敗は人的要因が主因となっている。 | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | 行動分析をしないと原因を取り除いただけでは本 当の失敗防止につながらない。 | |||||
★ | 要因分析やイッシュツリー整理などのときに注意 すべきであろう。 | |||||
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【7】伝えるための5つのポイント | |||||
◇ | まず体験させろ | |||||
◇ | はじめに全体を見せろ | |||||
◇ | やらせたことの結果を必ず確認し ろ | |||||
◇ | 一度に全部を伝える必要はない | |||||
◇ | 個はそれぞれ違うことを認めろ | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | まず体験は理想だが、教室など学習環境でそれが できない場合は早めに全体を見渡せるようにした方がよい。 | |||||
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【8】「企業文化」「気」の伝達 | |||||
◇ | 強制してでも伝えるべきものに「 知」「技」「行動」がある。 | |||||
◇ | 自然に伝わって欲しいものに「価 値観」や「信頼感」、「責任感」といった「企業文化」、「気」がある。 | |||||
◇ | 価値観が共有化されないと判断や 行動に統一性が保てなくなり失敗や事故の原因になる。 | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | 企業文化や気は、知、技、行動の伝達があって始 めて伝わる。 | |||||
★ | 文化が伝わってしまえば自発的、自立的に技術の 高度化が高まるのではないか。 | |||||
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【9】暗黙知の表出 | |||||
◇ | きちんと暗黙知を表出しないと、 大切な知識が断絶してしまう。 | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | 恐ろしいのは暗黙知自体が形成されなくなること 。 | |||||
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【10】自分が伝えるときのことを 意識させる | |||||
◇ | 大切なのは伝えっぱなしにしない こと。相手にアウトプットさせてフィードバックをかける学習法が効果的。 | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | 伝える行為が伝わることの早道。伝える側がもっ と勉強しなければならない。 | |||||
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【11】強い組織と共有知 | |||||
◇ | 高い能力を持つ人だけ集めてもだ め。 | |||||
◇ | 「共有知」の幅や深さが組織とし ての力を決める。 | |||||
◇ | 互いが持っている個人知を表出す る場が必要。 | |||||
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【12】守・破・離 | |||||
◇ | 「守」:決まった作法や型を守る 段階。 | |||||
◇ | 「破」:その状態を破って作法や 型を自分なりに改良する段階。 | |||||
◇ | 「離」:作法や型を離れて独自の 世界を開く段階。 | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | まずは、守から始まる。守を身に着けることなく 、破や離に走ってはならない。 | |||||
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【参考】宗一郎の技術・文化を受 け継いだ現代のホンダ〔特集「ホンダの独創(技術の夢は終わらない)」『日経ビジネス2007.2.5号』 掲載〕 | |||||
◇ | 本田宗一郎生誕100年を過ぎ、そ の挑戦はジェット機、太陽電池、燃料電池車などクルマの領域をはるかに越える。独創と夢を原動力に さらなる高みを目指す脅威の技術集団であり、驚くべき発想力と限界突破力がある。 | |||||
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≪発表者コメント≫ | |||||
★ | ソニーが経営再建に苦しむなかホンダが最高利益 を更新している理由について、業種が違うので同一には比較できないが、良き組織風土を守ったことに よる「技術伝達力」の差が要因ではないか。 | |||||
3. 討議の内容 | ||||||
● | 本書は基本的に筆者の定義に基づ いた「技術」の伝達について述べているのか。【今井】 | |||||
◇ | 基本的にそのとおりだが、その他 のコミュニケーションも含む内容になっている。【河野】 | |||||
● | 「技術」の定義について、P3の定 義では、テクノロジーと全体を作り上げていくやり方のことを「技術」としているが、P4の図以降「技 術」という言葉が単にテクノロジーを意味しており矛盾していると感じたが。【浅川】 | |||||
