創発戦略センター ISSUE 359 2017/12/12(火)発行
創発
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 福島県の農業再開で生まれた新たな流通・販売の流れについてご紹介。
 意思のある消費が生産現場を支援する必要性を主張しています。
   1. Yumoto Message

・新段階に入るアベノミクス~「人づくり革命」と「生産性革命」を加速せよ~

   2. 創発Eyes

・海外面的開発における公的支援・関与への期待(1)

   3. 北京便り

・中国における大学生の就職事情

   4. 連載_次世代農業

・次世代農業の“芽”
第6回 福島県の農業再開に伴う次世代農業流通の芽



副理事長
湯元 健治
 

新段階に入るアベノミクス~「人づくり革命」と「生産性革命」を加速せよ~

1. はじめに
 日本経済の回復傾向が一段と鮮明になっている。7~9月期の実質成長率(改定値)は前期比年率2.5%と前期(同2.9%)からやや鈍化したとはいえ、2%台半ばの高めの成長率を続けている。企業業績も安倍政権誕生以降、増収増益基調を続けており、今期も過去最高益を更新する見通しだ。株価も日本経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の改善を好感して、外国人投資家の買いが強まり、2万2000円台後半で底堅い展開が続いている。景気回復期間は、本年11月で60ヵ月と過去最長だった「いざなみ景気(69ヵ月)を抜く可能性が十分にある。
 もちろん、こうした状況は、すべてがアベノミクスの成果によるものではないことに留意が必要だ。景気回復は米国経済を中心とした世界経済の回復、株高も欧米諸国を中心とした世界的株高の恩恵を受けている。雇用情勢が近来にないバブル期に匹敵するほどの改善を示しているのも、政策効果というよりは労働力人口減少という構造的な要因によるところが大きい。他方、アベノミクスがスタートして5年が経過しようとしている中で、なお難しい課題が残されている。

2. 新段階に入り3つの課題をクリアする必要
 第1は、賃金上昇率の弱さである。5年連続2%以上の賃上げとベースアップが実現していることは素直に評価していいが、ベースアップの幅が毎年0.5%前後に止まる中で、全体の賃金上昇率も中々高まらないため、個人消費の回復力は弱いままだ。賃金上昇率が高まらない背景には、様々な構造的要因があり、解決には正規と非正規の賃金格差を是正する労働市場の構造改革が不可欠だ(詳しくは、湯元健治の視点「深刻な人手不足なのに賃金が上がらない5つの理由」(2017.8.8)参照)。

 第2の課題は、潜在成長率が中々高まって来ないことだ。内閣府推計では、一時0.5%を下回るまでに低下していたが、足下では1%程度に回復している。これ自体は良い兆候だが、アベノミクスが目指す実質2%以上の成長を実現するには、少なくとも2%以上への潜在成長率引き上げが必要だ。そのためには、大胆な規制改革を始めとして、外国人労働者の受け入れ拡大やイノベーション、ベンチャー振興など成長戦略の加速が不可欠だ。つまり、少子高齢化や人口減少が進む中で、成長力を高めていくには、生産性の飛躍的な向上が伴う必要がある。安倍政権は、「働き方改革」に加えて、「人づくり革命」と「生産性革命」を主軸に、生産性の引き上げに本格的に着手し始めた。この意味で、アベノミクスは少子高齢化という最大の壁に立ち向かう新たな段階に入りつつあると言える。

 第3の課題は、格差是正だ。これは日本だけの問題ではなく、欧米先進国に共通の課題だ。資本主義は効率的なシステムだが、行き過ぎると格差拡大を助長し、民主主義の原理から政策の大きな揺り戻しが起きることは、欧米諸国の例を見るまでもなく明らかだ。安倍政権は、この問題に対しても税制改正などを通じて対応しようとし始めている。
 本稿では、以上のような問題意識に基づき、(1)12月8日に閣議決定された「2兆円の政策パッケージ」の評価と、(2)2018年度税制改正の評価を交えて、アベノミクスの成功可能性について展望したい。

