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イノベーション勉強会:第121回討議録

研究本_M&I勉強会(第121回)
「顧客情報をイノベーションに結び つけるための組織マネジメントとは?」議事メモ
(記録:今井孝。その後、参加者による修正・加筆)

1. 日時、場所、参加者

日時、場所 2007年1月10日(水) 8:30~10:30 日本総 合研究所514会議室

参加者 中野本部長、梅田(コンサルティング営業部)、新保(TMT戦略C)、河野(同) 、倉沢(同)、浅川(同)、今井孝之(同)
2. 発表の概要
「顧客情報をイノベーションに結 びつけるための組織マネジメントとは? ~キャリア冗長性とタスク冗長性のマネジメント~」(TMT戦 略クラスター 浅川秀之)
≪背景・概要≫
新製品開発において顧客志向を全 社的レベルで実現するためには、特定部門が孤立したサイロのように顧客情報を抱え込まず、複数部門 間でうまく共有、活用することが重要となる。
新製品開発活動で重要な役割を果 たす、マーケティング部門や研究開発部門において、つまり市場と技術の統合インターフェースにおい て、顧客情報をどのように活かすべきかを、組織的な観点からマネジメントする必要性が高まっている 。
市場と技術がまさに融合する組織 の内部に注目し、企業内のイノベーションとしての新製品開発に、行為主体としてのマーケターや研究 者、開発者がどのように関わるべきなのかについて、文献を基にポイントを整理し、考察を加える。
≪参考文献≫
川上智子著『顧客志向の新製品開 発』(有斐閣、2005年8月)
≪まとめ≫
当該製品やサービスの特性に応じ た、キャリアおよびタスク冗長性のマネジメントは、顧客情報の利用を促し、さらに開発の成功へ連鎖 させるための重要なポイント。

ただし、冗長性のパターンには、 どのような研究開発にも適応可能な“黄金率”は存在しないことに留意が必要。
バランス分化の概念を軸としたフ レームワークに沿って、冗長性をいかにマネジメントするか、という発想こそが重要。

最適な冗長性パターンは、研究者 、開発者、マーケター間において、互いにそれぞれの役割を十分に認識し、さらにはコミュニケーショ ンを密にし、そのような環境下で試行錯誤が繰り返されて形成されるもの。
最適な冗長性に関する仮説を構築 し、同仮説を検証、さらに再構築といった一連のサイクルをできるだけ頻繁に回すことが求められる。

仮にある特定の最適な冗長性パタ ーンが発見されたとしても、おそらくは市場環境の変化に応じてその最適解も動的に変化することが予 想される。

常に、学習しながら最適な冗長性 パターンを発見しつづける組織的な仕組み、マネジメントが必要。
≪示唆≫
研究者に求められる役割、姿勢

自らの研究内容の状況に鑑み、① 研究に没頭すべきなのか、②キャリア冗長性を考慮すべきなのか、③タスク冗長性を考慮すべきなのか を、常に考えモニタリングすることが重要。
開発者に求められる役割、姿勢

開発での技術的な理解をマーケタ ーとして活かすことが有効なのか(キャリア冗長性)、マーケターになる必要はないまでも、顧客との 接点から得られる情報を開発へ即座に反映させる必要性が高いのであれば、開発プロセスの中でマーケ ティング・タスクへ参画し、タスク冗長性を持たせる方が有効なのか、といった自らの立ち位置を常に 意識。
マーケターに求められる役割、姿 勢

研究開発サイドの情報をどのよう にマーケティングに活かすことができるのかを常に考える。

この際、製品やサービスの特性に 応じて、①技術経験者がマーケターとして必要なのか(キャリア冗長性)、②短期的でよいので、例え ば必要な時に客先へ技術者が同行することが求められるのか(タスク冗長性)を判断することが求めら れる。
上位マネージャーに求められる役 割、姿勢

研究・開発者やマーケターの役割 を踏まえた上で、人事的な流動性基盤の確保に務めなければならなない。

場合によっては待遇や厚生面など の人事インフラの改変にまで踏み込む必要。

どのように流動性を持たせるかは 、製品や市場、顧客の質によって異なることを踏まえた上で、最適な流動性を確保し、タスク冗長性や キャリア冗長性の配分(割合、期間など)をマネジメント。

同一企業内だけを見たマネジメン トだけでなく、外部の人材も視野に入れた取り組みも考えられる。
3. 討議の内容
メーカーにおける実態として、研 究開発部門に届けられている顧客情報とはどのようなものが多いのか。例えば、不満に関する情報が多 いのか満足に関する情報が多いのか、PCのファイル上にまとまったものがある場合が多いのか。【倉沢 】

会社により異なる部分が大きい。 大企業であっても顧客情報の非常に狭い部分しか見えていない場合もある。例えば、ある電気通信メー カーでは、顧客別で組織が分断されており、同系列の顧客に関する情報であっても異なる部門間では共 有されていないことがある。【浅川】

先進的な企業ではだいぶ様相が異 なるのではないか。よく取り上げられる一般消費財メーカーなどでは消費者情報センターに入ってくる 情報が組織内で広く共有されている。【中野】

情報共有のためのITインフラなど があることは重要である。また、実際のプロジェクトにおいても研究開発部門の人材がマーケット情報 にアクセスできるということは重要であろう。【浅川】

ひとつのプロジェクトにおける顧 客情報へのアクセスに合わせて、顧客情報のシステムインフラ、データセンターのようなものがあるの ではないか。先進的企業では全国から入ってくる情報が一元管理され日常的に情報が共有されているの であろう。【中野】