◇ | 同感だ。特にP4の図は単純化しす ぎていると思う。【河野】 | |||||
● | 著者の畑村氏は文科省のプロジェ クトと関わっているのか。畑村氏はP4で技術の伝達を論じているが、本書自体、過去の知識論を継承で きているのだろうか。著者は、日立のエンジニア出身で「失敗学」の研究では一定の成果を上げている が、本書について言えば期待はずれの印象を受ける。野中氏の知識マネジメント論にエンジニア的視点 を加え、野中氏を超えるような議論をして欲しかった。【新保】 | |||||
● | P7の原因、行動、結果は、産業組 織論のSCPフレームワークに近いものがある。P8の5つのポイントは物足りなさを感じる。エジソンなど 先人の知識を生かしていないのではないか。P9の「企業文化」、「気」の表現についても、もっと突っ 込んで欲しかった。【新保】 | |||||
● | 著者は本書で一般の人を対象に意 図的に分かりやすいように表現しているのだろうか。そう考えると、さきほどの発言はいささか手厳し い言い方であったかも知れない。【新保】 | |||||
◇ | 著者は、シンドラーエレベーター やJR西日本の事故を例に挙げ論じており、一般の人向けの感じがする。技術の伝達においては、マニュ アル化可能な普及レベルの技術と高度な学術的研究レベルに二分化されると思うが、この本では、普及 レベルの技術しか扱っていないように感じる。【河野】 | |||||
● | 主要な論点として社内コミュニケ ーションの軽視を訴えているように感じる。「目利き」の力とこの本の内容は直接関係ないのではない か。【今井】 | |||||
◇ | 本書で直接述べられているわけで はないが、文科省の「情報爆発時代に向けた新しいIT基盤技術の研究」というプロジェクトの報告会を 聴講して目利きの力の必要性を感じた。同報告会では、Googleのようなキーワード検索ではなく、質問 形式の文書による検索や時間をかけて質の高い検索結果を得るような検索システムについての新しいア ルゴリズムの必要性が議論されていた。同報告会では発表内容のレベルのばらつきが感じられ、IT分野 の研究者の知力の低下が心配である。また、「多くの情報」=「知力」ではなく、多くの情報を選別、加 工する「目利きの力」が「知力」につながるのではないかと感じた。【河野】 | |||||
● | Web進化論で述べられているが、 現在のネット社会では0から構築する力は落ちてきており、目利きの力は伸びているのではないか。【今 井】 | |||||
◇ | Googleの力を借りるという意味で パフォーマンスは向上しているかもしれないが、Googleなしでの目利きの力は落ちているのではないか 。【河野】 | |||||
◇ | Webが当然の世界で裸の力の存在 意義はあるのだろうか。【今井】 | |||||
◇ | 情報爆発時代といわれ、確かにデ ジタル化された情報の目利きの力は向上しているが、暗黙知に対する目利きの力は落ちているのではな いか。【浅川】 | |||||
● | 野中郁次郎氏の弟子にあたる紺野 登氏がよく論じているが、日本企業の研究者は、「i-Podなどの画期的製品に使われている技術はありふ れたもので、自分たちの技術力は非常に高く、何でもできる」と言う。i-PodやGoogleなど商業的なイン パクトの大きい製品は単に1つの技術からなるものではない。日本の技術者は謙虚になるべきだ。このま までは、狼少年になってしまう。【新保】 | |||||
● | 日の丸検索エンジンが論じられて いるが、国が関与するならば、安全保障的な観点も踏まえてやるべきだろう。先日NHKで放送された 「Google革命の衝撃」を見ての感想だが、「世界政府をつくる」、「メディアを押さえる」などGoogle の若いエンジニアの野心とポテンシャルは大変野心的で大きなものだ。このことには、言葉以上のこと を深読みしてしまう。中国などの軍事国家においては、国が検索エンジンなどの企業を接収することも 考えられる。【新保】 | |||||
● | マネジメントではなく現場よりの 話だからかもしれないが、本書はいまひとつ心に響かない。P14のホンダの記事は読んだが大変興味深い ものだった。【梅田】 | |||||
◇ | ソニーの社員のなかには、立派な 肩書きとは不釣合いな魅力の乏しい人材もいるようだ。【河野】 | |||||
◇ | クリステンセンが述べているよう に、ソニーほど何度もイノベーションを繰り返している企業は珍しい。出井氏が会社のポテンシャルを 下げたとも言われているが、潜在的イノベーションのポテンシャルは高い企業だと思う。ただし、ソニ ーの立ち位置(業種依存)のためか、業績の振れ幅が大きい。ホンダはものづくりの点で一貫しており 、ぶれていない。【新保】 | |||||
● | 近年企業の不祥事が頻発している が、トラブル発生後、現場レベルではマニュアルを強化する傾向にある。「個人知を表出する場をつく る」などのソフト的な対応では、マスコミやマネジメント層の理解を得にくい場合もあるのではないか 。【武藤】 | |||||
◇ | マニュアルに原因があれば修正す べきだろう。大切なことは原因の本質を追究することであり、そういった企業文化を育むことである。 【河野】 | |||||
4. 次回予定 | ||||||
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2006年2月21日(火)8:30~ 場 所、講師:未定 | |||||
以上 | ||||||