3. 「人づくり革命」の本丸は無償化ではない
 「2兆円の政策パッケージ」は、「人づくり革命」と「生産性革命」の2本柱から構成されている。まず「人づくり革命」の内容をどう評価すべきだろうか。具体的な施策をみると、幼児教育の無償化、待機児童の解消、高等教育の無償化、私立高等学校の授業料の実質無償化、保育士・介護人材の処遇改善などが盛り込まれている。しかし、筆者の素朴な疑問は、「人づくり革命」という場合、その本丸がどうして保育や教育費の無償化になるのかという点だ。保育・教育の質の改善や今後、グローバル人材やイノベーション人材、IT人材など、今後わが国にとって必要となる人材育成のために、現行の教育制度をいかに変えるべきかという発想や議論こそが、まず、最初に来るべきではないか。教育無償化先にありきでは、単なるバラマキ政策に過ぎなくなる。本来、「人づくり革命」で最優先に取り組むべきは、高等教育の質の強化を促す抜本的な大学・大学院改革と社会人の職業能力を強化する職業訓練、能力開発への公的支出増加だ。これら政策を積極的労働市場政策と呼ぶが、こうした分野への公的支出は、名目GDP対比でわずか0.14%に過ぎず、世界一のスウェーデン(1.27%)の10分の1に過ぎない。
 こうした点については、拙稿「骨太の方針をどう読み解くか」(2017.6.12)で論じているので、詳細はそちらを参照されたいが、敢えて、政府の意図を汲み上げれば、以下のような理由がある。

 第1に、わが国の公的教育支出の対名目GDP比率は、3.4%と主要先進国中最下位であり、国際競争力の源泉となる人材教育にもっと公的資金を投入すべきであるとの考え方だ。ただし、このデータには留意点がある。それは、わが国の場合、少子化が進んでいるため、1人当たりの教育費で比較してみると、順位は最下位などではなくOECD諸国中13位と平均を上回っていることだ。

 第2に、わが国の場合、高等教育については私学が多く、家計の私的負担が大きいことが挙げられる。各種アンケート調査結果では、20代、30代の若い世代が理想と思う数の子どもを持たない理由が「子育てや教育にお金がかかり過ぎるため」とのことであり、保育・教育無償化には少子化対策としての意味があるということだ。しかし、欧州や北欧諸国のように公的教育支出の高い国々はその財源として、高い付加価値税を徴収しており、消費税率や所得税負担が相対的に軽いわが国の場合、家計の負担が税プラス教育費自己負担でみて極端に重いという話にはならないだろう。

 第3は、教育の機会均等を図るという目的だ。家計の教育費負担が重くなれば、低所得の家庭に生まれた子供は高水準の高等教育を受けられなくなり、貧困の連鎖、格差の固定化を招く恐れが強い。東大には金持ちの子しかいけなくなるという事態は、格差拡大を助長しかねない。筆者もこの点には同意する。ただし、(1)支援対象者については、所得基準だけでなく、子どもの意思や学力なども勘案して厳格な支援条件を定める、(2)支援打ち切り条件も厳格化する、(3)支援対象大学等についても、教育・研究レベルが一定以上をクリアする等、厳しい基準を設定するといった措置が不可欠だ。

4. 消費税の使途変更は安定財源とは言えない
 以上のような保育・教育無償化の財源は、消費税率を10%に引き上げた際の使途変更によって賄うこととされている。消費税の使途は、消費税法において、社会保障4経費(年金、医療、介護、少子化対策)に限定されているが、今回の無償化措置は、8%から10%への引き上げによる増収(5兆円強)のうち、1.7兆円を財源とし、3000億円の子ども・子育て拠出金の事業主負担増と合わせ、2兆円が充てられることとなった。
 一見すると、新たな財源を確保した上で無償化を実現するような形を取っているが、本来の社会保障財源がその分減ることとなるため、実質的にはその分国債発行額が増えることと何ら変わりがない。事実、政府は消費税の使途変更により、2020年度の財政健全化目標(プライマリー・バランスの黒字化)が達成不能となったとして、目標年次の先送りを決めている。来年6月の骨太方針(骨太2018)において、「プライマリー黒字化の達成時期や、その裏付けとなる具体的かつ実効性の高い計画を示す」としているが、現時点で先行きを楽観的に見ることは出来ない。社会保障4経費は、2017年度予算ベースで国・地方合わせて39.8兆円に達しており、このうち消費税収でカバーできる部分は47.7%の19兆円に過ぎない。これが、保育・教育無償化でさらに1.7兆円増えて41.5兆円に増える。不足分は消費税率換算で9%に達している。消費税の使途変更は安定財源を確保するものではなく、財政赤字をさらに拡大させるものと言わざるを得ない。

