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イノベーション勉強会:第116回討議録

研究本_M&I勉強会(第116回)
「ロングテールについて考える」討議録
(記録:武藤。その後、参加者による修正・加筆)

1. 日時、場所、参加者

日時、場所 2006年10月11日(水) 8:30~10:15 日本総合研究所514会議室

参加者 梅田(コンサルティング営業部)、伊藤史(ビジネス戦略デザインC、競争戦略C )、新保(TMT戦略C)河野(同)、淺川(同)、今井孝之(同)、吉田賢哉(同)、武藤(同、研修生 )
2. 発表の概要
「ロングテールについて考える( クリス・アンダーソンの新著『ロングテール』の紹介を中心に)」(TMT戦略クラスター 河野賢一さん )
≪主な内容≫
クリス・アンダーソン『ロングテ ール』の概要:

統計学では、そうした曲線のこと を「ロングテールド・ディストリビューション(裾の長い分布)」と呼ぶ。曲線の裾(テール)が、てっぺん(ヘッド)に比べて長いから。ここから「ロングテール」という概念が誕生した。

①商品のテールは思ったよりずっと長い。②経済的にテールの商品にも手が届くようになった。③全部足せばニッチは重要な市場になりうる。

ロングテールのあてはまる領域が広がりつつある。
21世紀経済の予測

ヒット作は未だ注目の的ではある が、昔のような冨は生まない。気まぐれな消費者たちが向かう先はどこか。大市場がさまざまなニッチ市場に分裂し、その中に消費者は拡散していく。主流の一枚岩が割れて、膨大な数の小さなかけらに散 っていく。『ロングテール』のテーマ。
ロングテールの規模

ヒットしない商品を集めればヒッ ト作に匹敵する市場が作れる。
ロングテール時代の姿:6つの特 徴

現実に全ての市場において、ニッ チ商品はヒット商品よりはるかに多い。

ニッチ商品を入手するコストが劇 的に下がってきた。

多様な選択肢を提供しても、それだけで需要は増えない。消費者がそれぞれの必要性や興味に合わせてニッチ商品を見つけられるような方法を提供しなければならない。

選択肢が幅広く、それを整理するフィルタがあれば、曲線は平坦な形になる。ヒットもニッチもどちらもまだ存在するが、ヒットは以前より人気度が低く、ニッチは高くなる。

ニッチ商品を全部足せば、ヒット 商品に肩を並べるほどの大きな市場になる可能性がある。

以上の要素が揃えば、流通経路の狭さ、情報不足、商品スペースの限界に影響を受けない自然な曲線が現れる。それはこれまで当然と思わされてきたヒット指向の形をしてはいない。
ロングテールの3つの追い風

第一の追い風:生産手段の民主化

第二の追い風:流通を民主化して 消費のコストを減らす

第三の追い風:需要と供給を結びつける
ウィキペディア現象(生産手段の 民主化事例)

ヘッドとテールとではものづくり の動機が違う。


ヘッドは、営利が優先。テールは 、自己実現、楽しみ、実験などさまざま。
ビジネス集積者の5分類

物理的な商品              :アマゾンやイーベイなど ⇒ ハイブリッド小売業

デジタル商品              :iTMSやアイフィルム   ⇒ 以下はデジタル小売業

広告・サービス             :グーグルやクレイグスリスト

情報・ユーザーのつくるコンテンツ :グーグルやウィキペディアなど

コミュニティ・人 :マイスペースやブログラインズなど
その他のキーワード

プロ・アマ共同時代


天文学はもっとも民主化された科 学分野になった。それを可能にしたのは、ドブソニアン望遠鏡とCCD、インターネット。

ルル・コム Lulu.Com


自費出版業界における新興のDIY 出版。ISBNつきの本を200ドルもかけずにつくれて、オンライン書店でも販売可能。売上の80%が作家の手に渡る。通常の印税よりはるかに高いので、自費出版は敗者の兵法と言う考え方が変わる。

レコメンデーションの時代


集合知(wisdom of the crowd) の活用:ヤフーの評価付け、グーグルのページ順位、マイスペースの友達、ネットフリックスのユーザー・レビュー等。

ナビゲーション・レイヤー


フィルタ(レコメンデーションな どの機能の総称)はロングテールのナビゲーション・レイヤー。

時間のロングテール


今日のヒットは明日のニッチだっ たが、古いコンテンツへのアクセスがグーグルを通じて増えれば、そのパターンが崩れる。

選択肢が多いと問題が起こるとい う逆説


選択肢が多いだけでは不十分。選 択肢の情報や以前同じものを買った消費者の動向も知らせる必要がある。

ロングテールビジネス発展のコツ


①すべての商品が手に入るように する。②欲しい商品を見つける手助けをする。
3. 議論の内容
P8に述べられている、「1.物理的 小売業」、「2.ハイブリッド小売業」、「3.デジタル小売業」の区分の中で、グーグルは小売業という 定義でよいのか。【今井】

