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アフターコロナを見据えた少子化対策等のための未婚者の実態調査
~国内6,074人のアンケート調査より未婚パターンを明らかに~

2022年08月25日 今川成樹、菅章、古内拓、山下翔平、安本勇貴


【調査の背景と目的】
 日本の合計特殊出生率は1980年の1.8から、2020年では1.34まで減少しており、過去から日本の少子化はその深刻度を増している。この出生率を有配偶出生率と有配偶率(15~49歳女性)に分解すると、後者は1980年の7.7%から、2020年では7.2%と微減であるが、後者の落ち込みは、1980年の67%から2020年では48%とより大きい。このことからも、少子化については有配偶率の課題が大きいことが分かる(※1)(※2)
 一方で、政府は少子化対策大綱を打ち出しているが、図表1で示されている141の施策のうち、子育て支援は101施策があるのに対し、少子化を考える上で重要と思われる有配偶率の低下をてこ入れするために必要とされる結婚支援については14施策と、手薄になっているのが実情である。



 このように少子化対策の施策が、子育て支援に偏重し、結婚支援について手薄になる背景としては、結婚意欲向上に資する施策は、そもそも公的機関が取り組みにくい領域であり、かつ、効果的な施策検討に必要不可欠な公的統計の結婚支援関連データは少なく、このために思い切った施策の検討や、予算配分も含めた実施につなげることのハードルを高めていると考えられる。
 以上の背景から、本調査では既存の公的統計を補完し、一層深刻さを増す少子化対策等の検討の一助となる、未婚者の実態に関する基礎的な調査を実施し、分析を行った。

【調査の概要】
調査方法:インターネット調査
調査対象者:全国の20~49歳の男女
調査期間:2021年6月15日~2021年6月18日
回答数:有効回答数6,074人(回収率15.4%)
調査協力:株式会社エウレカ

【調査結果サマリー】
 本調査では、未婚の理由を調査し、その結果について、いくつかのパターンに分解、整理した。その概要が図表2である。以下では、パターンごとに調査結果を示す。
※詳細は添付の報告書を参照。



1)結婚したくない(非婚)層
 未婚パターンのうち、結婚したくないという、いわゆる「非婚層」については、全体の28%を占めた。これは、従来の公的統計よりも高い水準であるといえる。さらに、非婚層の28%を分解すると、「個人の経済合理性」(図表2のパターン①)を理由とした回答は5%であった。実際に、当該回答者の年収水準は全体よりも低水準であることは本調査でも同様の結果を得ている(※3)いるが、加えて当該回答者については、経済合理性だけではなく、普段の生活から異性と触れ合う接点・交際経験も少ない傾向も本調査結果からみられた(※4)
 なお、非婚層においては、前述の「個人の経済合理性」よりも、「生活面の制約(パターン②)」をあげた回答が20%と高い数字を示している。当該パターンの回答者は、他のパターンと比較して交際意欲が低いこと、併せて「誰とも会わないことのつらさ」を感じていないこと(※5)も本調査結果からみられた。

2)結婚したい(未婚)層
 結婚意欲はあるが結婚できていない「未婚層」については、全体の72%を占め、このうち、結婚に向けて「活動していない/できていない」と回答している割合は43%と、未婚層の半分以上の割合を占める結果となった。
 さらに、結婚に向けて「活動していない/できていない」と回答している者のうち、「おっくうだと感じるために活動できていない」(パターン④)と回答している割合は8%であった。この層は、回答結果から、独り身であることに寂しさを感じ、交際意欲は高いものの、交際経験が少ないために活動に対する心理的ハードルが存在する可能性が示された(※6)
また、結婚に向けて「活動していない/できていない」と回答している者のうち、「経済面の制約があり結婚に向けた活動ができていない」(パターン⑦)と回答している割合は5%であった。この層は、回答結果から、パターン①と同様に年収が低水準となっており、また雇用形態(非正規雇用)が結婚に向けた活動の意欲に悪影響を及ぼしている可能性がある(※7)
 各未婚パターンにおいて、それぞれ一定の特徴がみられたが極端な偏りは見られず結婚に向けた活動を行えていない層には活動ができないさまざまな理由があり、何か一つの主要な課題に絞り込みづらい状況にあることが分かった。