5. 生産性革命を加速せよ
 「2兆円の政策パッケージ」のもう一つの柱である「生産性革命」についてはどうか。政府は2020年度までの3年間を「生産性革命・集中投資期間」と位置付け、「大胆な税制、予算、規制改革などの施策を総動員する」と宣言している。さらに、(1)生産性を過去5年間平均の0.9%から倍増させ年2%向上、(2)2020年度までに16年度対比で設備投資を10%増加、(3)2018年度以降3%以上の賃上げといった極めて意欲的な数値目標を設定している。わずか3年間でこうした目標が達成可能かは未知数と言わざるを得ないが、その意欲は大いに買える。
 具体的施策をみると、賃上げやIT投資促進を税制・予算面から促す中小企業支援策、中小企業の事業承継支援税制の強化、賃上げ、設備投資、人材投資に取り組む企業に対する税負担の思い切った軽減、規制の「サンドボックス」を制度化し、自動走行、ドローンなどの近未来技術の実証実験を加速、健康・医療・介護分野でのデータ利活用基盤の構築やロボット、センサーの活用、官民連携した戦略的イノベーション創造プログラム、大学のイノベーション拠点化、通信インフラの強化、第四次産業革命関連人材の育成等々、多岐に亘る政策が掲げられている。
 これら政策は、いずれも生産性の飛躍的引き上げに不可欠な重要な施策ばかりだが、(1)全体的に総花的印象が強い、(2)詳細の検討を先送りするものも少なくない、(3)財源がどの程度かかるのかも不明なものが多いなど生煮え感を拭えない。わずか3年間で生産性を倍増するならば、早期具体化に向けてアクション・プログラムを策定し、必要な予算・税制上の措置、制度改革の断行を加速していくことが切に望まれる。

6. 税制改正による格差是正効果は不十分
 3つ目の課題である格差是正に関しては、政府は2018年度税制改正の中で、給与所得控除と基礎控除、公的年金控除の見直し等で対応しようとしている。その概要は、以下の通りだ。

(1) 年収850万円未満の人の給与所得控除を10万円引き下げ、年収850万円超(従来は同1000万円超)から控除を頭打ちにし、控除額を220万円から195万円へと25万円引き下げる。
(2) 基礎控除は基本的に10万円引き上げるが、年収2400万円超から逓減させ、2500万円でゼロにする。
(3) 公的年金控除は、給与所得控除の引下げに合わせる形、年金収入1000万円未満で10万円引き下げる。1000万円超の控除額は従来の青天井を見直し、195.5万円で打ち切りにする。
(4) 年金以外の収入がある人は、1000万~2000万円までで控除額を10万円減額、2000万円超の人はさらに10万円減額する。
(5) 以上の結果、年収850万円以下のサラリーマンは増減税ニュートラル、年収850万円超の人は基礎控除の増額幅よりも給与所得控除の減額幅が大きいため、増税となる。高所得の高齢層も増税となる。
(6) ただし、22歳以下の子供がいる家庭、要介護3以上の介護者が同居している家庭は、増税対象から除く。また、サラリーマン以外の自営業主やフリーランスは、基礎控除の引き上げだけとなるため、減税となる。これは働き方の多様化に対応したものだという。
(7) 全体としては、ネットで900億円の増税となる。

 以上の税制改正の効果をどうみるべきだろうか。本改正の本来的狙いは格差是正にあるが、結論を先取りすれば、格差是正効果は小さく、十分な改正措置とは言い難い。その理由は、今回の改正案が所得控除の小幅な見直しに止まっているためだ。欧米諸国では、高所得層にも減税の恩恵が大きい所得控除がわが国と比べて必要最小限に止められており、低所得層に限定する形で、税額控除によって格差是正が図られている国が多く、その効果は大きい。米国、英国など主要国では課税最低限以下の層に対しても給付付き税額控除(マイナスの税還付)という形で給付しているが、わが国の場合は課税最低限を下回る低所得層の格差是正は出来ない仕組みとなっている。また、子供や要介護者のいる家庭に対して、年収がいくら高くても増税しないのは、格差是正という政策目的にそぐわない。本来、子育て支援や介護支援を税制で行うのならば、そうした人たちのうち低所得層に的を絞って税額控除で行うことがグローバル・スタンダードである。さらに、今回の改正では給与所得者を増税している点で、クロヨン問題という不公平税制への対応が図られていないという点でも問題が残る。今回の税制改正は所得税制の抜本改革に向けての第一歩をようやく踏み出した点では一定の評価は出来るが、あるべき改革の未来像を早急に議論し、国民に対して理解を求めていく必要があろう。