一般的な「小売業」の感覚からは 外れているが、この本では、グーグルやウィキペディアも「小売業」に含んでいる。【河野】

近年の書籍の中には、最終消費者 へサービスを提供する企業を「小売業」と呼ぶ記述が増えている。B2Bを卸売業として、卸売業(ホール セール)と小売業の2種類に分類している。【新保】

従来の分類とは違うかもしれないが、この書籍『ロングテール』で著者クリス・アンダーソンは、数多くのユーザーへ提供しているという観点で、広告業を小売業に分類している。【河野】

広告代理店は、B2Bの業態なので 、小売業とはいわないだろう。グーグルの場合、顧客がプロシューマーであり、代理店を通さないという理由から、広義の小売業と呼んでいるのではないか。電通や博報堂はいわば仲介業であり、「1.物理的な小売業」に近い。流通段階で仲介業が存在する場合とネットで流通させる場合で、分類されるので はないか。【新保】

コストの観点から、在庫管理コストの大小で分類されると考えると理解しやすい。コスト面から考えると、広告代理店は「1.物理的小売 業」となる。【伊藤】

コストの観点とサービスがデジタル化されているかの2つの観点からの分類であろう。【河野】

「Web2.0」と「ロングテール」の枠は、既存の供給のキャパシティを超えているという観点で共通項があると考えると理解しやすい。【吉田】
最近のブログの増加などの情報発信についてもロングテールと呼んでよいのか。『ウェブ進化論』において、Web2.0の世界では質の高いコンテンツを溜めるのではなく無料で開放することで大きな利益につながる、と述べられている。コンテンツを売るという話ではないので、ロングテールと同じ枠で語るのは、違和感が残る。ロングテール とは、一般的に物売りに限定される話ではないということか。【今井】

ヘッドの方は営利を追求する。テールは、広告収入を得ることもあるが、自己実現、楽しみ、実験が主な動機である。【河野】

ロングテールの語源の「ロングテールディストリビューション(裾の長い分布)」は具体的にどのような分布であるか、その定義は不明であるが(統計学用語か)、おそらくネットワークトポロジーが反映されたベキ級数的分布と捉えてよいのではないか。ロングテールというと、一般的にマーケティング関連の話題として扱われがちだが、統計学的分布が背景にあるとすれば、概念的には、マーケティングだけでなく、もっと広く捉えたほうがしっくりする。【浅川】
10年ほど前は、「スケールフリー ネットワーク」のように、インターネットの普及による2極化の進展が議論されていた。これは、インターネットの黎明期であったからと考えてよいのか。現在は、インターネットの浸透により、テールの部 分が平らになり厚みを増していると考えてよいのか。【今井】

インターネットの成長と、サーチ エンジンの高度化の影響は確かに大きい。ただし、スケールフリーネットワークの定義である「成長」と「優先選択」という法則は黎明期も今も根本的には変化がないはずである。従って、ロングテールの 分布自体は、黎明期も今も変わらないのではないか。数値的に根拠があるわけではないが、直感的に、人気のあるコンテンツに情報が集まる傾向は黎明期から緩和されていないように感じる。【浅川】
ロングテールを話題にすると、テ ール部分に目が行きがちだが、ヘッドが重要でなくなってきたわけではない。ロングテールの時代の中でヒット(ヘッド)を目指すような努力が必要ではないか。本書『ロングテール』にも、テール部分の 商品をいかにしてヒット商品にするかについては述べられていない。【河野】
P6の「民主化」は、原文では、「 democratize」となっているのか。トフラーが述べているプロシューマーの話は、消費者への知の移行で あり、「民主化」という言葉は合わないように感じる。【新保】

「生産の民主化」は、生産手段が 、企業から民へ移ったという意味で理解しやすいが、「流通の民主化」は、何が民主化されたのか、その定義がはっきりとイメージできない。【浅川】


デジタル化された商品を扱う場合 は、「流通の民主化」といえるだろうが、アマゾンなど「2.ハイブリッド小売業」については、民が物 流や在庫管理をするわけではないので、「民主化」という言葉に違和感がある。【今井】


