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イノベーション勉強会:第118回討議録

研究本_M&I勉強会(第118回)
「なぜ御用聞きビジネスが伸びているのか」討議録
(記録:武藤。その後、参加者による修正・加筆)

1. 日時、場所、参加者

日時、場所 2006年11月8日(水) 8:30~10:00 日本総合研究所514会議室

参加者 中隈(コンサルティング営業部長)、蓬田(コンサルティング営業部)、梅田( 同)、新保(TMT戦略C)河野(同)、倉沢(同)、今井孝之(同)、吉田賢哉(同)、武藤(同、研修 生)
2. 発表の概要
「なぜ御用聞きビジネスが伸びて いるのか」(TMT戦略クラスター 武藤義之)
≪題材≫
藤沢久美著『なぜ御用聞きビジネ スが伸びているのか』
≪主な内容≫
はじめに

筆者は、3年間で400社以上の中小 企業を取材した。その経験から、「元気な中小企業の姿に、ビジネスの未来が見える」と感じた。

「御用聞きビジネス」とは、顧客 の言葉にならない声や「感覚」を感じ取り、それに応える商品を開発、提供するビジネスであり、営業 のあり方、商品開発のあり方、情報発信のあり方、人材育成のありかた、そして、企業そのもののあり 方を変えるものである。
第1の発想転換:「売りに行く」 から「聞きに行く」へ

顧客のニーズが見えにくい現代。 御用聞きとして顧客の信頼を得ることで、雑談などを通して顧客の潜在ニーズを掘り起こす事が必要。


町田市電気店の事例。
第2の発想転換:「商品の専門家 」から「顧客の専門家」へ

今までの専門店はいわば「商品の専門家」。顧客を熟知した御用聞きは「顧客の専門家」。「商品の専門家」と「顧客の専門家」が協力 することで、幅広いビジネスチャンスが生まれる(=ソリューション提供サービス?)。


町田市電気店、神奈川牛乳店の事 例。
第3の発想転換:「商品を売る」 から「自分を売る」へ

御用聞きには、顧客とのコミュニ ケーション能力が必要。

「心」のこもったサービスや、顧 客を「感動」させることで信頼を得ることができる。口コミ効果は絶大。


山形お土産や、ビジネスホテルの事例。
第4の発想転換:「クレーム対策 」から「クレーム歓迎」へ

クレームは顧客と信頼関係を築く チャンスであり、クレームの中にはたくさんのアイディアが詰まっている。


四国ビルメンテナンス会社、苦情 クレーム博覧会の事例。
第5の発想転換:「モノづくり」 から「場づくり」へ

プロシューマの誕生。顧客(B2B 含む)との「価値観共有」の場づくりが、新たなヒット商品を生む。


旅行会社の事例。
第6の発想転換:「一人勝ち」か ら「みんな勝ち」へ

中小企業が連携を行うことで、新たな「付加価値」を創造できる。

デザイナーを雇うことで、提案型企業へ。


試作ネット、ニットメーカーの事例。
第7の発想転換:「モノを売る」 から「シーンを売る」へ

モノ自体を売るより「利用シーン 」を企画、提案。

地方という立地条件もその土地ならではの「シーン」として、強みになる。


おやき、岐阜県の和菓子やの事例 。
第8の発想転換:「まず日本」か ら「まず世界」へ

市場のグローバル化。

情報発信の重要性。技術情報を発 信すれば、ニーズは向こうからやってくる。


大阪メッキ会社、世界一小さな歯 車の事例。
第9の発想転換:「顧客の声を聞 く」から「従業員の声を聞く」へ

従業員に「顧客の声を聞く」よう にさせるには、まず、経営者が「従業員の声を聞く」ことが重要。


残業禁止の電気設備会社の事例。
第10の発想転換:「職場づくり」 から「晴れ舞台づくり」へ

従業員一人ひとりが生き生き働け る場をつくることが、企業の活性化につながる。


北海道の菓子メーカーの事例。
おわりに

本当の競争は自分との戦い。


何十年も黒字を出し続けている企 業の経営者は、皆「競争しない」という。競争し誰かを追い落とせば必ずしっぺ返しがある。


自社が築きあげてきたものと戦い 、時にはそれを変えて新しい活路を見出していく「自社との戦い」がある。

急成長は低成長のもと(長野の寒天メーカー)。


商品がヒットしても、生産ラインや人員を増やさない。


新規商品は、既存の売れ筋商品が 定番となるまで十分待ってから市場に出す。


他社に先を越されるような商品は 寿命が短い。誰も出さない商品だからこそ、自信を持って世に出せる。

100年間黒字を続ける企業の秘密 (今治の造船所)。


他社とは競争せず、景気が最悪の ときに黒字を出せる設備と人員で経営する。


事業を未来につなげるには設備投 資が必要。コストが安くすむよう景気が悪いときに、あえて、設備投資をする。

地域と共生し長い時間軸で経営を 続ける企業は、短期的な利益に目を奪われがちな現代に警鐘を鳴らす存在。

社会、顧客、従業員のために企業 があり、その使命を経営者と株主が共有し、企業というすばらしい場を発展させていく。これが企業の 本来のあり方ではないだろうか。
3. 議論の内容
中小企業のさまざまな取り組みは 非常に面白い。中には大企業に役立つアイディアも含まれるのではないか。中小企業の経営者や事業を 起こそうという人へのヒント集として書かれているのではないか。注意すべき点は、事業環境などその 企業特有の条件が含まれる成功事例が見られるので、しっかり分析してから適応しなくては危ない。う わべだけでまねるとずれが生じる場合があるかもしれない。【倉沢】