海外企業が日本に参入する際に、 北米・欧州におけるモデルが日本のマーケットに通用せず、研究開発拠点を日本にも置く場合も見受け られる。例えば消費財などの地域に密着した商品などは、自国の成功事例を他国へ移転しにくい。マー ケットと研究開発を近くに置く必要性が高い事例もある。【浅川】
参考文献における実例研究におい ては、顧客情報の活用状況についてどのように評価しているのか。【今井】

比較的シンプルに、顧客情報を活 用しているかどうかをマネジメント層に対して直接質問している。【浅川】
参考文献における実例研究におい て、家電産業は1999年実施、一般消費財は2003年実施で4年違っているが、その原因、影響については言 及されているのか。【新保】

特に研究の時期に関して、なぜそ の時期に実施したのかは言及されていないようである。【浅川】

特に、バブルをはさんでいるため 、大分、土俵が違うのではないか。外部環境、ステージが異なることに関する補足説明が必要であろう 。【新保】

時代による違いは当然あるだろう 。ただ、家電業界と一般消費財における研究開発・技術の専門性に起因するR&Dとマーケティング間 の冗長性に関する有効度の違いは納得できるものである。【倉沢】

業界による違い、顧客情報利用が 新製品開発成果に結びつくかどうかの違いを、「製品の革新性」という言葉にまとめてしまっているき らいはあるかもしれない。【中野】

業態などが大きく異なる、家電と 一般消費財とのコントラストがはっきり出ており興味深い。家電産業は、設備産業であり、摺り合わせ 、スケールメリットの影響が大きい、一般消費財では内需を対象にするので流通の仕組みが複雑である 一方、家電では世界的に販売する前提で流通経路が比較的シンプルである、といったことも影響してい るだろう。また、一般消費財では、顧客情報を分析することの有用性が高いため、MBAホルダーなどの活 躍の場が大きい一方で、家電では顧客情報を分析しても必ずしも簡単に解が見つかるような産業ではな い、最大公約数的なものを相手にしていくのではなく顧客情報を観察し洞察しながら次の打ち手を考え ていく、といった違いもあるだろう。【新保】
「専門化の効率性」と「部門間コ ミュニケーションの効率性」を両軸にとり組織体制を表現したマトリックスは興味深い。この図につい て、①なぜこの2つの効率性を軸にとっているのか、②中間に位置する「バランス分化」のタイプがよい という話であるが、実際にパフォーマンスが高くなっているという研究結果などは存在するのか。【河 野】

①について、研究開発、マーケテ ィングという機能別組織は、専門化の効率性を強化する結果、顧客情報などがサイロ的に各部門にため こまれてしまうという問題意識から、専門化と部門間コミュニケーションという軸がとられている。② について、実際のパフォーマンスについては述べられていない。今後の研究課題であろう。【浅川】
全体的な印象として、キャリア冗 長性、タスク冗長性といった概念を研究開発に盛り込むという切り口は斬新で面白い。【新保】

取り扱う産業について、日本はま だ2次産業的な組織文化が中心であり、本研究でも2~2.5次的な産業のアプローチを取り扱っている。ア ルビン・トフラーは、『第三の波』で、プロシューマーが生まれてくる、あるいは第3次産業が伸びてく ることを述べている。こうした時代的な大きなトレンドを見ることが重要であそう。従って、今般の川 上智子のケーススタディのような、過去の事例を調査するのみでよいのだろうかとも感じる。【新保】
「顧客情報の利用」については、 マーケットインとプロダクトアウトの対比で述べられるような視点が重要であろう。米IDEO社のトム・ ケリーが『The Art of Innovation』でも述べているように、両方を見ながら、アウフヘーベンしてい くことが研究開発に求められているように思う。【新保】
「研究(R)→開発(D)→マーケ ティング(M)」というパスの後に、次に何を研究しようか考える、もう一度「R」に戻るパスがあると いう話があったが、これはかなり本質的なことのように思う。「R」と「D」に「M」を加える、こうした 冗長性があってしかるべきであろう。「M→R」の経験まで含めた、閉じたループの経験をしているマネ ージャーの存在が貴重であろうが、実態としてはこうしたケースは少ないように感じる。ジョブローテ ーションなどを通じて全体をマネジメントできる人を増やしていける、そういう組織文化を創っていけ る企業が強くなる。【新保】

大企業において人事に関する仕組 みの改革の必要性を感じる。冗長性をいかにマネジメントするかが重要である。各個人が持っているナ レッジをしっかりと管理できた上で、個人としてのキャリアデザインも考慮して、キャリア冗長性をう まく考えられる仕組みができないだろうか。【中野】

ホワイトカラーの生産性向上の話 もあるが、改革を行っていくためには新しい枠組みも必要であろう。改善型の効率性、生産性向上であ れば従来の枠組みでよいだろうが、不確実性の高い状況における、効率軸上にない(≒ノンリニアな) 生産性に関する向上のためには、方向性・ディレクションをどう設定するのかが重要となる。現在はそ うしたケイパビリティ(組織対応能力)が問われている。【新保】
どこの会社でも研究開発について は非常に悩んでいる。今まで新しいことをやらなかった大企業においても、盛んにイノベーションを意 識している。一つひとつの技術について検討することに加えて、トップ、マネージャーからその下の層 までの人事、教育までを含めた仕組みを作っていくことができればよいのではないか。【梅田】

最後は人にいきつく。組織体制ま で踏み込んだ改革ができるとよいであろう。【中野】

大手のメーカーでは優秀な人がそ ろっているが、中にいる当事者では組織改革をできないことも多い。人事の問題は外部の人には触らせ ないという雰囲気を感じることもあるが、そこを外部に切り出して第三者の経験と知恵を借用すること が必要になってきているのではないか。【新保】
4. 次回予定

2006年1月23日(火)8:30~  514会議室 講師:未定
以上






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