店舗が今までの流通手段だったが 、アマゾンやイーベイで、一般の個人が商品を流通させることが可能になった。クリス・アンダーソンは、その点を「民主化」と呼んでいる。【河野】

マルクスは、資本家に占有されて いた生産手段を労働者へ移行させようとした。資本家と労働者の間に国家という概念を持ち出した。同 じアナロジーで考えるなら、アマゾンなど一握りの企業が手段を開放する形になっている。一方プラットフォーム(媒体)と消費者とのつながりは、より強くなっている。100年前に比べるともの、富が国民の隅々まで普及するような状態である。富がスピルオーバーしている。ネットであれ、物流であれ、流 通手段が存在感を出し、流通手段によりプロシューマーと企業が結ばれている。【新保】

生産手段、流通手段の民主化など は、まさに「Web2.0」そのものを指しているのではないか(「ロングテール」に着目すると「Web2.0」 が「追い風」、背景として語られる一方、「Web2.0」に着目すると「ロングテール」は一現象として語られる)。Web2.0の特徴としてAPIの公開が挙げられるが、「民主化」はAPIの公開に通じるのではない か。APIを提供するネットの「あちら側」の事業者が資本家に通じるように感じる。【今井】

APIの公開は、消費者の情報格差をなくす契機となった。一握 りの資本家が富を独占する、マルクスが予言した世界に近いかもしれない。エコノミクスの世界でいえ ば、規模の経済性、ネットワークの外部性を生かした企業が、生き残るのでは。【新保】
アマゾンやイーベイのような独占 的プラットフォーム事業自体は、ロングテールがない。【河野】
グーグルやアマゾンは、マイクロソフトのように独占禁止法の対象となりうるのか。【新保】

マイクロソフトがOSにInternet Explorerをセット販売したような、競争原理に反する行為を行わなければ大丈夫であろう。【河野】

マイクロソフトは、Internet Explorerのバンドル販売を行い、APIを非公開にした。消費者にとって選択肢がない状態であったのが問 題であった。しかし、米国で独占禁止法による分割対象になった企業は、スタンダード石油とAT&T しかない。マイクロソフトは、かなりグレーだが結果的に(司法取引の末)勝訴となっている。【新保 】
リアルの流通業では、郊外型量販 店(例:ヤマダ電機)とメーカー直販系列店(例:松下)が戦いを繰り広げてきた。そのような戦いは ロングテールの世界にも登場するのか。【新保】

このような流通の変化は、Webの 出現で突然現れたわけではない。米国でいうとシアーズが伝統的な小売業を脱却した最初の企業である。巨大な倉庫のような店舗で管理コストを削減することで多種多様な品揃えを実現し、ユーザーが1スト ップで買い物ができるようすることで、流通に変化をもたらした。次にカタログ販売を始めて、これも消費者にも受け入れられた。商品の数を増やすことで小売業として成長してきた。アマゾンやイーベイ などは、インターネットだけでなく、クレジットカードのシステム、宅配(小口物流)のシステムが合わさって初めて成立しているビジネスモデルだ。アマゾンは流通の歴史の中から生まれてきたものである。

郊外型量販店は、品揃えの面、車社会で有利であるが、高齢者へのサービスや顧客へのキメ細やか対応に関しては、小型店にメリットが ある。双方、共存していく方向にあるのではないか。【以上、河野】
P4のネット型小売業と店舗型小売 業の比較についてだが、比較対象として、音楽、DVD、書籍など明らかにネットで取り扱うと便利なもの が並んでいる。扱っている商品によって、ロングテールの有効性に違いがあるだろう。すべてが、ロン グテールにあてはまると単純にいえない。【新保】

物品により在庫コストが違う。その影響もあるだろう。書籍などは、家電などと比較し在庫管理コストが低い。1在庫あたりのコストと利 益率の観点から、どのような製品がロングテールに向いているか分析できるのではないか。【伊藤】

在庫コストだけではなく、販売コストも考慮すべきだろう。インターネットを使うことでコストが十分下げられるもの、インターネット 上の説明で顧客が納得して買ってくれる製品でなければ、ロングテールには適さないだろう。対面販売 時の説明が重視される化粧品などは難しいのでないか。【新保】

化粧品でもアットコスメのような ものと連動してレコメンデーションが上手くいけば売れるのではないか。【今井】
最近、書店の店員による手書きポップでベストセラーが生まれている。【新保】
(手書きポップから話題になった書籍:『世界の中心で、愛をさけぶ』、『白い犬とワルツを』 、『天国の本屋』など。)