        



創発戦略センター
マネジャー
中村 恭一郎
 

海外面的開発における公的支援・関与への期待(1)

 前回に引き続き舞台は海外新興国となりますが、近年、東南アジア諸国で活発になってきた「面的開発」をテーマに、日本企業の参画、それを後押しする公的支援・関与への期待を、今回は取り上げます。

 面的開発とは、点(例:駅開発、個々の不動産開発)の開発や線(例:鉄道とその沿線開発)の開発が複合し、一定の面的な広がり(地理的な広がり)を指向しながら推進される回廊・都市・地域・エリア開発などを指す概念です。近年では、スマートシティー(スマートコミュニティー)やTOD(Transit Oriented Development=公共交通利用を核とする都市・沿線開発)、大規模複合開発(住宅、商業施設等の一体開発等)などの例があります。

 東南アジアでは、一定の経済的発展を遂げたタイやマレーシア、それを追走するインドネシアなどにおいて、単純な宅地開発や工業団地開発ではなくスマートシティー開発を、あるいは公共交通網の整備・再編をきっかけにTOD開発を指向するといった動きが、よく見られるようになりました。

 面的開発は、計画段階から開発完了まで中・長期的に取り組んでいくことが前提となるものです。10年近い期間をかけて、公共交通網の整備と連動しながら開発が進む事業もあります。また、緻密な計画はあっても、土地収用を進め、地盤を改良し、基礎的なインフラを整備する間に、数年が経過してしまうこともしばしばあります。現地政府(国、自治体)と現地民間企業が連携して推進される事業も多く、それぞれのニーズや思惑も複雑です。そのため、一海外企業が単独で参画すること、あるいは参画したとして中心的な役割を果たしていくには常に難しさが伴います。

 こうした背景から、官民が連携し、官による公的支援・関与を常に得ながら、複数の民間企業が協力して開発参入を図るという方法が有効になります。では、どのような公的支援・関与が期待されているでしょうか。残念ながら、この点については未だ実事例に基づく蓄積が十分ではないのが現状です。

 日本総研は、2010年前後から、主にスマートシティー開発を題材として東南アジアや中国での面的開発に取り組み、日本企業の開発参画を支援してきました。私自身も日本と開発現地を行き来しながら複数のプロジェクトに携わって来ましたが、この経験の中で、面的開発において期待される公的支援・関与は次の3つであると考えています。

(1) 現地情報収集における公的支援・関与
(2) 現地との合意形成における公的支援・関与
(3) 開発予算の確保における公的支援・関与

 いずれも、民間企業の力だけでは実現や問題解決が難しいと感じる課題です。

 例えば、「(1)現地情報収集」とは、「一体誰が実権を持って面的開発を推進しているのか、意思決定者は誰なのか」、「開発の裏づけとなる政策や施策は何か」、「現地でどこまで検討が進んでおり、資料はどのようなものがあるのか」といった一見基本的な情報を収集することですが、ここからして困難を伴うのが海外面的開発の特徴です。

 限られた期間の中で成果を挙げることが求められる民間企業にとっては、開発参画の入り口にあたる現地情報収集は、可能な限り効率的、効果的に進めることが必須となります。ここでつまずけば、具体的に開発内容の検討に入る前に時間切れとなり、撤退を余儀なくされることもあり得ます。

 次回から、上述の3つの項目について、それぞれの課題と公的支援・関与への期待を整理していきます。



創発戦略センター
シニアマネジャー
北京諮詢分公司
総経理
王  テイ
 

中国における大学生の就職事情

 いま中国では、来年卒業する大学生の就職活動がスタートする季節です。中国の大学生は、毎年7月に卒業します。そのため、その就職活動は、多くの場合前年の10月や11月から始まるのです。この時期になると、当社でインターンをしている学生からの進路に関する相談が多くなります。公務員になるのか、修士/博士課程に進学するか、または就職するか、迷いながら、他方で親や親戚の「七光り」を利用したり、先輩やクラスメート、友人の意見を聞いたりしながら、徐々に自分の進路を固めていくのが一般的です。彼らの一所懸命さには脱帽します。私が大学を卒業したときと比べて、就職が何十倍も難しくなっていることを実感するからです。