 なお、未婚層への具体的な支援を考えるうえで、既婚者・未婚者の結婚に向けた活動の内容は注視する必要がある。厚生労働省が実施している出生動向基本調査では、「出会ったきっかけ・場所」(Where)を問う設問が中心であり、「職場や仕事で」「友人・兄弟姉妹を通じて」と回答している割合が約4割を占めた(※8)
 一方、本調査では、「結婚のために実施している活動(出会いのための活動)」(How)についての設問を設けたが、その結果、未婚者のうち「出会いを意識したことは特にしていない」と回答する割合が68.4%と高い割合を占めた一方、「日常生活において出会いを意識して生活している」「マッチングアプリ/サイトを活用している」と回答する割合がそれぞれ約10%ずつという結果となった(図表3)。その他、「お見合い」「結婚相談所」等を活用していると回答する割合も一定数存在し、出会いの機会は、マッチングアプリ/サイトの活用も含め、多様化している現状がうかがえる。



 また、直近1年以内に結婚した既婚者の結婚のための活動をしているかを確認したところ、活動していた層(未婚者における活動している層)が7割程度を占めていることが分かった。また、その活動内容の内訳として「日常生活でアンテナをはっていた(24.9%)」。「マッチングアプリ/サイト(19.0%)」、「友人の紹介(11.0%)」の順でこれらを足すと半数を超えていた。
 その他、今回、「マッチングアプリ/サイトの利用有無」という要因が「未婚・既婚」という事象に及ぼしている影響を簡易的に分析した。マッチングアプリ/サイトの利用有無を要因として設定し、1年以内に結婚した既婚者と、結婚意欲のある未婚者のデータを用いてオッズ比を算出すると、3.87となり、前提条件はあるが、「マッチングアプリ/サイトの利用により、結婚確率が3.87倍になる」という結果が得られた。

【調査を踏まえての論考】
 最後に、上記調査結果のまとめを踏まえ、政策への期待を以下に記載する。

①出会い・結婚等に関する教育・セミナー等の充実化
 本調査において、男女間のコミュニケーションの心理的ハードルがさまざまな未婚パターンで課題となっていることが明らかとなった。また、インターネットの普及はもちろんその裏にある若者のライトなアクセスを好む傾向・オンラインでのコミュニケーションへの信頼性向上等やコロナ影響による対面回避などの傾向もみられた。こういった背景から出会い(男女間のコミュニケーション含む)や結婚・コミュニケーション・ライフプラン等に関して学ぶ・考える機会を提供することが重要であると考える。

②非正規や低所得層を中心とした雇用・経済的な支援の強化
 一部の未婚パターンにおいて、所得の低さが結婚に向けた弊害となっていることが明らかとなった。こういった層への支援は従来から幅広くその必要性を主張する声が多く、本調査においてもその必要性が改めて示された。他に比べ要因が明確であることからも着実に取り組むことが期待される。

③官民の柔軟な連携による婚活支援に関する環境整備
 本調査において、未婚者で結婚に向けた活動をしていない層が半数以上を占めた。他方、既婚者調査から実際に結婚している層は積極的に活動をしている層の割合が大きくなっていた。また活動できていない層の要因として、仕事等の環境要因である一面がみられたことから、結婚に向けた活動を支援する機能を社会インフラとして捉える重要性が高まっていると考える。結婚に向けた活動をしやすくする環境整備が求められる。また、本調査ではマッチングアプリにより活動を行っている層が活動している層のうち多くの割合を占めている結果であったが、マッチングアプリによる出会いには一般に安全性等の強化に取り組まれている最中であり、こういった取組を社会全体として官民連携により促進し、安心安全な環境整備を行うことが重要と考える。

④結婚意欲や婚活の実態に関する統計・データの充実
 本調査結果により、従来の公的統計では明らかになっていなかった事実が一定示されたと考える。他方、結婚意欲や婚活の実態に関する政府統計が出生動向基本調査頼みとなっており、さらにその調査の内容も経年分析のしやすさから必ずしも施策検討に利用しやすいものとなっていない。課題解決に向けた結婚支援施策のPDCAサイクルを回すため、その基礎となるデータの作成が求められる。また、出生動向基本調査は5年に1回の実施であり、昨今のような変化のスピードが速い時代に、その取得頻度が適切かどうかの検討が求められる。

【参考文献】
(※1) 厚生労働省「国勢調査」
(※2) 厚生労働省「人口動態統計」
(※3) 本報告詳細資料 P.22
(※4) 本報告詳細資料 P.25-27
(※5) 本報告詳細資料 P.34-35
(※6) 本報告詳細資料 P.47-48
(※7) 本報告詳細資料 P.80-82
(※8) 厚生労働省「出生動向基本調査」

★本報告詳細資料はこちらを参照ください。
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