ヴィレッジヴァンガードという書 店兼雑貨屋は、手書きのポップや手作り感を大切にしている。また、最近CDショップでも、手作りポッ プをよく見かける。アナログのレコメンデーションが以外と効果があるようで、注目が集まっている。 【浅川】

公開されているAPIを活用すれば 、口コミ・レコメンデーションの世界はコミュニティーサイトへ広がるのではないか。【今井】
制作主体と媒体をそれぞれ、プロ /アマで分けた2×2のマトリクスをつくり分析すると興味深い。いままでは、皆プロを目指していた。これから、プロの制作主体もアマの媒体を目指す。隠れてYouTubeに作品を出していたプロの映像制作者の 作品が最近話題になった。【新保】
P9の「プロ・アマ共同時代」、「 時間のロングテール」などのキーワードは大変興味深い。顧客に新しいビジネスチャンスのヒントとし て訴求できそうだ。【梅田】
ロングテールで中小企業に光が当たる。中小企業が生き延びるチャンスになるかもしれない。【河野】

むしろ、中小企業は生き残れなく なるのではないか。ロングテールを形成するのはプロシューマーではないのか。大企業とプロシューマ ーが儲けて、中小企業の存在基盤が脆弱となり、生存には厳しい状況になるのではないか。【新保】

中小企業の中で競争力を持っているが埋もれていた企業は、ロングテールで光が当たり、生き残れるかもしれない。いわゆる下請け型の 従来の中小企業はつらいかもしれない。【河野】

YouTubeもある意味では中小企業 だったが、グーグルに買収された。中小企業は買収の対象になり、生き残るのは難しいのでは。【新保】

YouTubeのようなインフラ型のネ ット企業はベンチャーの時は特徴を出せても、単体で生き残っていくのは難しいと思う。【河野】

インフラ型、ネットワーク型の企 業の競争力は何だろうか。医療、福祉、健康などのサービス産業は生き残っていけるかもしれないが、 オペレーションの世界では効率化が追求される。その結果、中小企業などは統合・合併プロセスを経て 大規模化を目指すしかないのではないか。

産業全体の観点から見たとき、買 収などにより退出する中小企業が増えても、新しい中小企業が次々と生まれてくる土壌、そうしたアク ティブな場が存在すればよいのではないか。企業の寿命に着目すると今後短命化が進むといえるかもし れない。その意味では、米国のように一度失敗しても再度チャレンジできる社会環境が必要ではないか 。【以上、新保】

中小企業が大企業に成長しやすく なることも考えられる。地方で評判のおいしいチーズケーキの店が、インターネットを活用し、急成長 した事例がある。【吉田】

そうなると、企業のマネージメントの重要性が増す。マネージメント次第では、一気に成長するチャンスがある。中小企業でも格差が拡 がるだろう。【新保】

チーズケーキの事例で言えば、「おいしい」ことが競争力である。競争力のある企業が生き残るのではないか。【河野】

はやく成長する企業がある一方で 、はやく存在価値をなくす企業も増えるだろう。【新保】

一方でロングテールの部分で細々 と生き残る企業は増えるのではないか。【吉田】

サービス業についていえば、多様 化が進みニッチ市場が多く生まれるかもしれない。ここではロングテール部分が増えるかもしれない。 つまり、細々とやる企業が増えるかもしれない。最近の商社プロジェクト実施の際、参入・退出するタ イミングについて研究した論文(米国の大学研究者によるもの)を目にしたが、産業構造の変化のスピ ードは、今後ますます速くなっていくだろう。【新保】
4. 次回予定

2006年10月25日(水)8:30~514会議室 講師:吉田賢哉さん
5. 記録者(武藤)の感想
 今回の発表は、最近『ウェブ進化論』でも話題になった「ロングテール」がテ ーマで、大変興味深い内容だった。後半の議論においては、ロングテールと小売業の定義から始まり、 Web2.0やAPIの公開との関連性、「流通の民主化」の定義について、プロ/アマの話、中小企業の生き残 りと産業構造の変化についてと広範囲に渡り、深い議論が繰り広げられ大変勉強になった。
 個人的には、テールからヘッドを目指す方法、ロングテールビジネスに適した製品の分析、ベ ンチャーは、コンテンツビジネスとプラットフォームビジネスのどちらを目指すべきか、などの議論も 、もう少し聞きたかった。
以上






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