 私が大学卒業した1990年代初頭には、大学生の就職したい順番は、外資企業、民間企業、国営企業、政府機関(当時は公務員試験がなかった)の順だったような気がします。1980年の改革開放以来、外資企業と民間企業は活力があり、自由な雰囲気、給料が高いとの評判で大学生の憧れでした。政府機関の仕事が窮屈だと思う学生は少なくありませんでした。また、当時は学生数が少なかったため、就職はそれほど難しいことではありませんでした。田舎から出てきた学生でも都市戸籍を簡単に取得できていました。

 しかし、現在、中国の大学生にとって、外国語を勉強する一部の学生を除き、外資企業はあまり人気がありません。仕事の難易度が高く、評価が厳しい一方、給料と福利厚生については国営企業や民営企業と比べて大きな差がないと見られているからです。そのため、政府機関、国営企業の人気度が近年高いのです。
 11月8日に、2018年度国家公務員採用試験(中央機関および直属機構考試任用公務員試験)の出願が終了しました。出願を果たし、かつ足切り審査を合格した人の数は165万9700人で、昨年より17万人増となりました。募集人員が2.85万人に対して、58倍の競争倍率です。中国の国家公務員試験は職種別に募集が行われるため、人気の職種の倍率では2000倍以上のケースもあります。一方、まったく出願なしの職種もあります。腐敗撲滅といった公務員に対する管理が厳しくなる中でも、仕事が安定的で、ステータスもあるという理由から公務員を目指す若者は少なくないのです。今回の出願数が史上最多となった背景でしょう。

 とはいえ、中国の経済・社会発展に影響され、大学生の就職事情に微妙な変化も見え始めています。
 転職率も高くなりつつあります。2016年、中国の調査機関が調べたところ、就職して半年後の転職経験率が30%に達しているといいます。親元を離れ、大都市に出て就職する若者は、高い住宅値段、生活コストをカバーする「給与や福利厚生」を重視せざるを得ません。少しでも条件の良い就職先を求めて、流動性が高まっている状況がうかがえます。

 それでも、大都会で、一流企業、政府部門に就職したいという風潮が強いのは上述したとおりですが、一方で、最近になり後進地域での就職を希望する学生数が増えているといいます。「大学生村長」、「支教」(後進地域の学校の先生)などが代表的です。その原因は、激しい就職競争の中で、多くの学生が自分の居場所、やりたいことなどもっと明確にしないといけないと考えて始めているからでしょう。ある就職動機についてのアンケートを見ると、「自己実現」を動機と回答する人が30%超になっています。
 2015年以後の卒業生で見ると、自ら起業する人も増えたそうです。2016年に約6%の学生が卒業して就職せず、自ら会社を立ち上げています。ただ、自ら起業した人は3年後、約半分が失敗するとの統計があります。

 2017年の中国の現役大学卒業生の数は795万人です。今後、さらに増え続けるとの予測です。中国経済の減速に伴い、大学生の就職競争はさらに厳しくなるでしょう。いかに社会発展に必要な人材になるのか、理想な就職先を見つけるのか、大学生にとって真剣に考えなければならない季節なのです。



リサーチ・コンサルティング
部門
マネジャー
古賀 啓一
 

次世代農業の“芽”
第6回 福島県の農業再開に伴う次世代農業流通の芽

 原子力発電所事故を起こした東日本大震災から6年が経ち、福島県では徐々に避難指示が解除されています。農業に目を向けると、南相馬市、広野町、川内村および田村市の約2,700haで米の作付けが本格的に再開しているとされ(平成29年9月末時点)、生産現場ではさまざまな挑戦が進められています。本稿では、福島県下で営農再開に伴い生まれた流通・販売の新たな流れに焦点を当て、生産者と消費者の農産物を介したつながり方を考察します。

 福島県では営農再開に至るまで、例えば米であれば、除染後農地での試験栽培を経て安全が確認された上で作付け再開に向けた実証栽培を行い、本格生産へと移行していきます。本格生産後も全量全袋検査を通じて生産物の安全性を担保しており、2016年も基準値超過はありませんでした。米以外の果樹や野菜についても非破壊検査技術の導入によって確認がなされており、福島県で生産された農産物は、現在国内で最も科学的に高い安全性を確保しているといえるのではないでしょうか。