例えば、「一日一情報」は真似し ようと思えばすぐ真似られる。ただ、社長との信頼関係がベースにあってやるのが美しい姿だが、そう ではないと上手くいかない可能性がある。【河野】

社長が出張のときには他の役員が 代わりに担当するが、なかなか骨が折れるということが紹介されていた。リーダーに依存する部分は大 きいかもしれない。【武藤】

オーナー社長ならではのやり方か もしれない。ただ、従業員1,700名という規模で使えるかというと難しいように思う。知人の明太子屋は 従業員300名程度なので、適正な規模かもしれない。【倉沢】
タイトルと内容にずれがある気が する。「御用聞きビジネス」というより、顧客とのつながりや顧客とともに企業が成長するプロセスに 主眼がある。
電気店の事例などは、おそらく顧 客は高齢者中心だと思うが、これが系列店の本来の姿だといえる。身の回りから中小のストアがなくな っているが、今残っていると結構競争力を持てるような気がする。大手メーカーや販売店は研究すべき 点が多いだろう。【以上、河野】

この電気店はいろいろな工夫をし ている。営業マンに粗利ベースのノルマを課し、価格は営業マンの裁量で決められる。また、リフォー ムビジネスへの進出も行っている。【武藤】

営業網を他の業種に使うことは有 効だろう。すでに大企業の仲間入りを果たしているが、大塚商会も類似した事例であろう。リコーの営 業店から顧客とのつながりを背景に独立し今の地位を築いた。【倉沢】
タイトルと内容がずれている印象 がある。「御用聞き」のイメージだとルートセールスの中で提案をぶつける形だが、着眼点は顧客の意 見を吸い上げるということ。特に、面白いと思ったのはP14の未来工業。顧客の声を聞くためにはまず従 業員の声を聞き情報共有を大切にするという着眼点がよい。【中隈】
ある銀行のクレーム数は、ライバ ル銀行の10分の1だそうだが、これはサービスが良いからではなく、顧客と従業員の間にクレームを取り 上げサービスにフィードバックするという意識付けができていないのかもしれない。営業のヒントとな る事例が多数含まれていた。情報やヒントを求めている中小企業の社長は多い。【梅田】
事例集としてユニークである。集 めるのは難しいだろうが可能であれば、成功事例ばかりではなく、もう少し失敗事例が多いほうが参考 になるかもしれない。【蓬田】
全体を通してとしては示唆的な内 容が非常に多く含まれているように感じる。大企業のトップマネジメントクラスにおいても参考とすべ き部分が相当含まれているのではないか。P2の雑談リサーチやP17の「競争しない」などは非常に重要な 観点である。中小企業の社長はおそらく無意識のうちに、地域独占状態を作り上げたり、ターゲット層 を絞り込んだり、という戦略を行っている。エコノミクスやマネジメントの観点から理論的に分析する と意義深いだろう。

クリステンセン(ハーバード大学 )は、潜在ニーズとは、満足度不足に起因すると指摘している。町田市の電気店は満足度を引き出すの に成功した。家電量販店とは別のものを売っているようなもの。販売商品が満足度過剰にあって潜在ニ ーズを引き出せない場合、低価格競争に走るしかなくなっている。

粗利ベースのノルマというのも素 晴らしいアイディアだ。事業規模の小さな企業は、成長より利益を重視すべきだからだ。

P7の複雑系の議論での、「共通の 価値観=ゆらぎ」という記述に違和感がある。宿題として、ケネス・アロー氏やイリヤ・プリゴジン氏、 ヘンリー・ミンツバーグ氏などの学説も調べてほしい。

P9の「試作ネット」は、完成され たパッケージ製品ではなく試作に着眼したところが良い。潜在ニーズを引き出すのに非常に有効であろ う。ただし、このビジネスモデルは、すぐに模倣される危険性があるので用心が必要だろう。

P10のニットメーカーについて、 中国企業を下請けとして利用することでローエンドの取り込みを行う仕掛けができている。また、デザ イナーを雇い入れることなど、バリューチェーンの上流の取り込み、すなわち、中小企業の自分たち側 にバーゲニングパワーをシフト(変革)させようとしている。おもしろい事例だ。