 通常であれば、こうした科学的な根拠に基づく安全性の高さは農産物の付加価値につながります。適正な使用であれば食品としての安全性が担保される農薬や化学肥料であっても、使用量を低減した特別栽培、無農薬・無化学肥料、有機といった栽培方法を謳うことでより高い安全性を訴求し付加価値を高めることができています。福島県産の農産物の場合、原発事故に伴う風評被害から消費者に安心が広がっておらず、付加価値として十分認識が広がっていません。こうした状況の打開に向け、流通面での挑戦が始まっています。

 2017年4月、アイリスオーヤマが避難指示解除直後の南相馬市小高区で、米の作付けなどの営農再開支援に取り組むことが報じられました。同社が出資する舞台ファームは「赤ちゃんが食べても安心・安全な食品を農場から食卓へ」というビジョンを掲げており、自社精米工場での安全検査のほか、アイリスグループによるパック詰めのごはんなどを通じて事業を展開するとしています。福島県内では他にも同社の事業方針に賛同し合流していこうとする動きが見られ、企業グループが持つブランドを通じて、消費者の安心を喚起しています。

 大手に頼らず、自ら付加価値を訴求して販売につなげる個別の取り組みも見られます。既存流通に頼らず、特別栽培米や合鴨農法といった付加価値をネットや口コミを通じて個別に販売しているのです。それぞれは小規模な流通ですが、震災前からの縁が継続されていたり、ふるさと納税の返礼品を通じてつながったり、と消費者の意思ある消費行動が伴っている点が特徴です。生産者の側でもこうした意思を引き出すため、定期的な情報発信や農業体験等のイベント等を通じて生産現場との関係を強固にするような取り組みを進めています。

 そして、大手企業と個人生産者による流通の中間、中規模流通を作る動きも始まっています。「ふくしまベンチャーアワード2015」で最優秀賞を受賞したコンセプト・ヴィレッジは、福島と東京の架け橋となることをめざし、生産者の想いを伝える仕組みづくりと実際の流通に取り組んでいます。多様な品目・生産者との間で実績を重ねており、意思ある消費者に効果的にアプローチするための生産者のパートナーとして、取り組みが拡大していくことが期待されます。

 ここまで紹介した大・中・小の流通の挑戦は生産者と消費者にとってどのような意味を持つのでしょうか。

 生産者にとっては、経営判断によって事業を拡大できる機会が増えているといえます。全国的にも高齢化が進む中で農業の担い手の集約が進みつつありますが、福島県では営農再開を希望しない生産者もいることから、急速に集約が進められています。そして、少人数の担い手が持続的に営農を行うために、法人化し雇用を通じた企業的な体制を構築する必要があり、法人経営の視点から販路の選択ができる状況は望ましいといえます。不幸な事故で既存の売り方では売上を得難くなった一方、販路として期待される先が明確化されたことで、販路に合わせた生産面での工夫を行い付加価値の向上を図る、次世代の農業経営者が育つ土壌が整いつつあるともいえるのではないでしょうか。

 消費者にとっては、自らが口にする農産物について知見を深め、望ましい社会に向けた意思ある消費の機会が増えているといえます。これまでも、例えば兵庫県豊岡市で取り組まれている「コウノトリ育むお米」のようなコンセプトを持った農産品は存在していました。「コウノトリ育むお米」の例では、野生復帰したコウノトリが住みやすい環境作りを推進するために農薬や化学肥料を使用しないという生産者の取り組みに、消費行動を通じて賛同することができます。福島県の農産物についても、多様な販路を通じて想いに触れることから「食べて応援する」ことが可能となりつつあります。

 上述のコウノトリの事例では、2017年4月、豊岡市から徳島県鳴門市に飛来したつがいが新たに営巣、ひなが誕生したとの報道がありました。鳴門市では、豊岡市と同様のエコな農業をアピールしていくとしています。意思のある消費が生産現場を支援し、その想いが他の地域にも波及していく好例といえるでしょう。福島県下の農産物も同様に、意思のある消費が支え発展していくことができるのではないでしょうか。営農再開に取り組む生産現場の想いを流通が伝え、消費者もまた想いを伝えることで相互に価値を獲得していく、双方向の農業流通の発展の芽が育つことを期待します。

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