P11の「モノを売る」から「シー ンを売る」という考え方について。大企業の経営企画部門は、このような中小企業の事例からどれだけ 学び取っているだろうか。企業の成長が時価総額に織り込まれている以上、企業は常に成長を求められ る。したがって、企業にとって新規事業は必要不可欠だ。独立した新規事業のための組織を作る、成功 したベンチャーを取り込むなど、新規事業の柱を作る仕掛けが必要だろう。

P13の情報発信については、従来 のチャネルを飛び越えることが重要。SNSのようなしくみが普及し始めている現在、コミュニティサイト での口コミ効果は絶大であろう。

P17のまとめの部分について。「 競争しない」という考え方は重要。また、「ノンコンサンプションマーケット」を狙う事が大切。「ノ ンコンサンプションマーケット=非消費市場」と訳すのが適当。誰も手をつけていない市場を狙うという こと、ニッチ市場とは異なる重要な観点である。

今治の造船所の話は、業界内では 有名な話である。大手造船所は差別化を図るためハイエンドの市場を狙っているが限界に来ている。こ の造船所は中国のバルク船に対抗できるローエンドの船に狙いを定め成功している。

中小企業の成功例には、新規事業 を育てていく重要なヒントが含まれている。こういった情報は、中小企業だけではなく、是非大企業へ も持っていってほしい。【以上、新保】
全体を通して、成功している企業 の強みの源泉となっている仕組みは意外とシンプルであると感じた。【吉田】

コントロールできる範囲という問 題もある。規模の壁があるので、企業の大きさも依存するだろう。【新保】
付き合いのある従業員170名規模 の中小企業では、毎日全員に日報をつけさせ、社長が全部チェックしている。社長は、日報の字を見る だけで、従業員の体調が分かるそうだ。調子が悪そうな社員には率先して声をかけるように心がけているそうだ。【吉田】

こういったコミュニケーションは 、社長の能力に依存しそうだ。従業員側から見たときの、日報を書き続けるメリットはなんだろうか。 【河野】

六花亭や未来工業の事例などでは 、個人の意見に社長や役員が真摯に耳を傾けていることと、良い意見はすぐに採用していることが従業 員のやる気を喚起しているようだ。【武藤】

自分の意見が全社的に共有され事 業に取り入れられているという意識が、よりよい提案を生む。いい循環を起こしている。フィードバッ クがないと必ず失敗するだろう。【中隈】

毎日ノルマが課せられているのか 、毎日そんなに書く事があるのか疑問だが。【蓬田】

販売、営業担当には毎日義務づけ られている。生産ラインの担当者は義務ではないようだ。【武藤】

営業は、顧客とのやり取りなど毎 日報告すべき事があるだろう。営業日誌の代わりのような位置付けかもしれない。【梅田】
書き続けることは、確実に従業員 の能力アップにつながるだろう。本書は理論化することにこだわらず女性の感覚で素直に書かれている ように感じる。筆者のヒアリング能力が優れているのではないか。著者とは何回か委員会などで同席し た事があるが、非常に感じのいい女性だ。中小企業の社長の皆さんも、しゃべりやすかったのではない か。【河野】

テレビの取材ということもあるが 、実際に営業担当について客先に出向いたり、生産現場の人の話を聴いたり、細やかな取材をされてい るようだ。【武藤】
従業員個人の言葉は大変親しみや すく感じる。各社のHPを見た感想として、中小企業のHPの親しみやすさを大企業にも取り入れる方法は ないだろうか。【河野】

HPは各社でさまざま。アットホー ムな雰囲気や手作り感あふれるところもあれば、洗練されているところもある。大手企業のHPには、確 かに洗練されているが顔が見えないところが多いように思う。六花亭のHPについて、サイトの表面は商 品紹介が充実しているが、採用情報や会社紹介のページに足を踏み入れると、従業員の生の声が掲載さ れており会社の雰囲気が良く分かる。製品紹介や事業紹介とは別に従業員の生の声を紹介するコーナー を設ければ、企業の雰囲気を紹介する事ができるのではないか。【武藤】

業務紹介に加え従業員紹介のコー ナーを作るのは、企業の情報発信として効果的手段ではないだろうか。JRIでは、「研究員のココロ」の コーナーがその役割を担っている。【中隈】
4. 次回予定

2006年11月20日(月)8:30~514会議室 講師:倉沢
5. 記録者(武藤)の感想
 初めて勉強会講師を担当させていただいた。少し緊張したが上手く説明できたのではないかと思う。活発な議論をいただいたことと、営業の方の反応が良かったことが何よりうれし かった。
 題材とした書籍は分かりやすい言葉で丁寧に書かれており、まとめやすかった。書籍に含まれ る、経営者・起業家のヒント集としての使えるという表の面と、現代社会における企業マネジメントの かぎとなる考え方が垣間見られるという裏の面、両面が活発な議論を呼んだように思う。勉強会メンバ ーのご指摘のとおり、『なぜ御用聞きビジネスが伸びているのか』というタイトルは書籍の内容と少し 離れているかもしれない。著者が冒頭で述べているように「元気な中小企業の姿に、ビジネスの未来が 見える」という表現の方が、この書籍の内容を適切にあらわしているように思う。
以上






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